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プロローグ~おじいさん、おばあさんに出会うまで~

昔々、備前の国は北東の海向こうに、鬼が住む異界「鬼ヶ島」と呼ばれるところがありました。

そこには沢山の鬼がおりましたが、とても強い人喰い鬼の一族が島を支配しており、その中でも一番の鬼が「鬼の長(おにのおさ)」と呼ばれておりました。長は、一族の者や(しもべ)の鬼に命令したり、自らも先に立って、小さな国や村に行っては人をさらい、豪華な財宝や珍しい武器、酒や食料などを奪っていきました。


そんな鬼達の悪行に耐え兼ねた、一つの小さな国の殿様は、

「私の末の姫を捧げます。聞けば、長様は珍しい物や美しいものを愛でていると。この末の姫は、姿もまるで天女のように美しく、あらゆる病や傷を癒す不思議な力を持っています。だからどうか、これ以上私の国を荒らさないで欲しいのです。」

と、自分の娘を贄として差し出しました。

鬼の長も、美しく不思議な力を持つ姫をみて、

「なんと、これまで見てきたどの娘より、いや、黄金や玉よりも美しい。それに、傷や病を癒すとな?おお、このような力をもつものは、我が一族に一人もいない。よかろう。この娘と引き換えに、お前の一族がいる限りはこの国を見逃してやろう。」

と言う契りの言霊を交して、姫をさらっていきました。


鬼の長は、不思議な姫の力を持った鬼を生み出そうと考え、姫に無理矢理、自分の子供を産ませました。しかし、体の弱かった姫は女の子をひとり産むと、まるで、命を使い果たしたかのように死んでしまいました。そう、殿様は、姫の体が弱いことを鬼には告げずに差し出したのです。姫が死んでから、あの殿様の意図に気づいた長でしたが、言霊の契りを交した手前破ることはできません。ですが、身体が弱くとも不思議な力を持つ、あの姫の命を使って産んだ一人娘ならば、きっと強い力があるだろうと信じた長は、その娘がもう少し大きくなるのを待ちました。


けれど娘は、三年過ぎても角が生えるどころか、人間とほぼ変わらない姿のままでした。身体は人間よりは強かったのですが、純血の鬼に比べればとても弱く、そして、期待していた癒しの力すら現れません。すると徐々に、一族の者からは「恥さらし」や「役立たず」と罵られ、兄弟達から次第に乱暴されるようになり、自分よりも弱いはずの僕の鬼達からも蔑まれ、やがてどの鬼も、娘のことをそこにいるだけの()()としか扱わなくなりました。


気づけば、長の娘は4つの歳になっていました。そしてとうとう、下っ端の僕にすら力で敵わないことを、父親である長に知られてしまいました。長は、自分の娘が僕にすら負けてしまうという事に絶望し、娘の異母兄5人を呼び付け、

「私の純粋な鬼の血を持つ息子達よ、そこにあるのは、もはや同じ一族ではない。いや、鬼ですらない。一時でも同族だと思ったことすらおぞましい。一刻も早く、その汚らしい肉塊(ゴミ)の息の根を止め、異界の彼方へ棄てて来い!!」

と、命令しました。


命令された兄達は、それぞれ思うがまま幼い娘に自分の力を奮いました。ある者は拳で殴り、ある物は刀で傷付け、ある者は縄で叩き続けました。その他にも、いろんな方法で乱暴をし、まるでおもちゃで遊ぶように楽しんでいました。娘も、最初のうちは泣いたり、叫んだり、謝ったりと、どうにか許して止めてもらおうと抵抗しました。しかし、血を流し続け、あちこちボロボロになった身体は、娘から生きようとする心も奪い、とうとう諦めたように身動き一つしなくなりました。そして、目を閉じ、ぐったりとして声すらあげなくなった娘に、兄達は次第に飽きていき、仕舞いには、

「つまらない、おもちゃにすらならなくなったこの役立たずめ。お前なんか、誰もいらないんだよ!」

と吐き捨て、その近くの崖の川底へ突き落としました。


落ちていく中、腫れ上がった目で見ることはできませんが、ごうごうという激しい水の音で、自分が川へ近づいていくのが分かります。こんなところに投げ込まれたらひとたまりもないなと思い、覚悟を決めて、残った力を振り絞って、痛む瞼にぎゅっと力をこめました。そして、うねる石のような、強い激流に叩きつけられた―――――。‥‥と、思ったのですが、水面にぶつかるその瞬間、冷たいような温かいようなそんな感触が、娘を優しく受け止めました。いままで感じたことのない温かさに娘は驚きましたが、やがて、初めて覚えた心地よさが、傷だらけで死にかけの身体から意識を奪っていきました。





優しい流れは、ある一本の木の根本にその娘をそっと横たえました。

その木には、青々と茂る葉の間から、みずみずしく熟れている桃色の果実が、甘い香りをほのかに放っています。

―――――そうして、彼女は出会うのです。自身の忌まわしかった人生を、180度、いや、もういっそ、くるっとまるっと、540度位には変えてしまった、()()()()()()()()()に。

プロローグです。次回はあらすじにふれた内容になります。主人公、というよりも先におばあさんがはっちゃけます。はっちゃけてやらかします(?)。

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