囚人番号一番
音はなく、風もない。ものの動きというもの生命の脈動などもなく、そういったところにただ私はあった。背には何もなく、胸には鉄の格子がある。しかし、それは閉じられておらず開かれている。誰がために、私がために。
私には私というものの在り方がわからないのです。
私には私がわからず、私というものが自分を指すことなのかさえわからないのです。
ただ、私にさえわかるのは、開かれた格子が私を誘っているということだけなのです。
私はその格子に向かって歩みを進めた。しかし、近づいてみればおかしいのです。格子というやつは、何かを閉じ込めるためにあるのではなかったか。しかしこの格子は本来閉じるべき側に開いている。まるで無理矢理押し込んだかのように開いている。しかしその先が檻であることに違いはないのでしょう。私の方を向いて鑑札がついていますから。
囚人番号一番「――――――」
囚人の名前はわからないがそこに確かにいるのでしょう。私がわからない私より、はっきりと明確に、そこに存在しているのでしょう。気づけばそこに囚人があったのだから。
囚人は語る。何もわからない私を嘲笑うかの様に自らの存在を証明するように。私を証明することさえできないことを分かっているかのように。
なぜ囚人にさえ持てるものを私は持たないのか、ふつふつと何かが湧いてくる。このとき私は知ったのです。憎悪という感情を。わかったのです、憎悪を持つ私を。そうして私が私を知ったとき、わかったとき、囚人番号一番は自らの存在を証明することをやめたのか、それともそこに何もありはしなかったのか。もう証明するものもないその部屋の鑑札にただ二文字。
囚人番号一番「憎悪」