表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

第24話 デューベルク王国

6月中に更新できなくて申し訳ありません。

今回のお話は幕間のようなものになっております。


次回からは正真正銘新章を始めていきます。



うっそうと生い茂る草木。

かろうじて人が通れる程度の獣道。

人の背丈より高い木々。


そして、そんな木々の中にポツンと建っている一軒の家。

その家の由縁は教会だったり、孤児を集める施設だったり、はたまた国を追われたマッドサイエンティストが非人道的実験を行うための秘密の隠れ家だったりと様々であるが、今となっては真相は誰にも分からない。


これだけ見れば、まさに絵本や童話に出てくる不思議な森と物語の舞台となる家そのものである。


だが、現実は少しだけ違う。そこに異質なものが混じる。


草をかき分け慎重に進む影がおおよそ十ばかり。身を隠しながら進んでいるが、人だ。皆進む速度は違えど、目的地は同じようだ。一団となってあの家を目指す。


やがて一団は森が開け家の周辺の地点まで到達した。すると、進んできた影の一人が周りの影に短く合図をおくる。周りの影はそれを受けとると、素早く家を取り囲むようにばらけ始める。

皆が配置に着いたのを確認すると、先程の合図をおくった一人が動き出す。


そこでようやくその姿が露わになる。鎧を着た男だった。男と言っても甲冑を着込んでいるため顔は見えていない。しかし、その肩幅や背丈から男だと想像できる。

男は素早く走り、家の正面入り口の壁に身を寄せた。

すると、家を囲んでいた他の者も次々と先程の男と同じように、ところどころにある窓や家の中から見えない死角まで移動した。その様はまるで特殊な訓練を受けた機動部隊のようだった。

皆が先程の男と同じような鎧を身につけている。輝く銀色の鎧。山賊や盗賊ではない。


国の軍隊のそれだ。


そんな中、一番最初に動いた男の側にその中の一人が駆けつけた。


「隊長、全員配置に着きました。」


隊長と言われた者はそれを聞くと、軽く息を吸い


「突撃!!」


叫んだ。

その瞬間、全員が一斉に窓を突き破り、家の中へ入っていく。正面の二人もドアを蹴破り、中へ入っていき、剣を抜く。

だが、そんな者達を出迎えたのはその家の持ち主ではなく、ただの静寂だった。



――――――――――――――――



「ダメです。誰もいません。」


「そうか……。」


男は報告を受け取る。この男は突撃の合図をした男である。どうやらこの集団の隊長であるらしく、先程から部下の報告を聞いたり指示を出したりしている。


「よし、おまえは戻り王へ報告を。他の者はここで私と捜査を続ける!いいな!?」


「は!了解であります!」


隊長直々に指示を受けた男は素早く森の中へと駆けていった。近くに足の代わりとなるものがあるのだろう。

他の者も何人かの少人数に別れて指示通りに家の周辺、内部などの操作を続けている。


あらかたの指示を終えた隊長は短くため息をついて、空を見上げた。


「一体どこに行ったのだ……………魔王は」


そのつぶやきは誰の耳にも届かなかった。



――――――――――――――――



「―――――――以上が調査隊からの報告です。」


「やはりもぬけの殻だったか………。」


「はい。葛井かずらい様の探知サーチにも反応はないそうです。」


会話を交わす男女。そして、何人かの者たち。

彼らは円形の机を囲むように座り、二人の会話を静かに聞いていた。


「いかが致しましょう、お父様。」


先の女性は手に持っていた紙の束を机に置き、改めて男に向き直った。

その女性は赤いドレスを身に纏い、宝石の埋め込まれた髪飾りをしていた。どちらも高価なものなのは明らかだった。

だが、そのどちらも霞んでしまうほど、その女性は美しかった。

首から鎖骨にかけ露出した、玉のように美しい肌。

そのドレスを押し上げる胸部の膨らみ、対照的に細くくびれた腰。

それらは黄金比のようなバランスだった。そしてそれらに美しく映える栗色のゆるくウェーブがかかった髪。

まさに百人中百人が絶世の美女と断言するであろう美貌そのものだった。


一方で、彼女の顔はその女性らしい体と違い、まだ少女のようなあどけなさを残していた。

そのギャップが一段とまた彼女の魅力を上げている。


「………………」


彼女に意見を求められた男は、しばし考えるような素振りを見せた。

その男は先の女性と比べるとかなり年上のようだが、それでも目鼻立ちが整った顔をしていた。顔に深く刻まれたしわや口元の刈り揃えられた髭はかなり年配の印象を与えるが、彼から発せられる剣気は常人のそれではない。

一体この領域に至るまでにどれほどの死線をかいくぐってきたのか、若輩には想像することすら憚られる。


彼の名はゲオルギウス・デューベルク。

デューベルク王国の第115代国王。そして、世界最強と名高い男である。

彼に付き従う女性、彼女の名はリーリア・デューベルク。ゲオルギウス・デューベルクの娘であると同時に、王の血を引く者である。


ここはデューベルク王国の王城、その一室で行われている緊急会議である。

デューベルク王国はこの世界において最も歴史がある国の1つである。当然この国の歴史は一言で表せるものではなく、過去には反乱も飢饉も厄災もことごとく経験したことがある。しかし、今日まで繁栄を続けており、今ではこの国に逆らう者はいないとまで噂されるほどである。

そんなこの国では最近、さらに国力を増大させたとささやかれている。その噂の根源とされているのが異世界からの来訪者、つまり―――――――


勇者召喚


である。

そしてこの部屋に集められているのは王族だけではない。


「ま、そりゃそうだわな。」


沈黙を破り、声が投げられる。

話したのは、思いっきり椅子にもたれかかっているショートヘアの青年だ。


「勇者様に賢者様、二人が付いていながら生存者はこの二人だけ。これは黙るしかないよな。」


「ちょ、ちょっと!左久間さくま君!」


そのとなりに座っていた女性が慌てて彼の挑発的な発言を止める。


「確かに、その節は私たちの力不足でした。大変申し訳ありませんでした。」


左久間と呼ばれた青年に対し、少女が謝罪した。

彼女の名は藤林優衣。この国に召喚された勇者の一人である。

そして彼女の隣に座っているのは天原正輝。左久間の発言にはむすっと明らかに不機嫌になるだけだった。


「頭を上げよ。今回はあやつの力を見誤った我々全員の落ち度だ。誰もこの事態を想定できなかったのだからな。」


先日藤林と天原はある任務を承った。

それは一月ほど前に観測された魔力の異常現象の調査である。この現象が観測されてから何度か調査隊が派遣されたが、誰も帰ってこなかった。その異常性を考慮して国の最高戦力である勇者に白羽の矢が立ったのだ。

だが、結果はこの有り様である。対象の捕縛失敗。勇者と共に任務に当たった騎士達は全滅。三人の勇者の内、二人は敗走、一人は生死不明。最悪の結果である。


「結局無駄に兵士を死にに行かせたみたいなもんじゃねぇか。」


「左久間君!言い過ぎだよ!」


「本当のことだろ。」


「三人がかりで勝てなかったんだよ。私たちだって……」


その言葉で会場が沈黙に包まれる。


「藤林、今回の騒動の黒幕はあいつで間違いないのか?」


今度は武人のような大柄の男が声を上げた。腕組みをしながら尋ねるその様はまるで何十年もこの道に携わるベテランのようだが、驚くべきことに彼もまた勇者の一人であり藤林と同い年なのである。


「ええ、その通りです。」


「そうか…………。実際どうだった?」


「……………直接彼女の相手をしたのは私と天原君ですが、全く相手になりませんでした。あのときとは比べものにならないほどに。」


「あいつもただ遊んでいたわけではないか。それに………………。」


「まさか召喚魔法を使えるとは……。」


国王が頭を抱える。


召喚魔法。

それはその名の通り異世界から勇者を召喚するための魔法。藤林達もこの魔法でこの世界にやって来た。この魔法はこちらの世界と別次元に存在する世界をつなげるための高度な技術、それを維持するための膨大な魔力を必要とする。そう易々とできる代物ではない。4年前だって、国の中で最も魔力を保有するリーリアを中心に召喚儀式が行われたが、彼女一人の魔力では遠く及ばず何人もの優秀な魔導師がそれをアシストし、足りない分の魔力を補うことでようやく成功したのである。それを魔王はたった一人で使ってみせたのである。


「…………………かなりマズいですね。」


リーリアがつぶやく。


「そうだな。あやつが召喚魔法を使えるなら、これまで以上に厳しくなるやもしれん。」


二人が言っているのは魔王が仲間を召喚する可能性のことだ。


だが、藤林はそれはないだろうと推測していた。召喚魔法がそう何度も使えるようなものではないということは知っている。だが、それ以外にも相対したあの女が召喚魔法を使わないと確信できる何かが藤林にはあったのだ。これは理屈ではない。あえて言うならば、女の勘と言う奴だ。

だが根拠は何もない。楽観的な推測は慢心を招く。なのであえて藤林は黙っていた。


「話は変わるが、どうだった?」


再び、強面武人が藤林に尋ねた。


「どう、とは?」


「俺も報告書は目を通した。あの男を前にしたとき我らはどうすればいい、ということだ。」


その言葉で皆が一斉に藤林と天原を見る。

つまり、敵か味方か。

この世界で彼に会ったのはこの二人しかいない。


「失礼します!」


突然、会議室のドアが開かれ一人の兵士が駆け込んできた。

おかげで皆の注意は藤林ではなく、そちらの方へ逸れてしまった。


「会議中申し訳ありません!至急お知らせしたいことが!!」


「構わん。話せ。」


ゲオルギウスが応じる。


「は!あの方が…………予言者様が…目を覚ましました!」


「「「「!」」」」


「すいません、私が行きます!」


「あ、わ、私も行きます!」


藤林と先ほど左久間を注意していた女が席をたつ。誰が止める間もなく、そのまま部屋を出てしまった。



―――――――――――――



その部屋は会議室より離れた場所にあった。

藤林は長い廊下を走る。目的の部屋の扉の前には二人の見張り兵がいるが、顔パスで通る。すでに誰かがこの部屋に来ることを予測していたようだった。


宙野そらのさん!」


二人が戸を開く。


部屋の中はいたってシンプルでベッドや机があるだけだった。広さは先程の会議室より小さいが、それでも一人の人間にとっては広すぎる方だろう。

その部屋のベッドの上で一人の少女が上半身を起こし、窓の方を見ていた。


「あ、藤林先輩!それに千鶴ちづるさんまで!」


少女は二人が部屋に入ってくると窓から視線を戻し、二人に笑顔を向けた。


弥生やよいちゃ~ん!久しぶり・・・・~!」


「わわ!千鶴さんってば~。」


藤林に付いてきた女性が寝ていた少女、宙野弥生そらのやよいに抱きついた。


香山かやまさん、まだ起きたばかりなんですから。」


「あ、そうだった。ごめんね~。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。先輩も千鶴さんもお久しぶりです。髪もだいぶ伸びましたね。」


「えぇ、そろそろ切ろうと思ってるんですけど…」


「え!もったいないですよ。そのままの方がいいですって。」


「ふふ、ありがとうございます。」


「弥生ちゃん弥生ちゃん!私は?」


「千鶴さんは…………少し太りました?」


「し、失敬な!!」


そんな他愛のない会話に花を咲かせていく。

だが、この部屋にいる彼女もまたただの少女ではない。


彼女が授かったスキルは予言。未来を予知することができる。


しかし、それは少し正確ではない。厳密に言うと、彼女の力は予知夢なのである。

そして、夢は寝ている間しか見ることができない。


宙野弥生の腕は細い。腕だけではない。足も体も細い。今の彼女は自力で立つことすらままならない。今もベッドの枕を背もたれ代わりにして上半身だけ起こしている状態である。


二人は彼女の現状を知っている。そして、彼女が起きたということが何を意味するかも知っている。


宙野弥生もまた自身の置かれている環境を知っている。

この部屋で自分がしなければいけないこと、それを成すために何を犠牲にすればいいのか。

ここから出られるのは全てが終わったときであることも。

すべてわかっているのだ。



―――――――――――――――



「予言者殿はあの二人に任せて大丈夫だろう。」


「はい、そうですね。」


会議室でゲオルギウスが口を開く。

女性二人が退出したことで結局会議はお開きになってしまった。今はゲオルギウスとリーリアのみがこの部屋にとどまっている。


「先程の続きだが、もう一つ気になることがある。」


「犬山明香里様………のことですね。」


『……………犬山は一度俺と藤林を離脱させた後、もう一度どこかへテレポートしちまいましたよ。それが最後っすよ。』


藤林がいなくなった後に天原から聞いた当時の状況を思い出す。


「犬山様の死体はまだ確認できておりません。彼女のスキルは移動には最適です。おそらく魔王に………」


捕まり、利用されているだろう。そこまでは誰でも想像できた。 


「私は彼女を疑っている。」


「!!お父様、それはどういうことですか?」


「彼女が我々を、この国を裏切っているということだ。」


「まさか……そんなことは……」


「おまえの推測によれば、彼女は戻ってこられないということらしいな?」


「それは…魔王に何かしらのスキルを封じられる術を…」


「そうだな、私もそう考えていた。だが、そうではないとしたら?」


「?」


「戻ってこられないのではなく、意図的に戻らないとしたら、これは裏切りだ。そう考えると、彼女が自らこの任務に志願した理由も頷ける。任務のためではなく、あやつと合流するためなどとな。」


「だとしたら、犬山様は最初からこの現象が魔王の仕業によるものだと分かっていたと……?」


「あぁ、おそらくだがな。」


「そんな………どうして…………」


「あくまで推測だ。証拠も何もない。本当にただ捕まっているだけかもしれない。私もそうであることを願っているが…………………いずれにしても今は一刻も早くあやつらの居場所を突き止めねばならない。それまでこのことは私とおまえだけにとどめておいてくれ。」


そう言い、ゲオルギウスは部屋から出ようとする。


「……………」


リーリアは呆然とした様子だった。信頼していた者の裏切り、これほど心を深く抉ることはないだろう。


「もう一度言うが、推測に過ぎない。おまえは今まで通りとはいかないだろうが、信じてやればいい。疑うことは今はまだ私がしておく。」


「………………はい。」


弱々しくうなずく。

リーリアは優しい。誰もがそう思っている。だからこそゲオルギウスは心配しているのだ。優しさだけではどうすることもできないことがあると知っているが故に、彼は気にかけている。


優しさが踏みにじられることがあることを知っているが故、彼は疑うのだ。


だからこそ


「もし彼女が本当に裏切っているのなら、容赦はしない。」


この男は揺るがない。


「予言を元に作戦を検討する!各地に派遣されている勇者たちを召集せよ!最大戦力をもって魔王を討伐する!!」




読んでくださりありがとうございます。


また、初めての三人称の文なので誤字脱字等ありましたら報告お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ