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流されて参りました。

仙人が住むと伝わる、辺境の異界、『仙境』。その地には、まるで剣山のように鋭く険しい石山が聳え、立ち入る者の行く手を阻む木々が鬱蒼と生い茂る陰鬱な森が広がり、猛々しい獣のように水流をうならせ咆哮の様な音を立てて川が流れている。しかし、その全てが過酷な土地ではなく、万能の薬とも謂われる「仙桃」が実る地や、現世の傍らにあり、同様に四季を湛える地もある。そして、そこには、ある夫婦が暮らしていた。

昔々ある仙境(ところ)に、

かつて、この世に存在しうる全ての術を修め、神にも勝る程の霊力を以ってそれらを自在に操り、数多の大妖や式神をも従え、大和の国一の術師、もとい、【叡知を統べる神術師】と、呼ばれたおじいさんと、

龍神の末裔であり、その血と秘術による鋼のような頑強な身体(たて)と、会得した必殺の武術による絶対無敵の技術(ほこ)を以って、百の妖ですら一瞬で蹴散らす、大和の国最強の武人、もとい、【殲滅無双の紅き華】と、呼ばれたおばあさんが住んでいました。


ある日、おじいさんは山へ芝刈り(と言う名の精神統一)に、おばあさんは川へ洗濯(と言う名の武術鍛練)に出かけました。


おばあさんは、まるで何頭もの龍がせめぎ合うような川の流れに、目にも見えない速さと、水圧で衣が破れる事のない巧みな力加減で洗濯を早々に終わらせ、日課の鍛練の一つ縮地の川渡りをしていると‥‥。

川上の方で、この力強い流れとは違う、一筋の穏やかな流れがあるのを捉えました。下手をすれば岩も削りそうな強い力に、掻き消されることのない優しい流れ。

「なんだ‥‥?あそこだけ、()()()()が違う。‥‥いや。なにか、()()()いるのか??」

と、おばあさんが、近づいてくるその流れをよくよく見てみると、その流れはこちらに向かって何かを運んでいるような動きをしています。

そしてさらに目を懲らし、その運ばれてくるものの正体をつきとめると‥‥。

「‥‥人!?しかも、子供か!これは大変だ!!」

そしてすぐさま、今は自分より川下へいってしまったその流れを、追いかけました。


すると、その流れは、おばあさんがいる事をを知ったのか、それとも元からその場所が目的だったのか。流れの険しい川の中でも穏やかな、一本の仙桃がそびえ立つ岸に子供を優しく横たえると、やがて、もとの激しい流れに紛れるように、静かに消えていきました。

(不思議な流れだったな‥‥。まるで、自分の役目を果たしというようだ。)

そう思いながら、一瞬でその子供のそばに駆け寄ったおばあさんは、自らの目で子供の容態を確認した瞬間、絶句しました。

「なんて酷い有様だ!至るところが折れてるじゃないか!!肉が見えてるとこも、出血も多い‥‥。誰が、こんな惨いことをっ‥‥‥。」


元は白いであろうその肌には、切り傷やすり傷や痣が当たり前のようにあり、あちこちで剥がれ、めくれて、今では痣と傷から流れた血の色にそまっています。鋭利な刃物で刔られ、切り付けられたような大きな傷も、数箇所あります。また、高いとこから落ちたのか、固いもので殴られつづけたのか、はたまた意図して折ったのか、華奢な骨は所々折れているようでした。

己の身体の頑強さ故に、あまり怪我をしないおばあさんでしたが、傷を負った痛み・苦しみは分かります。ましてや、自分の手に抱き抱えるだけでも注意を払うような、瀕死の状態になっているのは、転んで擦りむいた傷にも大泣きする年頃のような幼子。腫れ上がる顔では、苦しみに歪んでいるのかはうかがえません。けれ

ど、その子にとって、今の状態はどれほど辛いものでしょう。――想像したくもありません。それに加え、今にも命の灯が消えそうなその様子に、とてつもない焦りが募ります。



この子を死なせちゃいけない。いや、絶対にしなせない、生かす!

でも、このままじゃまずい。一刻も早く、治療を――。


「しかし、あたしは治癒の術を知らんし!」

――というか、頑強な身体には必要なかった。

「すぐに効くような飲み薬も塗り薬もない!!」

――誰にも傷つけられないし。怪我も病もせんしな。

「誰かを治すことなんてなかったからな!!!」

――そもそも、あたしもじいさんも一人で十分強い‥‥。

「って、一人語りしとる場合じゃあないっっ!!ああっ、畜生。易い術の一つ、二つ、教わるんだった!くそっ!焦っちゃいかんのは分かっとるのに、どうすりゃいいんだ!?こんな時に、万能薬の一つでも、あれ、ば―――、」

――あり?ちょっと待て??おちつけ、俺。クールになるんだ。そいえば、目の前にあるこの木は、何の木?気になる木?

「仙境の、桃‥‥。仙、桃。」

岸辺に悠々と立つ一本の木。目にも鮮やかな瑞々しい深緑の葉の間からは、淡く優美なその名の通りの桃色の果実が、甘い香りを纏い、揺れる。

確か、仙桃は。

『一つ食べれば、どんな傷や病も、たちどころに治してしまう――。』

――そう!!じいさんが!!!!言っとった!!!!!!


そうと決まった彼女の行動は早い。それはいつものことだ。普段は、たとえ早くとも、冷静に行動を起こすがそれを欠く程の怪我に珍しく焦ったのだ。

そして、おじいさんの話の続きにあった、重要な所を忘れていた。

「と、と、とにかく!お前さん、これを食え!!‥って、その顔じゃ食えんよな。とりあえず、絞るから飲め!!」

一つ目の仙桃の果汁が効いたか。子供の顔の腫れが引いてきた。顔を見ると、どうやら女の子のようだ。

「――っと、なんとか、口が開くようにはなったな。次は身体もだ!それっ!!とにかく、口につっこんでしまえーーっっ!!!」

食ってしまえばこっちのもん、とばかりに、飲み込み次第食べさせた。とにかく、早く治してやらんと。たくさん与えないと。

そして、全部で五つ食べせた時、その子に変化は起きた。

「‥‥うっ、はっ!はぁ‥‥、はぁ‥‥。うぅっ、っぁぁああ゛!!」

「なっ、なんだ!?どうした!!大丈夫かい!!!」

いきなり苦しみ出す女の子をみて、すぐに、後のおじいさんの言葉がフラッシュバックする。


――そういえば、じいさん、

『――けどな、食い過ぎ注意だ。仙桃は、()()に二つ以上食わすとその霊力に身体がたえられないからな。』

『薬はな、何でも、用量・用途をきちんと守って飲むのが大切なんだ。忘れんなよ☆』

――そんなこと言ってたな。そういえば。なんてこったい、何で今思い出す。ははっ。こりゃ、完全に‥‥。


「やっべえぇぇぇーーー!!!!やっちまったあぁぁぁああーーーーーーっっっ!!!!!!」


やっちまったもんは仕方ない。

とも言ってらんないんで。どーみてもヤバいんで。

おばあさんは、とりま、ガチ急ぎMAXで、おじいさんにヘルプすることに決めました。

ちなみに、おばあさんは菊(菊華・きっか)。おじいさんは重陽(しげはる)と言う名前があります。次の話に出るかは分かりませんが。

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