兄の真実を知る
「どうして、ハルト様がここに!?」
「おい!誰だ貴様はっ!?」
ハルトが護衛と共にエリーゼの近くへ歩み寄った。
「エリーゼ、こんにちは。」
「ご、ご機嫌よう。ハルト様。」
「オリバー=ガレント、いや…今はただのオリバーだな。貴様は今や貴族ではない。平民が侯爵令嬢や私に対してその口の利き方はいただけない。こいつを連れて…」
「ハルト様、お待ちください。」
「エリーゼ?」
「あの、こんなのでも私の唯一の肉親なのです…少しだけ話しを…」
「エリーゼ…ごめんね。それは出来ない。」
「ど、どうしてです…?」
「君の兄…だったオリバーは犯罪者だ。もう、君とは住む世界が…」
「お、お兄ちゃんが犯罪を…」
「連れていけ!」
「はい!」
オリバーが連れていかれる背中をみながら、エリーゼは動揺している。
「エリーゼ、ウォルト家まで送るよ。君の質問で知ってることは話そう。」
「はい…。」
ウォルト家の護衛はオリバーを連行したので
今はシールズ家の護衛がエリーゼとハルトの護衛をしている。
そして二人で公爵家の馬車に乗り込む。
「落ち着いた?」
ハルトが気遣うように声をかける。
「あの…」
「まずは、どうして俺があそこにいたのか説明しようか?」
エリーゼは頷く。
「君に用事があって、ウォルト家に遣いを出したら、君がガレント家の墓へ向かったときいてね。」
「ハルト様は両親をご存知でしたの?」
「ああ。君のことは子爵令嬢のときから知っているって言っただろ?」
「そうでしたね。」
「まさか、オリバーが来ているとは…」
「あの、兄が犯罪って…
それは商会と関係があるのですか?」
「うん…でも、これを聞いてしまったら、君はきっと…」
「あの、私、両親が亡くなって直ぐにお兄ちゃん…兄が帰ってきたときから…」
「気づいていたのかい?」
彼女は涙目でハルトを見る。
「昔から両親と兄は考え方の違いから仲が悪かったのです。兄が出ていってから、商会が急成長して怠け者だった兄が何とかして戻ってくるのは想定内だったのです。私も両親も…。
ですから、教えてください。兄…お兄ちゃんが何をしたのか!」
「そうか…。では、真実を話そう。」
そして、ハルトはエリーゼに彼の兄の行いを伝える。
「大方、予想通りでした…」
悲しげな表情のエリーゼをみてハルトは胸を締め付けられる思いだった。
「ハルト様、教えていただいてありがとうございます。」
「どういたしまして。さて、ウォルト家に着いたよ。」
「はい。あの、ハルト様、私に用事があったのですよね?」
「うん。でも、今日は疲れているだろ?」
「あっ、大丈夫です。お茶でもどうぞ。」
「では、お言葉に甘えて。」
エリーゼとハルトが帰宅してから、お茶を飲みながら、何かを話すわけではなく静かに過ごしていた。
(この沈黙、嫌ではないわ…。)
(リゼといると沈黙さえも落ち着くな…)
ふたりは似たようなことを考えていた。因みに、ハルトは心の中ではエリーゼを愛称のリゼと呼んでいる。
その後、父が帰宅しエリーゼが真実を知ったことをハルトが伝える。父は「知ってしまったのだな。」と哀愁にも似た表情をしていたが、エリーゼがスッキリした表情だったので安心したのだった。