第6話 恋する乙女
本文少し短めです。
「ス―――ハァ―――」
深呼吸をして、俺は目をつぶりその場に倒れ込む。緊張の糸が切れたのか、急激に体がが重くなる。
しかし、倒れた衝撃は来なかった。代わりにとても温かい感触が俺を包んでいた。目を開けると凛堂が俺の体を支えていたのに気がついた。
「凛堂………」
「お疲れ様、ケー君。すごい音が聞こえたから駆けつけたんだけど、一人で倒しちゃったんだね。」
「あぁ………」
「すごいよ。タイラントアリゲイルを倒しちゃうなんて。」
「そんな名前なのか………」
「うん、この辺じゃ1番目か2番目に強い魔獣だよ。もっと実践経験してから二人で倒しに来ようって思ってたんだよ。」
「………なんかごめん。」
「ううん、いいの。すっごくかっこよかった。」
うれしい。凛堂の笑顔に釣られて俺も笑顔になってしまう。
「凛堂………さっきはありがとう、助けてくれて。………………………お礼、まだ言ってなかったから。」
案外すっと言うことができた。
「ううん、お礼言われるようなことじゃ………」
「でも、俺は助けられた。だから、ありがとう。」
「………うん、どういたしまして、ケー君。……………………このまま寝ちゃってもいいよ。疲れたでしょ?家まで運んであげるから。」
女子に担がれるのは男子として少し恥ずかしいぞ。でも、体がもう動かない。まぶたも重い。
「なぁ………凛堂?」
「なに?」
俺はまどろみの中、凛堂に言った。
「俺………真里亜を守れるくらい………強く…………なる………から…」
そのまま俺は意識を手放した。
――――――――――――
ケー君………気持ちよさそうに寝てるなぁ。
私は戦闘後に寝ちゃったケー君を休ませていた。ここはケー君が初めて魔法やスキルの練習をしたときの川だ。ケー君は返り血を浴びていたので家に帰る前に大まかにここで汚れを落とそうと思ったのだ。
今ケー君は頭を私の膝に乗せて横になっている。いわゆる膝枕というやつだ。
私も時々誘ったりしてるんだけど、いつも断られている。たぶん恥ずかしいんだと思う、いつも顔真っ赤にしてるし。私はいつでもウェルカムなんだけどなぁ。
ま、そんなツンデレなとこも好きだけど。
「フフフ、相変わらず寝顔もかわいいなぁ❤」
そんなことを言いながら、私はケー君の顔についた汚いは虫類の血を濡れた布で拭いていった。
あぁ、かわいそう。せっかくのかわいい寝顔がこの血のせいで台無しだ。速くきれいにしてあげないと………。
この一ヶ月ちょい毎晩ケー君の部屋に忍び込んで寝顔を見ているが、全く飽きない。むしろ見れば見るほどその深みにはまっていくような、中毒作用があるんじゃないかって思う。
それにしても、ケー君も大胆だなぁ。まさか
『凛堂を守るくらい強くなる』
なんて言うんだもん。これってあれだよね!!私のことを一生守ってくれるってことだよね!!それってつまり一生そばにいてくれるってことで、プ、プププ、プロポーズってことと同義だよね/////
「エヘヘヘ、エヘヘヘヘヘヘヘ/// 」
どうしよう///ニヤニヤが止まらないよぉ//
プロポーズの次は何だろう?婚前旅行かな?う~ん、どこに行こうかな~。南国のビーチもいいけど、あえてスキー旅行も行ってみたいかも。あ!温泉!温泉はいりたいな~。でも温泉だったらやっぱり……こ、こ、混浴だよね////そして、そのまま………キャ~~~~~~//////
そんなことを考えながらもケー君の体をきれいにしていく。うん、かすり傷や打撲は多いけど、今の所目立つ外傷は無し。でも本当に驚いたなぁ。まさかスキルを使わずに一人で倒しちゃうなんて。さすが私のケー君だなぁ。でも………
「ごめんね………ケー君………………………助けに行くの遅くなっちゃって…………………」
私は眠っているケー君に謝る。
そう、私はケー君が一人になりたいと言って別れた後、私は少し急用が入ってしまったのだ。その最中、たぶんあのワニの攻撃と思われる音が聞こえたため、超特急で用事を終わらせてケー君の元に向かったのだけど………………………。
チッ………あんなことさえなければ、すぐにケー君のこと助けに行けたのに………。あんなことさえ…………………。
今思い出してもイライラする。私とケー君の仲を邪魔するなんて、なんて愚かなゴミ共なんだろう。そんな奴らはこの世から消えて当然だ。
でも、もし私が助けられなかったせいでケー君が死んでしまったら?ワニの時もそうだが、牛の時もそうだ。その時も助けるのが遅くなってしまった。
もし、あのままケー君が炎に包まれて死んでしまったら?
ワニに食べられてズタズタにされていたら?
駄目だ。
駄目だ駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!そんなの絶対駄目だ!!
ケー君が私を守ってくれるなら、私もケー君を守らないと!誰にも渡さない!誰にも殺させない!!ケー君を傷つけようとする奴は私が殺す!ケー君を殺そうとする奴は私が殺す!ケー君が勝てない奴は私が殺す!
そうすればケー君は死なない!
一生私の……………………………私のものだ!!
フフフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
すごい!!なんて素晴らしいことなんだろう!!ケー君は私のもの………ハハハハハハハハハ…………夢みたい!!小さいときからの夢が叶ったんだ!!
四年前はケー君がいなくてすごい寂しかったけれど、今は違う。ケー君がいる。ケー君が側にいる。だからもう絶対離さない。もうあんな寂しい思いは嫌だ。もうひとりぼっちは嫌だ。
もう二度とケー君を離したりするもんか。
「ウフフフフフフ、ケー君………愛してるよぉ❤」チュッ
そう言って私は眠ってるケー君のおでこにキスをする。
やっぱり唇同士のキスはお互いが起きてる時の方が良いよね!だから今はおでこで我慢我慢。
我ながら乙女チックな憧れだなって思う。でもいいよね。だって……
ケー君は私の全てなんだから。
読んでくださりありがとうございます。
次話は9月4日以降に投稿予定です。