危機一髪?
日が暮れるので、ウォルト家へ戻るため馬車へ乗り込む。
行きと違うのは、エリーゼとハルトが向かい合わせではなく隣同士で座ったことだ。
「あの、ハルト様?」
「どうかしたかい?」
隣は隣でも距離が近く、密着した状態だ。だからエリーゼはドキドキしている。
「あ、あの近すぎて…その…」
「んー。じゃあ、これから俺のことをハルって呼んでくれて、俺はリゼって呼んでもいいなら少しだけ離れるよ。あと、敬語もなし!」
「…断れないの分かってますよね?」
「ダメかい?」
「はあ…わかったわ。ハル。」
「ありがとう。リゼに呼ばれるの嬉しい。
じゃあ、少しだけ離れるよ。」
彼は拳一つ分だけ離れる。
「こ、これだけですか…?」
「リゼ、敬語。少しだけって言ったでしょ?これ以上は離れたくない。」
「あう…」
ウォルト家へ着くまでそのままだった。
「おかえりなさいませ。お嬢様。」
「ただいま。ハル…ト様、本日はありがとうございます。とても楽しかったです。」
「シールズ小公爵様、旦那様がお嬢様と執務室へ。とのことです。」
「お父様が?」
「侯爵が私に用事ということだね。案内を頼む。リゼ行こうか?」
エリーゼはハルトが差し出した手をとり侯爵の執務室へ向かった。
リゼと呼んでいるハルトを目撃した使用人たちは心の中で「やっとか…」と思っていた。
「旦那様、小公爵様とお嬢様をお連れいたしました。」
「どうぞ。」
執務室へ入ると侯爵と侯爵夫人が待っていた。
「お待たせしました。」
「お父様、お母様、ただ今戻りました。」
エリーゼとハルトはソファに座る。
「さて、小公爵。その表情は娘から返事を貰えたということでいいですかな?」
「はい。ウォルト侯爵。先程、エリーゼ嬢から返事をいただきました。」
「リゼちゃん、おめでとう。」
「お母様、ありがとうございます…。」
「では、近いうちにシールズ公爵邸に…」
「いえ。我が家からウォルト家へ参ります。そのときに手続きを。」
「あら?そうしたら、その日は晩餐会を開きましょうよ。」
「夫人、それはいい案ですね。」
「では、日程を調整をしましょう。エリーゼは一日出掛けて疲れただろ?先に部屋に戻っていなさい。
また小公爵が帰るときに声をかけよう。」
「分かりました。失礼します。」
エリーゼが部屋を出る。
「小公爵、やっと…ですね。話しがあってから、早一年以上。実は王家から縁談の話しをもらいそうだったのですよ…」
「それは本当ですか!?」
「ええ。第三王子殿下の妃にと。リゼちゃんと殿下は年齢が近いですから。」
「しかし、国王には小公爵の気持ちを告げさせてもらいましたよ。時間稼ぎで。もう少し、時間がかかったら、危なかったです。」
「良かった…侯爵、夫人、ありがとうございます。」
「私たちは娘の意見を尊重したまでですわ。」
「可愛い娘を政略の道具だなんて考えたことはありませんから。娘を妃にしなくとも、国王に忠誠は誓っております。」
ハルトは侯爵と夫人と婚約に関する手続きをいつするのか話し合いをするのだった。