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第二章 ~『オークとシンの実力』~


 近づいてくるオークの群れは少なく見積もっても十体はいる。緑肌はゴブリンを想起させるが、豚顔の巨体は比較にならないほど大きい。


 相手はランクEの怪物だ。ゴブリンのように簡単に倒せる相手ではない。


 もちろんギンならば一対一の闘いで後れを取ることはない。しかし相手は複数だ。多勢に無勢という言葉もあるため、行動には慎重さが求められる。


「グギギギギッ」


 最も体躯の大きなオークが雄叫びをあげる。群れのリーダーなのか、他のオークを従わせているように見えた。


「勝ち筋が見えましたね、ギン様」


 個々が独立して動いている場合と違い、リーダー役がいるなら、頭を潰せば組織は瓦解する。


「ギン様、行きますよ」


 アリアの意図を感じ取ったのか、ギンはリーダー役のオークに飛び掛かる。首筋に牙を突き立て、一撃で命を奪う。魔素が霧散し、緑の大粒の魔石だけが残される。


 リーダーが魔石へと変化したことで、手下のオークたちに困惑が生まれる。その隙を逃さず、アリアは落ちている魔石を拾い、魔力を流し込む。


 回復魔術でオークを蘇生させ、アリアの従順な召喚獣とする。


 これで戦況は2対9だ。まだまだ不利な状況だが、アリアは将棋のように倒した相手を奪うことができる。時間は彼女に味方していた。


「ギン様、ガンガン攻めましょう」


 オークを一体、また一体と打ち倒していく。数を徐々に減らしていくオークたちは、残り二体となったところで、勝てないと悟ったのか、退却を始める。


「逃がしませんから!」


 オークは行商人を襲い、食料品を奪うことも多い。このまま逃がしたら、人に害をなすかもしれない。


 かならず仕留めると決めて、ギンにその背中を追わせる。ギンの爪がオークの背中に突き刺さり、魔石へと変わる。


(残りは一体ですね)


 最後のオークは森の茂みの中へと逃げ込む。見失うと、後を追うのが困難だ。


「ギン様、背中に失礼します」


 アリアはギンの背に飛び乗って、オークを追いかける。駿馬よりも速い動きにすぐに追いつけると安心するが、ギンは森に足を踏み入れたところで、そのスピードを減速させる。


「ギン様、どうかしましたか?」


 ギンは牙を剥き出しにして警戒していた。オークに対する反応ではない。強者を恐れるような反応だった。


「ゆっくりと進みましょうか」


 ギンと共に足音を殺して茂みを切り分けていく。するとオークの緑肌を発見する。アリアは見つからないように姿を隠しながら遠目で様子を伺う。


(いったい、あのオークはなにをしているのでしょう)


 オークは立ち止まって雄叫びをあげていた。注意深く観察すると、その威嚇の矛先は一人の青年に向けられていると気づく。その青年とは黒髪黒目の見知った顔であり、彼女の元弟子であるシン皇子だった。


(でもどうしてシン様が一人でいるのでしょうか?)


 魔物狩りでここにいるとは察しがついたが、シンは護衛と共に出かけたはずだ。もしかしたら仲間たちと逸れたのかもしれないと心配になるが、彼の余裕の笑みで杞憂だと気づかされる。


 シンは腰から刀を抜いた状態で、上段に構える。肉体から放たれる魔力は実力者のそれであり、彼と比べれば護衛は足手纏いにしかならないと証明しているかのようだった。


(シン様も成長しましたね……領内一の剣士というのも真実のようですね)


 助けに入る必要もない。シンの実力ならば万が一にも敗北は起こりえないからだ。


 彼が上段に構えた刀を振り下ろすと、魔力の刃がオークを袈裟斬りにした。たった一撃で、オークは膝から崩れ落ち、魔石へと変化する。


 汗一つかかずに、オークを倒したシンに心の中で拍手を送る。


「ふふ、見ましたか、ギン様。あの子を育てた師匠は私なんですよ♪」


 ギンに小さな声で自慢する。主人の喜びは召喚獣にとっても嬉しいのか、尻尾を振ってこたえてくれた。


 闘いを盗み見ていたと知られるのは、なんだか気まずいため、こっそりとその場を後にする。今日のアリアはいつも以上に上機嫌なのだった。

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