フラッシュバック
お茶会も終盤になり、暇する者も増えた。そんなときに、マリアとサイクスがどうしても外せない用事ができて、エリーゼがひとりになる時間が
できてしまった…
そしてマリアとサイクスと入れ替わるように令嬢たちが押し寄せてきたのだ。
「ちょっと貴女!」
「あっ…」
彼女は既視感を覚えた…。
エリーゼを呼んだのは昔、彼女を噴水へ突き飛ばした令嬢だと気づいた。
「あ、貴女は…あの…時の…」
「貴女、子爵令嬢の分際で、何様なの!?
どうやってウォルト侯爵令嬢とコリンズ侯爵令息に取り入ったの?
そもそも、どうやって公爵家のお茶会へ?どれだけ大金を積んだのかしら?ああ、賤しいわ!
そうだわ!また噴水にでも突き落としてあげるわ?そんな綺麗なドレス、貴女には似合わないもの!」
他の令嬢たちも同調している。
「わ、私はそんな…あの時だって、違うって!」
「子爵令嬢のくせにこの私に意見するつもり!?」
「そうよ!私たちは伯爵家の令嬢なのよ?」
「貴女、自分の立場が…」
「君たち、何してるの…?」
「「シールズ様!?」」
ハルトが彼女と令嬢の間に入り、背に匿う。
「ねえ、エリーゼ、この令嬢たちは君にちゃんと挨拶したの?」
「「えっ?」」
ハルトが訊いた言葉を理解できなかった
令嬢たちは驚いている。
「まだお披露目はされていないけれど、この子はウォルト侯爵令嬢だ。君たちのほうが爵位は下だよね?」
「そ、そんな子が侯爵令嬢!?」
「そ、そんなはずありませんわ!シールズ様、騙されてはいませんか?この子は賤しい商会の娘ですわ!」
「本日参加している私の友人である、マリア嬢の妹だ。」
「そ、そんな…」
「そもそも、君たちの発言は淑女教育をした令嬢とは思えない。教育をやり直したほうが家のためではないか?このことは、君たちの家へ抗議の文書を送るよ。」
「そ、それだけは…」
「しゃ、謝罪いたします!」
「も、申し訳ありません!」
令嬢たちはハルトに頭を下げて謝罪する。
「謝罪する相手、違うでしょ?」
「…ウォルト侯爵令嬢、非礼をお赦しください…」
「私たちが浅はかでした…お赦しください…」
令嬢たちの謝罪を聞いてから、ハルトが彼女を見る。
(そうだ、今の私は侯爵令嬢なんだ…。)
エリーゼは気合いを入れ、背筋を伸ばした。
「謝罪を受け入れます。二度と私に関わらないよう、願いします。」
令嬢たちは「はい、申し訳ありませんでした。」ともう一度頭を下げて帰っていった。
「エリーゼ、大丈夫かい?」
先程、令嬢たちに対しての口調ではなく優しい口調で心配してくれるハルト。
「は…い…」
「ごめん…来るの遅くなって。」
「い…いえ…
ただ…ちょっと…怖かった…だけ…なので…。」
「サイクスから君がひとりになると聞いて、急いできたんだが…。」
「ありがとう…ございます…。」
ハルトは彼女の手を取った。
「大丈夫。もう昔の君ではないよ。私は君の味方だ。サイクスやマリア嬢だって。」
ハルトの手が冷たくなった手を温める。
「「エリーゼ!!」」
マリアとサイクスがふたりの元へやってきた。
「リゼ、顔色が…」
マリアは心配して声が震えている。
「すまない…俺たちが離れたばかりに…」
サイクスは本当に申し訳なさそうな表情をする。
「サイクス、マリア嬢、私の到着が遅れたせいだ…すまない…」
ハルトも彼女を気遣っていた。