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第一章 ~『旅路の終わり』~


 海上を走る列車がスピードを緩め、汽笛の音を鳴らす。車窓の外ではカモメが空を飛び、陸地の輪郭も薄っすらと見えていた。


「そろそろ到着ですね」

「上陸するのが楽しみねね」


 旅の時間で二人は会話を重ね、まるで竹馬の友のように心を通わせていた。気を遣うことのない友人は貴重なため、アリアはリンに感謝していた。


「アリアは帝都に着いたら最初に何をするの?」

「まずは観光がしたいですね。忙しくて、貯金ばかりしていたせいで、お金はありますから」

「そんなに聖女の仕事は多忙だったの?」

「休みが二日しかありませんでしたから」

「週休二日なら普通じゃない?」

「いえ、年に休みが二日でした……」

「ごめんなさい。私が間違っていたわ」


 年始と年末の二日だけは休みを与えられたが、それ以外は誕生日でも休みなしだった。しかも一日あたりの労働時間も長い。よく過労で倒れなかったと自分を褒めてやりたいくらいだ。


「アリアはしばらく働く必要はなさそうね」

「数か月くらいなら無職でも暮らせますね。でもそれ以上は無理です。なにせ聖女のお仕事は、給金も最悪でしたから」


 アリアの聖女としての給与は月に金貨十枚。王国の平均的な賃金が金貨二十枚のため、お世辞にも裕福とはいえない。


 王宮での生活のおかげで家賃と食費が不要なため暮らせていたが、豪快に散財できるほどの蓄えはない。


「王国って案外ケチなのね」

「いえ、ケチなのは王国ではなく、私の元婚約者のハインリヒ公爵です」

「どういうこと?」

「聖女の給料は、国から公爵に支給され、その後、私に渡ってくるのです。公爵様は王宮で生活費がかからないのだから賃金は少なくていいだろうと、私の給料を中抜きしていたんです」


 しかもハインリヒ公爵はアリアから奪った金で豪遊していた。夜遊びの噂も絶え間なく耳に届くほどだった。


「最低の男ね。私が一緒なら懲らしめてやったのに」

「きっとこれから罰は下りますよ。なにせ妹と結婚するのですから」


 お互いに我儘な性格な二人だ。関係性が長続きするとは思えない。いずれ別れた時に、きっとアリアを捨てたことを後悔するはずだ。それを想うと、胸の中がスカッとして、晴れやかな気持ちになる。


「どちらにしろ、もう終わった話です。大切なのはこれからのことですから」

「前向きなのね」

「それだけが取り柄ですから。それで、リン様は皇国に到着したら何をするつもりですか?」

「私はまず皇国で魔物を倒して実績を作るわ。そして皇子に仕官して、高給取りになるの」

「立派な夢ですね」

「でも最初はアリアに付き合うわよ。帝都のどこを観光するの?」

「それは着いてからのお楽しみです♪」


 アリアの言葉に応えるように、列車は動きを完全に止める。窓の外の景色も静止していた。彼女たちは長い旅路を終え、皇国へと辿り着いたのだった。



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