プロローグ
サラサラの髪はこれでもかって位まっすぐで、これでもかって位美しい金色だった。いや、単に色素が薄いだけなんだろうけど。
その色素の薄い少女は僕の腹の上に乗っかっている。つまり、馬乗りだ。新学期、僕も彼女もどこか急いでいたんだと思う。互いに勢いよくぶつかって、あろうことか僕の背中側に倒れ込んでしまったんだ。
おかげさまで、彼女の蝶のモチーフがついた髪飾りは外れ、僕の牛乳瓶の底みたいに厚いメガネも飛んでいってしまった。しかも僕はド近眼だから、起き上がった彼女を物凄い形相で睨むように見てしいたにちがいない。次に僕の目に飛び込んで来たのは、可哀想に、きっと怖かったのだろう、顔を真っ赤にして涙ぐんだ彼女の姿だった。
「あっ……君、おーい」
そして最悪なことに、彼女は僕を怖い奴だと勘違いしたまま走り去ってしまった。そう、新学期のこの日こそが僕、淀橋千宗と彼女、北野吹雪が出会った運命の日なのだ。
「おっす淀橋。そんな所にずっと座ってると迷惑だぞぉ」
つい先程涙目で走り去ってしまった彼女のことがショックで座り込んでいた僕は、友人朝山君の声がする方を力無く振り向いた。
「……」
「うわー、淀橋のメガネの下ってそんな顔してたんだ……ちょっと意外」
そりゃそうでしょう。いつもの僕はただの目立たないメガネ君だが、その下の顔は、切れ長でSっ気の溢れかえった目が腰を据えているのだから。
「ほらほら、メガネこんなとこに置いてると誰かが壊しちまうよ?」
「朝山君……僕が怖くないの?」
朝山君の反応があまりに他の人と違うから、墓穴を掘っているかもしれないとわかっていても、つい訊ねてしまった。
「んー。別に、だって顔が怖くても淀橋は淀橋だろ」
「……!」
淀橋のHPが回復した! 安堵が5アップした! 友情が5アップした! 勇気が沸いてきた!
「さ、行こうぜ淀橋。俺達今年も同じクラスだ」
「あっ、うん」
「あは、でもやっぱり俺、メガネの淀橋がいいわ」
「僕も」
僕と朝山君は笑いながら新しい教室へ向かった。




