やっぱりこの人がSじゃなきゃ
「それはまた……」
「僕は別に北野に彼氏ができたっていいんですよ。でも、コソコソされるのがマジムカつくんです!」
僕は2杯目になったシェイクを感情の赴くままに啜った。
「つうか、淀橋君と北野さんって付き合ってなかったのね」
「そんなんじゃあないです。そうですね、例えるなら、先輩達みたいな感じですかね」
「あ〜……わかるわかる。なんか一緒だと居心地良いんだよな」
原田先輩が、ポンと手を打った。
「私と杏ちゃんがデートするとき、必ず原田君呼ぶしね」
いやそれは何かもうデートじゃねぇよ。
「あー、でも聞いてもらえて良かったです。僕と北野の問題ですから、先輩方はあまり気にしなくていいですよ」
これは僕と北野の問題だ。先輩達にこれ以上迷惑はかけられないしな。
「ま、確かにオレ達には何もできそうにねぇな」
原田先輩は、眉根を寄せて心配顔の泡沫先輩に相槌を求めてた。
泡沫先輩は、納得行かない様子で数秒間黙っていたけれど、直ぐに笑ってこう言ってくれた。
「でも、無理はしちゃダメだぞ、淀橋」
「ありがとうございます」
しんみりした空気を吹き飛ばすように、萩本先輩が僕の肩を強く叩いた。
「ささ、ゆりかがアボガドバーガー奢ってあげるよぉ」
「そ、そんな!」
「いいよ、遠慮しないで。杏ちゃんのカワイイ後輩君ですもの」
「萩本先輩……」
しかし、このとき僕の内側には何かがうごめいていた。
「うんうん」
「んなことくらいでなつくかよ」
そうなのだ。ついいつもの癖でSが出てしまったのだ! いくらウケがいいからって、流石に先輩にこの態度はないだろ! 僕のバカ!
「……」
気まずい数秒の沈黙は、萩本先輩のそれで破られた。
「……かぁっこい〜い!」
「ゆりか!?」
「あはははは」
焦る泡沫先輩と、爆笑する原田先輩。訳がわからなくて、僕は唖然としてしまう。
「いやー。カッコいいね、淀橋君! ゆりか、ちょっとビックリしちゃった!」
「くははははっ」
「えぇー……ゆりか、僕がいるだろう?」
ちょっと泣きそうになっている泡沫先輩にあやまる。
「すみません。つい、癖でして」
「いや、いいんだよ! その、凄く……カッコいいし。僕も憧れちゃうよ」
「そんな……」
そんな会話をしていたときだった。
「ちょっと千宗、何してんのよ!」
聞き覚えのある声は怒りに満ちていて、次の瞬間、背中に衝撃が走った。一気に視界が反転する。どうやら、僕は頭を床に叩き付けられたみたいだ。多分、足で。
見上げるとそこには、とてつもない黒いオーラを纏った般若みたいな北野が立っていた。




