その美少女、S女
「淀橋千宗……」
新学期はじめの1日、僕はいつもと違うスタートをきった。きっとそれで、多少なりとも浮かれていたのだろう。
放課後、日直日誌を提出し終えた僕は、帰る間際に声をかけられた。それが彼女だなんて、全く気付かなかったんだ。
「何ですか?」
「何ですか、じゃないわよ。私よ、北野吹雪!」
「あっ、えっ。き、北野……!」
「気づいたわね? さぁて、朝の落とし前をどう付けてくれるのかしら、淀橋千宗」
彼女からは、禍々しいオーラが出ていて、やはりあの時感じた強さは、気のせいではなかったと思い知らさせる。
「お、落とし前?」
何についてだろう。ぶつかって倒れたこと? でもあれはお互い様だ。
「北野だって、急いでいたはずだ」
「違うわ!」
違うって、どういう事だ?
「淀橋千宗、アンタ私の泣き顔見たでしょう」
「あぁ……!」
そっちか。と納得してみる。そう言えば、あの時は随分儚げに見えたっけなぁ。
「あぁじゃなぁい! アンタ……アンタなんかに私の情けない顔、見られたなんて……許せないわ!」
北野は真っ赤になって言い放った。ちょっと、可愛い。
そして僕は気付いた。そうか。北野って。
「なんつうか、北野って強い自分が好きなのか?」
それは図星だったらしい。北野は一瞬だけ動きを止めた。
「そう。そうよ。私は弱い自分なんて捨てたの」
確かに、北野は内側に強さを感じる。それが彼女を一層魅力的に見せているとも思う。
でも、何だかそれは北野自身を苦しめているような気がした。
「でも、僕は好きだ、北野の泣き顔。凄く綺麗だったと思う」
「は!? 何言って……!」
僕は北野の目を良く見るために、メガネを外した。
「泣きたいときに泣ける強さ、あると思うんだ」
「……!」
決まった。カッコ良く決まったぜ。
「ぅぅぅうふふふふ!」
「えっ」
カッコ良く決まったはず、なのに、目の前には涙目で笑う北野がいた。
「き、北野。北野ー?」
「はっは! 千宗って凄く変ね! 私はアンタが怖くて泣いたんじゃないの」
「ん?」
え、ちょっと待った。それが本当だったら僕。
「うーわー恥ずかしい!」
「私、もうアンタの目に萌えちゃって萌えちゃって」
萌え!? え、萌えってアナタ。
「もー、ニヤニヤが爆笑しちゃうのよ」
「えぇー……」
「だから」
北野は突然真剣な顔付きに変わった。
「だから?」
「千宗はそうやって毎日私を笑わせなさい。これが落とし前よ」
「……え」
放課後の教室で、夕日のオレンジ色が僕達を照らしていた。
「……って意味わからんし! 作者綺麗に纏めるなー!」




