Sの悩み事
それは夏休み前のことだった。
「あの……北野さん」
北野に、男子からお呼びがかかった。僕の知らない奴だ。北野はソイツの名前を呼んでいたから、きっと去年同じクラスだったとか位の、クラスメートなんだと思う。
だけど、呼ばれたその日から今日までの2週間、北野は放課後になると僕に何も告げずにどこかへ向かってしまうようになった。どうやらあの男子と会っているらしい。
何故かはわからないけど、僕に隠したいらしい。でも本当のところは北野がソイツと一緒にいるのを僕は一度だけ見てしまっていた。
何を隠しているんだ? 別に、北野に彼氏が出来たとしても僕に隠す必要ないだろ。
不本意ながらも北野の事で頭がいっぱいだったから、背後から接近する泡沫先輩の存在に気付かなかった。
「お? 淀橋、今日1人か」
「うわ、泡沫先輩ですか」
驚きでゆるんだ顔を、咳払いをして整えて、先輩の質問を頭で復唱した。
「2週間は1人です」
「ふぅん。今からワック行くけど、来るか? 雅樹達とそこで待ち合わせなんだよ」
「萩本先輩がいるなら行きます。どっかの金髪より数倍カワイイし」
泡沫先輩が微笑んだように見えたけど気のせいってことで。
「よう杏佑。……と、淀橋君?」
「こんにちは」
僕達よりもいち早く、原田先輩がワックでポテトをかじっていた。
ただポテトをかじっているだけなのに、妙にカッコいいのはもう、お約束だ。
「おう、で、吹雪ちゃをは?」
「北野がどうかしましたか?」
「あれ、なんかオレ不味いこと聞いたかなぁ」
「まぁまぁ、シェイク奢ってやるからさ、淀橋。機嫌なおせよ、な?」
「……ありがとうございます」
泡沫先輩は爽やかな笑顔を浮かべた。おお、店内の女子がみんなこっち見てるー。ま、泡沫先輩と原田先輩のコンビなら当然か。
そんなことを考えていたら、すでに注文を終えた泡沫先輩がシェイクを運んで来てくれた。
「苺味! 僕の好きな味覚えててくれたんですね!」
「まぁな」
中学時代、一番仲良くしてくれたのが泡沫先輩だった。でも、そのなかでも一緒に何かを食べに行ったのはほんの数回のはずだ。
「泡沫先輩が友達が沢山いるわけがわかりますよ」
「え? 何で?」
「杏佑は細かい所に気が付くんだよなー」
「そうなの!」
「うわっ。ゆりか!」
「よー萩本」
「萩本先輩」
突然サーモンピンクの髪が視界をちらついたかと思うと、そこには萩本先輩が立っていた。立っていた……んだが、微妙に泡沫先輩の影に入ってしまって、頭しか見えない。
「あ、ちょっとぉ。杏ちゃん背が高いのよう。ゆりかが見えないっ! 縮んで?」
「無理だろ」
萩本先輩独特のボケ(?)に鋭く突っ込んだ泡沫先輩を見て原田先輩が大爆笑した。
この3人は多分お互いが必要な物を満たしているから上手くいってるんだな。
僕と北野は……もう、北野に僕は必要ないのかもしれない。
「おーい、淀橋君? 顔色悪いぞ?」
そんなことはいさ知らず、萩本先輩がそのカワイイ顔で覗き込んできた。
「……う」
「え?」
「北野のM野郎」
僕は勢いよく彼女も好きな苺味のシェイクを啜った。
お疲れさまです。頑張って更新します。




