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第二章 ~『カイトの不安★カイト視点』~


~『カイト視点』~


 客間を後にしたシン皇子の足取りは軽い。そんな主人の態度が面白くないのか、カイトは愛想の悪い顔をさらに悪くしていた。


「皇子は随分と上機嫌ですね」

「師匠に会えたのだからな。当然だろう」

「慕っていたのは知っていましたが、まさかあれほどとは思いませんでしたよ」


 副官のカイトはシンの傍にいることが多いため、再会する前から、アリアとの過去の思い出話をうんざりするほど聞かされていた。


 おかげで、シンがかつての師を慕っていることは知っていた。だがその感情がこれほどとは想像していなかったのだ。


「カイトに師匠を紹介できてよかった。素晴らしい人だったろ?」

「ええ。聖女の癒しの力は我が領地の役に立つでしょうからね」

「馬鹿者、師匠を利用するような言動は私が許さないぞ」


 冗談交じりの口調だが眼が笑っていない。こういう時の彼は本気である。


「……皇子が女性にここまで肩入れするなんて珍しいですね」

「仕方ないだろ。なにせ私の初恋の女性だからな」


 変わらない美貌に再会した時は驚いたものだとシンは続ける。カイトは主人らしくない言動に辟易するが、すぐにいつもの平静さを取り戻した。


「まぁいいでしょう。いずれ世継ぎは必要です。前向きに捉えれば女性に興味を持つのは悪いことではありませんから……ですが、入れ込みすぎるのは駄目です。あなたは次期皇帝を目指すお方。色恋に寄り道をしている暇はありませんから」

「分かっているさ。それに過去の私は異性として意識していたが、今の私の感情は恋とは違う」

「ならいったい……」

「もっと崇高な……そう、家族愛さ!」


 血の繋がりはないが、幼少の頃に共に育った経験から彼女を本物の家族のように慕っているのだと、シンは続ける。


「私は家族から疎まれて育ったからな。だから私に初めて愛情を注いでくれた師匠は特別な人なのだ」

「皇子……」

「ただ今ではカイトを含め家臣たち皆が大切な家族だ。私が皇帝となり、お前たちを幸せにする務めを忘れるつもりはない。だから安心して欲しい」


 その言葉は噓偽りのない本心だ。だからこそカイトの心に響く。第八皇子という不利な立場にいる彼に仕えているのは、カイトもまたシンのことを家族のように大切に想っているからだった。


「私は皇子に仕えたことを後悔していませんから」

「私もだ。カイトが家臣でいてくれるおかげで、いつも助けられているよ」


 二人の間には損得勘定を超えた固い絆が結ばれている。事実、カイトは他の皇子からスカウトを受けたこともある。


 しかしカイトはその誘いをすべて断っていた。シンに忠誠を誓い、彼の障害を排除するためならどんな手でも使うつもりだった。


(もし聖女が皇子の邪魔になる日がくれば、その時は私が……)


 最悪の事態に陥った時、カイトはすべての泥を被る覚悟を決めていた。腰に提げた刀をアリアに向ける日が来ないことを祈りつつ、彼らは魔物退治へと出かけるのだった。



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