ウォルト侯爵家にて
ー数日後ー
「はあ…」
ひとりサロンでお茶をしていた彼女は盛大に溜息を漏らす。
「エリーゼお嬢様、どうなさいましたか?」
お付きのメイドのカレンが心配そうに声をかける。
「うん…あのね…」
彼女はハルトに告白されたことを話して、今度マリアたちと観劇したり、お茶をしたりする約束をしたことも伝えた。
「まあ!シールズ小公爵様から!小公爵様はお目が高いですわ!」
「私なんかのどこが好きなのか皆目見当つかないもの…
昔はお金しか取り柄がないって言われたこともあったもの…ねえ、カレン。私の取り柄って何だと思う…?」
「お嬢様?なんかではありません。お嬢様は、その天真爛漫な笑顔で周りの空気を明るくできるところが素敵だと、私は思っておりました。
実は私、街で食材や日用品の購入はお嬢様のご実家の商会でしていました。」
「まあ!だから、なんとなくだけれどカレンを見たことがあったのかしら。」
「そうかもしれません。
いつもお店へ行くと、貴女様の笑顔にとても癒やされていたのですよ?本当のご両親がお亡くなりになったと伺ったときはまだまだお若い貴女様が落ち込んでいるのではないかと、心配しておりました。ですが、少しして、貴女様は従業員を引き連れて、お店へ戻ってきた。しかも、またあの笑顔をお客様へ見せてくださった。
他のお客様もお嬢様が元気に笑顔で店に立っている姿をみて、安堵していたのですよ?」
「私、お客様のお役に立ててたの?」
「はい。エリーゼ様の笑顔は皆を明るくするのです。自信を持ってください。」
「ありがとう…カレン…。」
「いいえ。」
「あそこにはもうガレント商会はないけれど、貴女みたいに、両親や私の働きぶりを覚えていてくれる人がいるだけでとても嬉しい!やってて良かったって思えるわ!」
「ふふ。お嬢様、お茶が冷めてしまいましたね。新しく淹れて参ります。」
「ありがとう。お願いね。」
「畏まりました。」
「エリーゼお嬢様、失礼します。お嬢様宛てにお手紙でございます。」
執事が持ってきた手紙を受け取る。綺麗な字で彼女の名前が書いてある。ひっくり返し、封蝋を見る。
「わあ!綺麗な封蝋ね。」
「シールズ公爵家の紋にございますね。」
「ハルト様からだわ…。」
彼女の胸はドキドキした。
(誰かに手紙をもらうのは久しぶりね。それに侯爵家に来てから私的な手紙は初めてだわ。)
「ありがとう。手紙は部屋で読みたいから、カレンにそちらにお茶を持ってきて。と伝えてくれる?」
「畏まりました。お嬢様。」
私室へ戻り、緊張しながら手紙を開封する。宛名と同様に綺麗で読みやすい字で書かれていた。
(これを書いているとき、ハルト様は何を考えていたのかしら?
貴方様の顔が頭から離れませんわ…)
エリーゼの体調を気遣う内容だけかと思えば、
今日はこんなことがあった。とか私は何が好きなのか質問してみたり。
「ハルト様にお返事書かなくてわ。私も何を質問してみようかしら…?何がいいかしら?」
彼女は便箋を用意してもらい、いろいろ考えながらペンを走らせるのだった。