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第二章 ~『暇な時間つぶし』~


 数日後、アリアは客間で天井を見上げながらも、どこか落ち着かずにいた。


 元々過労死寸前まで働いていたせいもあり、仕事がないことが辛くなってきたのだ。定年後に裕福な高齢者がなぜ働くのか、今まで理解できずにいたが、その気持ちをアリアはしみじみと実感できるようになっていた。


(屋敷内の体調が悪い人はすべて治してしまいましたからね)


 庭師の老人を癒したことで、自分の貢献の仕方を見出したつもりだったが、治療がすぐ終わることと、病人の数が少ないために、仕事はもう尽きてしまった。


(こんな時は……友人を頼るとしましょうか)


 リンも屋敷の客間を与えられ、衣食住に困っていない。彼女ならば、この暇な時間をどう過ごすのか。


 参考にしたいと考え、廊下を跨いで正面のリンが滞在している客間を訪れる。呼びかけると、彼女は襖を開いて出迎えてくれる。


「こんな朝早くにどうしたの?」


 リンは身支度を整えていた。いつもの和装に加え、背嚢を背負っている。


「どこかへ出かけるのですか?」

「武術の腕が鈍らないように、修行しに行くの。ほら、帝都の外には魔物が生息しているでしょ。良い練習台になると思って……それで、私に何か用事かしら?」

「いえ、聞きたいことは聞けましたから」

「ん? そうなの?」


 リンは怠惰な日常を過ごしているわけではなかった。彼女なりに目標に向かって努力していたのだ。


「なら私は行くわね。夜までには戻るから」


 そう言い残して、リンは去ってしまう。急いでいるのは、修行の時間を少しでも長く捻出するためだろう。


(魔物退治ですか……私もお金を稼ぐためにやってみるのは悪くないですね)


 魔物を倒せば、報奨金が与えられる。冒険者の中には、その金で生活している者がいるほど高額になる場合もある。


 アリアは貯金をしているが、裕福とはいえない。資金に余裕を生み出すためにも、魔物退治は魅力的に感じた。


(覚悟を決めれば、後は行動あるのみですね)


 続くようにアリアは屋敷を後にする。そのまま帝都の出入り口である城門へと向かった。


 基本的に、帝都はこの城門を通る以外に出入口はない。魔物の脅威から市民を守るために、帝都の周囲を外壁で覆っているからだ。


 屋敷から徒歩で数十分、城門にはすぐに辿り着く。門番の男性は、近づいてくるアリアに気づくと、目を大きく見開いた。


(あの驚き方、まさか、この人も私が聖女だと知っているのでしょうか)


 噂はどこまで広まっているのかと恥ずかしさを覚えていると、門番は予想外の反応を返してきた。


「今日は変な日だな。まさか若い女性が二人も城門の外に出ようとするなんてな」

「一人目はリン様ですね」

「知り合いか?」

「友人です」

「類は友を呼ぶってことか」


 わざわざ危険な魔物の巣窟に、女性が単身で向かおうとするのは、彼の中では命知らずな行為なのだろう。


 だがアリアの意思が固いと感じ取ったのか、止める資格もないため門を開けてくれる。


「危険だと思ったらすぐに戻って来いよ」

「ふふ、あなたは優しいですね」

「命は尊重する主義でな。それに客に死なれると困るからな」

「お客ですか?」

「通行料は銀貨一枚だ」

「なるほど。無料ではないのですね」


 人件費が掛かっている以上、通行料は仕方のないことだ。


 革袋から銀貨を取り出し、外壁の外に出る。そこには見晴らしの良い草原が広がっていた。左右には森があり、遠くには雪山も伺える。


(冒険の始まりですね)


 アリアは手を振る門番に頭を下げて出発する。穏やかな風に髪を靡かせながら草原を進む足取りは軽いのだった。


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