お茶会へ
家族と姉の婚約者と晩餐を共にしてから少し経った頃。
「お茶…会…に…?」
侯爵家のしかもまだお披露目もしていない彼女宛てにお茶会の招待状が届いたのだ。もちろん、マリアの分もあるが。
「リゼも、そろそろ高位貴族のお茶会へ参加してもいい頃かと旦那様やマリアと話していたのよ?」
「…」
「やっぱり、不安?」
「は…い…」
彼女がお茶会に対して不安を抱く理由…
それは、以前参加したお茶会での出来事がきっかけだった。
ーお茶会デビューしたての頃ー
彼女は商会の経営状況がとてもよく、子爵家にしてはとても裕福な家庭だった。
融資目当てで、彼女への婚約話は多かったが彼女は商会の跡取りなので、両親は何とか断りをいれていたらしい。
そんなときに父と母と三人でお茶会へ参加したときだった。
彼女は同年代の貴族の令嬢から嫌がらせを受けたのだ。
なんでも、ひとりの令嬢の婚約者がお金目当てで、エリーゼと結婚したいから、別れて欲しいと言われたと…
全く身に覚えがないことに困惑した彼女は、私は知らない!と言ったが、聞き入れてもらえず、
噴水に突き飛ばされてしまったのだ。
そのときの令嬢の憎悪に満ちた表情は恐怖でしかなく、それ以降エリーゼはお茶会に参加できなくなった。
「もう、貴女は子爵令嬢ではないし、どうかしら…?」
夫人は心配そうに見つめる。
「お姉様が一緒なら…」
「そう。よかったわ。大丈夫よ。マリアが側にいるから。」
「はい…お母様。」
ー茶会当日ー
「素敵なお屋敷…。」
「そうでしょう。歴史があるお屋敷で
当主様のお気に入りなんですって。」
到着したのは、シールズ公爵家である。公爵子息はマリアとサイクスの友人である。
緊張していたはずなのに、素敵な屋敷を見て興奮している彼女にマリアは微笑む。
「マリア嬢、ようこそお出でくださいました。」
そんなときにひとりの男性がこちらへ向かってきた。
「小公爵様、ご機嫌よう。」
小公爵と呼ばれた男性は軽く礼をした。
「そちらがサイクスと君が言っていた妹君?」
「はい、そうですわ。エリーゼ、ご挨拶なさい。」
「初めてお目にかかります。エリーゼ=ウォルトと申します。」
緊張しながらカーテシーをする。
「はじめまして。私はハルト=シールズ。君の姉君とサイクスとは幼馴染みたいなもので仲良くしているんだ。
突然だが、エリーゼと呼んでもいいかい?」
「はい。シールズ様。」
「ありがとう。エリーゼ嬢。私のこともハルトと呼んでくれないか?」
「いいえ!畏れ多いです…。」
エリーゼはマリアをちらり見る。
「エリーゼ、ハルト様とお呼びしていいのよ?私も私的な場所ではハルト様と呼んでいるから。
サイクス様がそう呼んでいるから、お許しいただいてるの。公の場では勘違いされないためにシールズ様とか小公爵様と呼んでいるわ。」
マリアは安心させるために彼女へ笑顔を見せる。
「では、ハルト様とお呼びしますね。」
「ありがとう。さてサイクスが
待ちくたびれてるから向かおうか?」
「そうですわね。」
「はい。お願いいたします。」
「サイクス様、お待たせしましたわ。」
席へ着くとサイクスがマリアに笑顔を向けて待っていた。
「マリア、待っていたよ。エリーゼも久しぶりだね。」
「はい。サイクスお義兄様。」
「サイクス、お前エリーゼ嬢にお義兄様なんて呼ばれてるのか?」
「そうだが?事実だからな。」
「ふうーん。」
「何だよ?」
「別に。マリア嬢、エリーゼ嬢。是非楽しんでいってください。」