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第5話 生存本能

少し長いです。



俺は今湖の岸辺に座りながら、湖面に映った自分の顔を見ている。あまり血の気がないな。

悩みながらも顔を洗おうと湖に手を伸ばす。


ゾクッ!!


そのとき体中に悪寒が走る。

体が勝手に動き、咄嗟に湖から距離をとる。俺が湖から離れたコンマ1秒後、


ガブッ!!!


水中から現れた巨大な影がさきほどまで俺がいた位置をかすめていった。影は再び水中に戻っていく。


何なんだ!?いきなり寒気がしたと思ったら何かに襲われた………のか?

じゃあさっきの悪寒はそれを察知したから感じたのか?

しかも察知した後の行動も普通じゃなかった。体がどう動くべきか考える前に動いた。まるで本能的というか………。


そんなことを考えていると、水面から視線を感じた。

水面に目を向けると、水中に顔を浮かべこっちを見る目が6つあることに気がつく。あの生態は向こうの世界でも見たことがある。

あれは………ワニか?数は三匹、あいつらが俺を襲ってきたのか。


ここはあいつらの縄張りだったのか。ワニの魔獣は凛堂から聞いてない。


どうする?逃げるか?戦うか?戦ってどうする?殺すのか?できるのか?俺に………。


また俺が思考のループにはまっているとゆっくりとワニが陸地に上がってきた。


「マジかよ………」


陸に上がってきたそいつら……いや、そいつの姿を見て冷や汗が流れる。


そいつは三匹ではなかった。1つの胴体から3つの頭が生えていた。最初から一匹だったのだ。さしずめ、ケルベロスのワニバージョンって所か………。しかも、その大きさが半端ではない。体長は5 mを軽く超え10 mに達していて、頭の長さだけで俺の背と同じくらいあるのではないかと推測できる。背中は鱗に覆われている。その巨体を支えるための足は6本あり、それぞれに鋭い爪がついている。

先ほどのトライデントブルなんてあっさりとこいつに食われてしまうだろう。


「グルルルルル………」


ワニは俺の方をにらみ低いうなり声を上げる。その目は完全に捕食者の目だ。


ヤバいな……。今の俺のレベルじゃ勝てる可能性は低い。たとえダメージを与えられたとしてもさっきみたいに一瞬でも躊躇ったら今度こそ終わりだ。次はもうない。今回ばかりは逃げるしかない。ワニは走るのは速いが、方向転換が苦手という話を聞いたことがある。幸い、俺の背後は森だ。そこに入ってしまえば、たぶん距離は稼げるだろうし自分の縄張りから離れてまで俺を追ってくるとは考えにくい。今はまだ俺と奴の間には十分な距離がある。後はタイミングか………。


そのとき、ワニの変化を捉えた。奴の1つの口が大きく膨らんでいる。

よくわからんが、今のうちに森の中へ………

分析するより先に体が動き、ワニに背を向け走り出す。しかし…


ゾクッ!!


まただ、またあれだ。振り返ると……


ボッ!!!!!!!!


爆発音が森に木霊こだました。


------------


「ハァ………ハァ………ハァ………」


危ねぇ、ギリギリだった。


俺は先ほどの爆発の直撃はなんとか免れることができた。だが、爆風で吹き飛ばされてしまった。体中痛い。


爆心地は悲惨な状態だった。地面は抉られ、木々は吹き飛んでいた。


あのワニの先ほどの攻撃によるものだ。さっき振り返った時に見た。あれは水だった。あのワニは口に水を収束させ、うがいみたいにしてはき出し、爆発させたんだ。でもその威力はうがいと言うより大砲だ。技のからくりはわかった。


でも逃げる方法を失った。背を向けて森へ逃げればさっきの大砲が飛んでくる。左右に逃げても同じだ。しかも奴は3つの頭でそれができると考えるべきだ。

じゃあ正面突破で水中に逃げるか?論外。


これって詰んでないか?俺はここで死ぬのか?さっきの攻撃食らって粉々になって死ぬのか?冗談だろ?こんなところで………


こんなところで死んでたまるか!!


俺はまだ凛堂にさっきのお礼も言ってないんだよ!

俺が生き残るためには何をすればいい?どうすれば死ななくて済む?


答えはすぐに出た。簡単だ。単純明快だ。


こいつを、目の前のこの化け物を殺せばいい。


「スーーーハーーー」


深呼吸する。落ち着いている。さっきまでのぐちゃぐちゃの思考が嘘みたいだ。

殺す、こいつを、この手で。

今はそれだけ考える。


「ギャァォォォォッォォォォ!!!」


しびれを切らしたのか、ワニがそれぞれの口を大きく開けながらこちらに迫ってくる。

さっきの戦いと同じようにカウンターを狙う。

しかし、一筋縄ではいかない。トライデントブルと違い、こいつは頭が三つある。

たとえ一つの頭を回避しても他の頭が俺の動きに合わせて追撃してくるのだ。それも回避すると自然に剣のリーチが届かない範囲になってしまう。

こうなると魔法の使えない俺がこいつにダメージを負わせる術はない。

だが、奴は違う。俺が距離を保てばあの大砲を撃ってくる。

離れては駄目だ。なら、簡単だ。奴に近づいたまま、戦えばいい。

真ん中の頭の攻撃を左に躱す。自分から見た左側の頭の追撃も躱す。

今自分の脳内は冷静に状況を判断できている。

やつは頭が多い。ならどうすればいいか。今の俺にはそれがわかる気がする。頭が多い。一見するとそれは脅威だが、頭という観点から論理を転換する。頭が三つある、つまり、頭にある他の部位も三倍あるということである。その中に弱点があったなら弱点が三倍に増えたことになる。


だったら狙うべきは………全生物の弱点である、目だ!!

そして、俺はワニの最も左側にある目をぶった斬った。


「ガアアアァァァァァッッァァァッァァァ!」


悲鳴が響き渡る。まだだ。こんなのじゃこいつは死なない。たかだか、6分の1個を潰しただけだ。


次は痛みにもがくこいつの隙を見て真ん中の頭の左目も斬った。ついでに近くにあった左側の頭の右目も斬った。これで奴は左側の視野の大半が見えなくなったはずだ。


あとは簡単だ。見えてない左側から戦えばいい。奴が俺を右側の視界に捉えようとするなら左に回り込めばいい。


「ガアアアアアアァァァァァッッッッッァアァァ!!!」


半分の目を失い、奴は怒り心頭のご様子だ。俺を近づけまいと大砲を放とうとしてくる。以前の俺だったら、この攻撃にビビりまくって動くことすらままならなかっただろう。


けど、今は違う。次にどう動けばいいのかがわかるし、相手の動きもよく観察できるようになった。

そしてわかったことがある。こいつは大砲を放つとき頭から首、胴の部分が一直線になろうとする。つまり、首を左右に曲げた状態では使えない。たぶん、この姿勢じゃないと大砲の反動で自分にもダメージがあるんだろう。これがわかってしまえば、もう何も怖くない。

怒りのままに暴れ回るこいつの攻撃の隙間をぬって鼻を斬る。足を斬る。背中を斬る。腹を斬る。とにかく斬りまくる。傷を負うごとに奴の動きが鈍くなる。

こっちもそろそろ終わらせたいと思っていた所だ。左側の足を切る。左側の頭が俺を食いちぎろうと大きく口を開く。俺はそれを最小のステップで躱す。俺のすぐそばを鋭い歯が通る。風圧がすごい。攻撃を躱してあごが閉じられた瞬間に俺は剣を逆手両手持ちに変え、左側の脳天に思いっきり突き立てる。


「ギャアアアアッアァアァァァァァァッァァアアッッァァ!!!」


より一層大きい悲鳴が上がる。

奴は俺を振り払おうとするが、足を切ってしまっているため、うまく動けていない。剣を引き抜き少し距離をとる。

剣を突き立てた頭は血をドクドクと流し白目を向いたままぐったりと動かない。奴にとってはもう何の意味も成さないただのお荷物と同じだろう。それでも残った目で俺をぎっりと睨んでくる。やっぱりこいつは頭を全て潰さないと死なないか。

奴は足のダメージと左頭部のせいでもう動くこともまともにできていない。

チャンスだ。このまま殺す。


「グオオオォォォォッッォオ!!」


そのとき、奴はひときわ大きな咆吼を上げた。

そして立ち上がった。いや、立ち上がったのではない。後ろ足と真ん中の足の4本で体を支え、上半身を起こしたのだ。まるで熊が2本足で立ち上がって自信の体を大きく見せ、威嚇するかのようだ。

奴はその体勢で俺を見下ろす。そして二つの頭で同時に大砲を放とうと力を蓄積している。


「フ…」


思わず笑みがこぼれる。予想通りだ。やっぱりこいつは四本足で立つができる。


このことは奴の足を切っているときに気づいた。最初は自分の巨体を支えるためのただの6本足だと思っていた。だが、よく見ると真ん中の足が後ろ足よりも長くなっているのだ。なぜそのような構造になったのかはわからない。

しかしこの体のつくりのおかげでできることがあるんじゃないか?だからもしかして…と思っていた。それを今、奴はやっている。上半身を持ち上げたことで、発動の動作に合わせてうまく姿勢を変えていけば大砲の飛距離も攻撃範囲も拡大するだろう。

でも、奴はこの姿勢で最も大きな弱点を晒してしまっている。それに気づいていないほど憤怒しているのか、捨て身の攻撃なのか、どちらかはわからない。

でも、逃げるのは駄目だ。どのみちこの距離なら範囲外に逃げるのは間に合わないだろう。だから俺は全力で奴との距離を詰める。そして走って勢いをつけたまま、剣を思いっきり奴の弱点に投げる。


ドスッ!


「グォ……」


狙ったのは真ん中の頭の下、首の付け根だ。さっきまでは腹ばいになっていてそこを狙うことは至難の業だった。でも今は違った。ワニの腹の肉が柔らかいからか、うまく刺さった。成功するかは正直賭けだったが、俺は賭けに勝ったようだ。

あまりの痛みからか、短いうめき声を上げ奴のモーションが一瞬止まる。この一瞬を利用して距離を詰め、刺さったままの剣をつかむ。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ!!!」


腹の底から声を上げ、刺さったままの剣を目一杯水平になぎ払った。。

奴の首筋に一直線の切れ込みが入ったかと思うと、ワンテンポ遅れて一気に血が吹き出してきた。

近くの俺に返り血がかかっていく。

ぐらりとワニの体が揺れたかと思えば、起き上がっていた上半身は糸が切れたように倒れかかってくる。最後の力を振り絞って潰されないように数歩移動する。


ズシン………と音を立ててワニの体は倒れる。その体はピクピクと痙攣しており、目からは生気が失われていく。


それでも血はまだ止まらずに血だまりを作っていく。

初勝利の味は血の味だった。



読んでくださりありがとうございます。

次話の投稿は8月31日以降の予定です。

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