始まりの連鎖 1
新連載です。主人公は知的設定ですが、作者が馬鹿なので主人公が知的に見えなくても温かい目で見守って下さい。
石造りの道の上。行き交う人々の喧騒の中、意識が覚醒した。煉瓦造りの家と簡易的な造りの屋台、中世紀の街並みと言えば少しは理解出来るだろうか?こんな街は知らない。
『キサマはこの見捨てられた世界に降り立った。これよりキサマは「咎と業の連鎖」の中生きる事となる。我々の創造の意味を冒涜した罪への報いだ』
突然脳内に言葉が流し込まれるような奇妙な感覚。話しかけられるというには声が聞こえない。しかし言葉を認識出来る奇妙さがある。
パサッ
唐突に目の前に丸められた紙が落ちてきた。その紙は若干風化し、傷んでいた。その紙を開くとこう記されていた。
咎と業の書
・神の意志である生命創造。キサマ達に与えられた生命を自殺により冒涜したキサマはこれより咎を償う為に、「咎と業の連鎖」をこの世界で始めなければならない。
・「咎と業の連鎖」とは、死する度に記憶を持った状態で転生を繰り返す事である。キサマがどう足掻こうともこの連鎖からは逃れられない。この連鎖に終わりは無い。
・転生時の年齢、性別、外見、才能、氏名はランダムである。
・この咎と業の書は必要時に現れ、それ以外は消滅する。
・上記を除く情報は経験及び時間経過で追加される。
・これより 1 回目の咎と業の連鎖を始める。
キサマのステータスはこれだ。
名 シカ・メシド、齢 19、職業 旅人、性別 男、Lv 1
才能 ゴミあさり (ゴミを漁る時、金品の出現率上昇)
生命力 11、攻撃力 6、防御力 2、魔法力 0、運 7
せいぜい楽しめ。
一通り読み終わると紙は消えた。どうやら必要な時以外は手元に残らないらしい。
ある程度時間が経ち、自分の体を見渡す。安っぽい服装で、見るに堪えない。
「さて、困ったな」
時雨涼太改め、シカ・メシドの『咎と業の連鎖』が始まりを告げた。
彼、時雨涼太は普通と言うには少し異質な少年だった。性格にも外見にも身体にも普通の人間との差異は無い。ただ、知能が少し他より優れている。この世界、いや、今は前世か。前世にはサヴァン症候群と呼ばれる症状があった。サヴァン症候群とは簡潔に言えば優れた暗記能力や暗算能力を持つ発達障害である。原因は未だに特定されていない。だが、アインシュタインやモーツァルトもサヴァン症候群だと言われている。涼太は医師にサヴァン症候群だと言われた訳では無いが、面倒くさく病院に行った訳では
ないので自分ではサヴァン症候群の疑いがあると思っている。両親はサヴァン症候群など知らず、優秀な息子だとしか思っていなかったようだ。ただ、基本的にサヴァン症候群は発達障害なのである一点だけ優れ、普通の計算や会話など通常生活に支障が出る障害である。しかし涼太は勉強も人間関係もそつなくこなし、自前の記憶力を武器に数々の事をやってきた。中学時代に本やネットから沢山の情報を学び、高校1年の時には取れる資格を片っ端から取った。涼太は基本覚えた事は忘れず、覚える時も一度見れば充分だった。彼の症状は人智を超えた記憶力を持ちつつ、その代償は一つも無いのだった。
しかし上手くいっていたのは、ここまでだった。高校2年に上がる少し前、幼馴染みの女の子が事故で亡くなった。保育園からの仲の幼馴染みで涼太は小学校の頃から想いを寄せていた。これを機に涼太は塞ぎ込んでしまった。毎日の学校も彼女に逢うのを楽しみに登校し、資格を取ったのも色んな情報を頭に入れたのも彼女に自慢して褒めて貰うため。そこまで一途だった。だからこそ彼女の死を受け止められず、学校にも楽しみを無くし家に引きこもった。そこからズルズルと1年を無駄に過ごし、案の定留学。もはや自分が何の為に生きているのか自分の広い知見を持ってしても理解出来ず、そのまま部屋の隅で首を吊った。ほとんどの人は彼女の分まで生きるという選択肢を心に残し、生きてゆくのだが涼太はそんな事は思いつかなかった。人間関係も才能も全て上手くいっていたが、ただ1回。1回何よりも大事な物を失い、涼太は命を捨てた。自分の手で。
「咎と業の連鎖、ねぇ。この世界は異世界という奴かな?僕も結構そういうジャンルの小説は好きだったからな」
涼太は街の中の川にかかる橋の上でぶつくさと独り言を呟いていた。先の咎と業の書を思い出し、自分の状況に合わせ今自分が置かれている状況を整理する。
「神の創造の冒涜...か...そもそも生命は神の創造だなんて神話みたいだ」
涼太が自殺した事が神の生命創造への冒涜というのは理解できない。涼太が知っている生命誕生説は色々あるが、そのどれもが神による創造という説は一つも無かった。原因は説明出来ないが、生前好きだったラノベと同じ異世界転生という事でとりあえず納得する事にした。涼太は作り物の話を読む時自分の知識で頭から否定する訳ではなく、これも一つの表現と割り切っていた為今もそれに似た感情で比較的落ち着いていられる。
「とりあえず今後の方針を決める事が先決だよな?」
涼太は絶対目標として寿命までの生存を決める。一度己で生を諦めているとはいえ、こういう世界に憧れのあった涼太は興味が湧き生きる事を決意する。そして当面の目標として安定した生活基盤の入手と定めた。ラノベのような一攫千金は何の情報も無く期待出来ず、地道な基盤造りとした。そのためにまず金策を見つけなければならない。
「まぁ、まずは情報収集かな?」
涼太は近くの屋台に向かう。まず初めに言語の確認をしなければならない。何をするにも意思疎通は必要不可欠で言葉の獲得の有無は死活問題だ。初めは日本語で、次に英語、ドイツ、フランス、ロシアと思いつく限りに聞いていくつもりだった。涼太はしっかり会話出来るのは日本語と英語くらいだが、片言程度なら14ヶ国語位の言葉を話せる。
「こんにちは、いい天気ですね?」
「いらっしゃい。そうね、最近は晴天が続いてるわ」
果物屋と看板に日本語で書かれている屋台の店員の女性に日本語で話しかけた。すると女性は同じように日本語で返してきた。
どうやら日本語で通じるようだ。
「It looks good,How much is this?(美味しそうですね、いくらですか?)」
僕は次に真っ赤に熟れたりんごを手に取り、英語で尋ねる。
「はい?え、えっと、もう一度お願いします」
この反応は多分通じないのだろう。他にも少し試したかったが、とりあえず言語が分かったので去ることにした。
「いえ、なんでもないです。用事を思い出したのでまた来ます」
僕はそそくさとその場を後にした。金が手に入ったらまた来ようと心に決めた。
涼太は収入を得る為に仕事斡旋所的な紹介施設を探していると興味深い物を見つけた。筒型の物体に黒い鳥(おそらく烏)が集っている。そう、ゴミ箱だ。
「たしか才能にゴミあさりなんてあったな」
咎と業の書にあったあまり嬉しくない自分の才能を思い出す。金品の出現率上昇。ゴミあさりの才能というより運だよな等と考えつつも念のためゴミ箱の中を見る。
「マジか!ツいてるな」
中には男心をくすぐる彫刻の入った煌びやかな長剣が無造作に入れられていた。刀身は薄く細く、更に柄側はズッシリ重い。つまり刀身と柄のバランスが均等で振りやすい設計になっている。更に刀身は柔軟性があり、先程からかなり力を加えているが折れずに戻る。つまり耐久性が高い。こんな良剣がゴミ箱に入っているなんて危険な匂いしかしないが無一文の涼太は四の五の言っていられない。
パサッ
再び目の前に丸められた紙が落ちてきた。それを開くとやはり咎と業の書だった。咎と業の書の一番下にこう書かれていた。
咎と業の書
名 シカ・メシド、齢 19、職業 旅人、性別 男、Lv 1
才能 ゴミあさり (ゴミを漁る時、金品の出現率上昇)
生命力 11、攻撃力 6+15、防御力 2、魔法力 0、運 7
装備 王宮近衛隊長の愛剣
「こりゃまた面倒くさい事に巻き込めれそうだな」
涼太は逃げるようにその場を後にした。