今回はS、ないです
「暑い」
「暑いですね」
「ちょっと、アンタもっと扇ぎなさいよ」
「扇風機買った方が早くないですか?」
僕達、今北野の家(豪邸)に来ています。
「扇風機? 何それ。エアコンより涼しいわけ?」
「いや、何でもない……」
どうして突然北野宅にお邪魔しているかと言うと、それは昨日に遡るわけで。
「エアコンが」
「エアコン?」
「壊れたのよ」
「ざまあみろブルジョ……ぐはっ」
そう、つまり、北野の家のエアコン、正式名称エアーコントローラー様々がぶち壊れたらしく。
「アンタ、明日エアコンになりなさいよ」
と言うちょっとズレた北野の命令に従っているわけで。
「あー! もう、暑いったらありゃしないわ! こんの、千宗の役立たずエアコン!」
「だから、エアコンって言うより扇風機ですってば」
こんなやりとりが2、3回は続けられていた。
「もう。仕方ないなぁ。アイス食べる?」
「アイス……?」
おぉ。良い食いつき方だ。ちょっとイジメてみる。
「いらないかな」
「い、いる! アンタが作ったのでも、少しは涼を得られそうだしぃ?」
あぁもう、この憎まれ口娘は。
「はいはい、どうせ北野は苺味でしょ」
「……う。そうよ、苺味」
「今日はバナナ入れてみる? これが案外いける」
「うん」
僕がキッチンにいる間、北野は暇だったらしく、暫くしてベランダから北野が降りてくる気配がした。
「もうすぐだから、待ってて」
「暑いわよー。退屈よー。構いなさいよー」
まるで子供みたいにグニャリとダイニングテーブルに突っ伏した北野を見て、自然と微笑んだ。北野って、実は元々の性格はキツくないと思う。
何回か交流があってわかったけど、北野の家はいつ来ても北野以外に人がいたことがなくて、きっと北野自身が強くなる必要があったはずだ。それが今の彼女の美学に影響しているし、だから、あんな態度を取ってみたり、あんな口調で話してみたりして、自分を強く見せている。
「北野、アイスできたよ」
「ん……」
「北野、溶けちまうぞ」
眠そうにしている北野の頬に、冷たいであろう、アイスの入ったガラスの皿をくっつけた。
「つつつ、めた!」
「あはは」
「な、何笑ってんのよぅ!」
「あはは」
「千宗のくせに!」
「あはは、北野カワイイね」
「……っ!」
あ、やっぱり女の子はカワイイって言われるの、嬉しいんだ。北野は、顔を真っ赤にした。
「リンゴみたいだ」
「アンタが、変なこと言うから」
「だってカ……」
「わかったから! 私がカワイイことくらい、知ってるわよ! 美人なんだから、私!」
そうじゃなくて、僕は北野の中身が魅力的なんだと思うんだけどね。多分、北野は気付いてないのだろう。
このあと僕達は、作りすぎたアイスを、頭が痛くなるまで食べ続けなくてはならなかった。
遅れて申し訳ないです。本当に済みません。




