本当の両親の命日
エリーゼは私室にて釣書を見ていたい。
つい先日、ウォルト家の次女としてのお披露目会が行われたからだ。
パーティーの最中から、何人もの貴族から声をかけられ辟易したが、翌日から釣書と招待状の嵐…
「はあ…お母様、これ、全部は…」
彼女は愚痴を零す。
「仕方ないわよ。リゼちゃん。うちは筆頭侯爵家だもの。我が家より上はシールズ公爵家と王家だけ。貴女にお声がかかるのは当然よ。
さて、貴方が直接お返事を書かなければならない物はこっち。代理で返事を書くのはこっちよ。後は頑張りなさい。」
そういって母は紅茶を飲み始めた。
「これも侯爵令嬢の務めということよ。リゼ、手伝ってあげるわ。」
マリアが彼女を励ます。
「はあい。」
晩餐の後にエリーゼは父に呼ばれた。
「リゼ、釣書やお茶会の返事は出せているかい?」
「はい。お母様たちに手伝ってもらって返事を書き終わりましたわ。」
「そうかい。いい人はいたかな?」
「!!」
「まだ、リゼに婚約者を決めるつもりはないから、安心しなさい。」
「いいのですか?」
「ああ。現状で我が家に断れない縁談…例えば王家からは話はないからね。」
「王家からはということは…」
「マリアから聞いたよ?小公爵から告白されたとか?」
「はい…」
「彼は返事を急かすことはしないだろう。
だから、ゆっくり考えなさい。リゼの意思を尊重するよ。」
「はい。お父様、婚約者の話しとは全く関係が
ないのですが、お願いがあるのです。」
「どうした?」
「来週は、その本当の両親の命日が…」
「そうだったね。墓参りに行くんだね?護衛を連れて行きなさい。」
「護衛ですか!?」
「そうだよ。君はもう侯爵令嬢としてお披露目されている。出かけるのには護衛必要だよ。」
「分かりました。」
ー翌週ー
「お父さん、お母さん…。」
彼女は墓の前で祈りを捧げる。
(私、ウォルト家で良くしてもらってるよ。
お父さんとお母さんがいないのは凄く寂しいし、商会が他の人の物になってしまったのも悲しい…
でも、あの場所で商会があれば皆が困らないものね…
お兄ちゃんは何処へ行ったのか分からないけど、きっと元気にやってると…)
「エリーゼ!」
「お、お兄ちゃん!?」
エリーゼの前に兄であったオリバーが現れたのだ。
「ボロボロじゃないの!?」
彼女は兄の処遇を知らない。ただ夜逃げしたと思っている。
「エリーゼ、お前そんな高そうなドレスを買ってもらえるほどなのか?そんなに金があるなら…!?」
オリバーが詰め寄ろうとした所で護衛が彼を取り押さえる。
「貴様!ウォルト侯爵令嬢に無礼だぞ!」
「俺はエリーゼの兄だぞ!?離せ!」
「エリーゼ様はウォルト家のご令嬢で貴様は兄ではない!」
取り押さえられている状況でもオリバーはエリーゼに詰め寄ろうと足掻いている。
「これじゃ、何のために親父たちとお前を追い出したのか分からないだろ!
エリーゼだけ、優雅に暮らしやがって!」
オリバーは暴言を吐く。
「そこまでにしてもらおうか?」
居るはずのない彼の声がエリーゼの耳に届いた。