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3/5

流されてまいりました。―弐

険しい山や深い森など、厳しい環境の多いこの仙境。たが、人里との境界付近は四季があり、土地も気候も比較的穏やかで、暮らしやすい土地であった。まあ、獣の代わりに、妖ものの類が時折うろついているのだが。

そんな若干サバイバル込みなその土地には、しっかりとした造りではあるが、けして豪奢ではなく、質素なごく普通の一軒家という感じの住居があった。普通よりも少し広めのその家の生活感が、今だ人が暮らしていると示している。近くには、丁寧に整備された畑もあった。朝のうちに世話されたその畑は、まだ芽を出したばかりの作物が、その柔らかい葉の上に滴を湛えて虹色に反射させていた。

そして、昼餉の熱も冷め切る頃、ようやく住人の影が遠くから見えはじめた。


「ふぅ。今日の外でのやる事は、こんなもんか。」

そう言って、その家の主である老爺は、背中の荷物入りの籠を下ろした。



いつものように、夕餉の支度をする。そろそろ菊も帰る頃か。今日も平穏だった。娘も独り立ちして、仕事もほぼ隠居になったが、相変わらず術の探求はとどまるところを知らないし、興味は尽きない。今度同じものを試すときは、あそこの呪詛を弄ろうか。隠居してから退屈ではないけど、少しは刺激も欲しいな。

‥‥そんなふうに、一日を振り返っていると。


‥‥タタタタタタタタタ


なんだ、菊の奴、随分忙しないな。そんなに腹が減ったのか。


ダダダダダダダダダダタダ


ん?尋常じゃないな?珍しいもんでも拾ったか?


ドドドドドドドドドドドッッ


より激しくなったな。これは、戸を


―――、バゴオォォーーーンッッッ!!!!!


蹴破るな、と思ったタイミングピッタリで蹴破ってくれた。ほんと、想いって通じるのね。以心伝心。これこそが、長年の夫婦の賜物か。いや、関心しとる場合でなく。

「おかえりだが、急いでても蹴るなと言って―――」

「――はぁっ、はぁっ、‥‥じいさん!」

珍しく、息を切らせている。修業馬鹿で体力おばけの菊が。

そのことは、彼女と長く一緒に過ごし、また知り尽くしているからこそ、ただ事ではないのだと、すぐに察知した。

「どうした!!何があった!!!」

菊にしては余程急いだのか。彼女の姿を見ると、髪や衣服が少し崩れている。目の前に大妖がいきなり出たって動じないのに。一体何事か。

ふと背中を見やると、幼子をおぶっている。ぐったりとしていて、顔色が悪い。意識も無いようだ。

そうか、それなら焦る。目の前の幼い命が一刻を争うなら、そりゃあ。

「その子か、その子になにがあった!!とりあえず、寝かすぞ。」

布団をしいて、子供を寝かしてやる。

――酷い。これは、酷い。着物も身体も、顔もボロボロ。おまけに、苦しそうに悶えてる。これなら、急いで来るのもわかる。

「なんだこれは!一体、だれがこんな――。」

「じいさん!」

息が整ってきた菊が、少し重そうに口を開く。

「実はな、その子は、いつもの川で修業してたら、川上から流れてきて――」


菊が、この幼子を拾った経緯を話した。それを聞きながら手当の準備を始める。

「そうか。そんなことが。これは、ぐずぐずしてられん!すぐに――」

「それでな。」

少しそわそわして、先程よりも口が心持ち重くなっている菊が話す。

「仙桃食わせたんだ。」

そうか。なら、命に別状はないだろう。よかった。こういう事にはパニックを起こしがちな菊だったけど、案外、冷静じゃないか。成長したな。

「そうか、それは懸命じゃないか。けど、余程傷が重かったのか――」

「5つばかり。」

「そうか、それは大変だっ」


は?今なんと?

思わず、看病の手が止まる。

仙桃は、人には1つきりだ。でなければ、仙桃の霊力が暴走する。それを、この人は――


「もう一回」

思わず間の抜けた質問で聞き返す。


「だから、―――5つばかり食わせちゃったんだ‥‥!すまん!!!」


いやいやいや。1つだけでいいって。それを、5つ??いやいやいや。

治るんだって。1つで。てか、こんだけの怪我人に普通の桃でも5つは多いぞ。いや、今はそこじゃなくて。

ああ、とにかく、治療しないと。怪我か?いや、霊力が先か?どうしよう、あせるな、危険。

現に、目の前の奴がやらしている。わしまで焦るな。

ていうかな、全く、確かに、焦ったのは分かるけども、それじゃ――


「それじゃダメでしょうっっっ!!!!」

と、思わずおかんみたいな叱り方をしてしまった。

先程冷静だったとか、成長したとか。前言撤回だ。


――そして、彼は思った。確かに望みはしたが。

とんでもない刺激がきてしまった。

忙しくて、だいぶ遅くなりました。

すみません(>_<)

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