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第23話 月下のガールズトーク

お久しぶりです。

亀更新で申し訳ありません。



時間を少しだけ遡る。


これは陣野一行がイアと名乗る冒険者と別れた時から十時間ほど前のお話。


時刻は深夜。満月が夜空に浮かび、崩壊したリューシンの町並みを照らしていた。



―――――――――――――



その晩私は眠らなかった。興奮で目が冴えて眠れないとかではない。意図的に眠らなかったのだ。

皆が寝てることを確認してから、体を起こす。


近くで寝ているケー君を見る。

スヤスヤと寝息を立てて寝ている。


かわいい。

かわいすぎ。


食べちゃいたい。というか襲いたい。めちゃくちゃにしたい。


でもダメだ。やることがある。


自分の内側で蠢く沸騰間近の欲望をなんとか堪え、ケー君を起こさないようにそっと宿を出てある場所に向かった。


深夜の道を一人で歩く。けど、雲も無く月の光のおかげで割と見やすい。

私の目的地はあのアンデッドを倒した場所だ。


なぜここに来たのか?

それは―――――――


「やはりあなたですか。ここに来ると思ってました。」


夜の深い闇の中から自分以外の声が聞こえた。

声のした方を振り向く。


「こんばんは、イアさん。」


そこには私たちと一緒に戦った女冒険者がいた。


「あなたが犯人ですよね。」


出会い頭にこの一言。

静かな夜。声がよく通る。


「犯人はあなたですね、マリさん。」


再度・・彼女は私に告げる。抑揚もなく、ためらいもない。ただ淡々と言葉を発するだけだ。


「いきなり何の話ですか?全く意味がわからないんですけど。」


突然のことで、しかも犯人扱いされて戸惑う


―――――――――なんてことは一切無かった。むしろ頭は冴えきっていた。


現に、『このセリフってドラマとかでよく聞く言葉だったなー』なんて考えていたぐらいだ。


「とぼけないでください。くだらない演技に付き合うつもりはありません。」


「つまんないの。」


イアさんは全然笑ってない。

今まで――――と言っても一日や二日ぐらいの付き合いだけど――――の温和な感じは全くない。

私の記憶の中のそれと反対に冷たく、それはまるで――――――――


「吸血鬼。」


「!」


「イアさんって吸血鬼でしょ?ヴァンパイアって言うのかな?あ、だからイアって名前なの?」


数秒イアさんが黙る。


「………………………………いつそれを?」


イアさんの口から出た言葉は否定ではない。それはつまりそういうことだ。


「はじめからかな。あ、気づいた理由はなんとなくね。なーんか違うなーって思ってたの。それだけ。」


「それが素のあなたですか。知っていたならなぜ言わなかったんです?」


「だって……いつでも殺せるから。」


「っ!」


イアさんがたじろぐ。腰に差した武器レイピアに手を伸ばす。

ほんの少し殺気をちらつかせただけなのに、大げさだなぁ。


「フフ、冗談だよ。まぁ、それもあるけどあなたが私たちと戦うつもりはないってわかったから。」


「どうやって……?」


「まぁまぁ、そっちばっかり聞くのはフェアじゃないから、今度は私の番ね!」


イアさんの話を途中で打ち切り、向き合う。


「犯人はあなたでしょ?吸血鬼のイアさん?」


彼女に問いかける。ほんのわずかに表情が変わる。


「私ね、あなたとはゆっくり話してみたいって思ってたの。」


私がここに来た理由。

それはガールズトークをするためだ、なんて言ったら信じてもらえるだろうか?



――――――――――――――――――



私たちはリューシンから少し離れた森の中へ来ていました。

この女が場所を変えようと言ってきたのだ。少し癪ですが、仕方がありません。


確かに私にとっても人目を避けるのは都合がいい。


「この辺でいいかな。誰も来ないだろうし。じゃあ、どこから話そうか?」


「……………あなたの目的は何なのですか?」


「いきなりだね。あ、でもその前にルール決めようか。」


「ルール?」


「うん、お互いの質問の数を同じにすること。こっちのほうが面白そうじゃない?」


「つまり、私が質問した分、あなたも質問できると言うことですか。わかりました。」


「じゃあ私は後からでいいからイアさんが質問した分だけ質問させてもらうね。」


これは等価交換ということでしょうか。

自分が知りたければその対価を差し出さないといけない。

でも従うしかない。おそらく私ではこの女から強引に情報を引き出すことはできない。下手をすればこちらの命が危うくなるでしょう。


「では、1つ目の質問です。あの魔獣はなんですか?」


まずは一番気になっていたことからだ。


「あぁ、あのアンデッドのこと?あれはね……」


「あれはアンデッドではないですよね?」


「へー、気づいたんだ。」


やはり思った通りです。


アンデッドを知っている者ならアレの運動性能を見れば違和感を覚えるはずです。確かに生前の記憶、癖などと言えば多少はうなずけますが、あれはその域を遙かに超えています。

まぁ、彼はアンデッドを見るのは初めてだったようですし、あの女の方はあまり細かいことに拘りがなさそうなので気付かなかったようでしたが。


ではアレは何なのか。


おそらく、アレは幻。

つまり、アレに幻影系の魔法が使われたと考えるべきでしょう。元々の魔獣に別の魔獣、つまりバフォメットに見えるような魔法を使用したのではないかと。アンデッドのように見えるようにしたのは相手をひるませるための演出でしょう。

つまり、私たちはバフォメットに見える別の魔獣を相手に戦っていたということです。


「なかなか良い観察力だね。正解だよ。あの魔獣はアンデッドじゃないよ。」


「では何なのですか?」


「さぁ。」


「え?」


「実は私も知らないんだ。」


「ふざけないでください。」


一挙一動が挑発的な彼女を睨む。


「あなたが知らないわけないでしょう?だってあの魔獣は………」


「私が連れて来た、から?」


私の言葉を遮り、彼女は笑う。

彼女は私の言いたいことを先読みしていた。その顔には余裕の表情が浮かんでいた。

本当にこの女は腹が立つ。そうやって何もかもが自分の思い通りなんだという顔が私の感情をかき乱す。


「私の推測はあなたがあの魔獣に出会い、従わせ、私たちと戦わせたというものです。確かにおかしい点はたくさんあります。ですが、こう考えるほかないんです。」


「まぁまぁ、落ち着いて。ごめんね。私の言い方が悪かったね。私が知らないって言ったのは魔獣の名前のこと。イアさんの推測は半分当たってるよ。」


「……半分?」


「うん、半分。え~と、イアさんの質問は『あの魔獣は何か』だよね。あの魔獣はね、私が作ったオリジナルの魔獣なの。」


「あなたが……作った?」


女は何の屈託のない笑顔で言う。

この人は一体何を言ってるんだろう?今まで多くの人間共を見てきたけど、目の前の人物はそのどれとも違う。


「馬鹿な……。魔獣を作るなんて聞いたこともない!そんな魔法あるわけがない!一体どうやって……」


「いいの?それ2つ目の質問になっちゃうよ?」


「っ……………」


「言っとくけど嘘はついてないから。」


「………………………構いません。」


「バフォメットの死体と他の魔獣の死体を混ぜたの。合成アンデッドって言うのかな。あとはそのできあがった体に知性を付加して動かしてたの。あ、でもそうすると知性があるから正確にはアンデッドって言えなくなるのかな?」


魔獣の合成……知性の付加…?


「初めてだったから不安だったけど、うまくいったから良かったよ。」


「そんなこと…できるはずが………………。ではあなたは自分であの魔獣を作り、自分たちを襲わせたというのですか!?」


「そういうこと。」


「どうして…どうしてそんなことを!?そんなことをしてあなたに何のメリットがあるんですか!?だいたい死体を混ぜ合わせて新しい魔獣をつくるなんて………そんな方法あるわけがない!………………そんなことで私が納得するとでも!?」


わからない。ただひたすらにそれだけしか思わなかった。問い詰めて相手が答える。この作業を繰り返しているだけなのにわからないことが増えていく。


「おぉ~、たくさん質問するね~。」


しまった……少し冷静にならなければ…。

この場合の最適解は最小の質問数で自分の知りたいことを聞き出すこと。むやみに質問を繰り返すのが最も愚策。

そんなことはわかっている。理解しているはずなのです。

でも、止められなかった。


「う~ん、そんなに質問されても私は聞くことないからな~。」


聞くことがない……?この人…どこまで……?


「あ、じゃあ、私が質問する代わりにあの魔剣ちょうだい。それでチャラにしてあげる。」


私は今日初めて理解できないということの恐怖を知った。


「そんな…急に言われても……」


「ま、困るよね~。だってあの魔剣は元々そっちのだもんね。」


「っ!!……気づいてたんですか……」


「あ、ほんとにそうだったんだ。」


見ると、こいつはにやにやして笑っていた。


「いや~正直者だね。」


「…………………」


クソ…かま掛けられたんだ……。

ダメだ…。今の私はこいつに遊ばれてる。

私じゃこいつには勝てない…………。


「……わかりました。お譲りします………。その代わり私の質問に答えてください。」


「うん、いいよ。交渉成立だね。」


改めて私はこの人と向き合った。

とても悔しい。ここまで完全に敗北したのは初めてだ。


「……どこまで知ってるんですか?」


「フフ、いいよ。教えてあげる。」


そうして目の前の女は語り始める。


「その前にあなたの方はどこまでわかってるの?推論でもいから聞かせてほしいな。」


「……アンデッドについては先ほどと同じです。アレの挙動について違和感を憶え、この襲撃を手引きしていた者がいたのではないかと。」


「私がそうだって言う証拠は?」


「いいえ、ありません。ですが今日の夜に死体の残骸を処分しに来ると思いましたので。」


あの残骸は犯人と犯行を繋げる唯一の証拠。

これを放っておく手はないはず。だから私は来たのだ。


「待ち伏せしてたわけかぁ。じゃあ、特定まではしてなかったんだ。」


「……………」


本当のことを言うと、この三人はほとんど疑ってなかった。だからこの場にいない、他の勢力の者だと思っていた。


「やっぱりそうだったんだ。」


やっぱり?


「『犯人は犯行現場に戻ってくるものだ』私たちの故郷の頭のいい人が言ってた言葉だよ。」


「それが何だと……」


「あなたもそう思ったんでしょ?私がここに戻ってくるって。だから待ってた。」


!まさか…初めから全部……


「あなたは…!私があの場に来ると、分かっていたというんですか!?」


「あなたの行動には変なところがあるからね。アンデッドがおかしいと思っても私たちにそれを相談しないで、挙げ句の果てに一人で待ち伏せしてること。まるで、誰にも気づかれないように犯人と話さないといけないことがあるみたい。」


「それだけで……」


「もちろん、吸血鬼だって言うのが一番の理由だよ。このタイミングで魔剣の騒ぎが起こるなんて、本当に偶然なのかなって。」


それを仲間の二人に言わなかったのはあくまで自分の脅威になるとは思わなかったから…。


「私ね、昨日初めてイアさんと出会った日の夜にこっそり抜け出して魔剣を回収してたんだ。その後に魔獣を作ったの。これでどう?納得できた?」


「っ………できるわけないでしょう……」


「じゃあ、今度は私が推測を話す番だね。あなたは魔剣を持ってリューシンへ来た。目的は……………分からないけど、たぶんある街を壊滅させること。」


そして目の前の女はゆっくりと私を指差し


「イアさん、リューシン襲撃の犯人はあなたでしょ。」


「………」


「まぁ、犯人と言っても直接リューシン襲撃に関わった訳じゃないみたいだけど。それでもこの出来事の発端はあなただよね。」


「…………本当に全て知ってるんですね。」


「あくまで予想だよ。あなたは近くに生息してる魔獣に魔剣をあげて街を襲うようにけしかけた。私たちと出会ったのはちょうどその後だったのかな。」


「…………全てあなたの言うとおりです。」


完膚なきまでの敗北。

昨日初めて会っただけなのに、この人は一体……?

いや、こいつは人じゃない。


あの日、私は魔剣の性能調査のために来たのだ。この魔剣は私と相性が悪かったため、その辺の魔獣を使ったのだが全てが想定以上だった。破壊力、耐久性共に申し分ない。この女がほしがるのも無理はない。


「じゃあ、あの剣もらってくね。」


「…………………………最後に一つ良いですか?」


「ん?」


「どうして………こんな回りくどいことをしたのですか?」


この女の言い分はおかしいのだ。

私が魔剣を渡した魔獣はサイクロプスの亜種だったはず。ですが、私たちの目のまえに現れたのはバフォメットだった。この女の話から考えるに、剣を奪い魔獣を作りそいつに持たせたことになる。

だけど、それだとあまりに非効率的だ。なぜそんなことをする必要があった?魔剣が欲しいなら単に魔獣から奪うだけで良いはずだ。


「ケー君のためだよ。」


「は?」


「だから、ケー君のためだってば。ケー君にプレゼントするためなの。」


ケー君?あぁ、仲間のあの男のことか。確かにこの人はあの男に好感情を持っていたのは気づいていた。でも、だからこそ


「訳が分からない!今までしてきたことが自身の仲間のため!?ふざけるな!!あなたのしたことのどこにそんな正当性があると言うんですか!?その大事な仲間が死ぬ可能性だってあったはずだ!ただあなたが魔剣を渡せばそれで済む話だったでしょう!なのになぜ……………。私は、あなたがやったことを理解できない!!」


限界だった。自分の中で分からないことが多すぎた。

吐き出したかった、何もかも。

こいつの言うとおり私は人間ではないし、人間が同族同士で騙し合おうと殺し合おうとどうだっていい。ただ、愚かだと思うだけだ。

だが、こいつは違う。私が激情を感じていたのは、目の前のこの女が自身のしたことをちっとも悪だと思っていないからだ。


「死なないよ。」


返ってきたのは短い言葉。


「ケー君は死なない。絶対死なない。だって私を守ってくれるんだもん。」


視線を上げる。女と目が合う。女は笑っていた。


「前に言ったんだ。『ケー君は私と一緒にいればいい。面倒なことは全部私が片付けるから。』って。だけど、ケー君はたぶん納得しない。ケー君優しいから、私だけに苦労を押しつけられないって思ってる。二人で乗り越えていこうって言ってくれる。二人で、いつまでもずっと二人で、晴れの日も雨の日も風の日も雷の日も健やかなる日も病める日も勇者が来ても魔獣が来ても魔人が来ても誰が殺しに来ても!たとえ世界が滅んでも!!ずっと、ずぅぅぅぅぅぅぅっと二人で一緒にいてくれるんだ♡でも今のままじゃケー君じゃ勝てない奴がいる。だからケー君にはもっと強くなってもらわないといけないんだ。そのための第一歩だよ。私がただ剣を渡すだけじゃダメなの。ケー君が戦って、勝って、そこで初めて強くなれるの。そうやってどんどん強くなってくれるの。私のために。私だけのために。全部私だけのためなんだ。だから、私もケー君のために生きるの。だって愛してるから。それが愛ってものでしょ。今やったこともこれからも全部ケー君に捧げるの。」


あぁ、ダメだ。

この人は私と次元が違う。

狂ってる。

理解できるはずがなかったんだ。

最初から理解しようなんて考えが間違いだったんだ。


でも


私は、悔しくて


悔しくて悔しくて悔しくて


「はっ―――――――――」


ほんの少しでもこの女にやり返したくて


「あんな男のために、ですか。」


逆鱗に触れてしまったのだ。


「あれほどの男のどこにそんな価値があるのですか?知識があるわけではなく体術を会得しているわけでもなく剣術だって平凡で魔法も使えないのでしょう?だったら――――」


「黙れ」


その瞬間、わたしの体に衝撃が走った。

先程まで4、5メートル離れていたはずの女が一瞬で私に近づき、腹部に拳を打ち込んだのだ。あまりの威力に足が地を離れ、宙に浮いてしまう。


この事実が分かるのは数秒後なのだが、とにかくこの時の私は突然の痛みにただ苦しむことしかできなかった。膝に力が入らず、呼吸がうまくできない。そのまま地面にうずくまる。


「ケー君のこと何も知らないくせに、わかったような口をきくな。ケー君はおまえらみたいなゴミとは違うんだ。」


「う……げほっ………」


むせる。口の中で鉄っぽい味が広がる。

それでも女は追撃を止めなかった。苦しむ私の頭を踏みつけたのだ。


「ぐっ……」


力はそれほど強くない。だが、今の私はそれを耐えられる状態ではなく、屈辱的にも地べたに顔を付けることになってしまった。

かろうじて目を閉じたが、鼻にも口にも土が入ってしまった。

痛く、悔しく、そして気持ち悪かった。


「ぐぅぅぅっ……………」


そんな嗚咽のような声しか出せなかった。

女の顔が見えなかったが、今どんな表情で私を見下ろしているのか、簡単に想像できた。

私が人間に向けてきたものと同じだ。


「じゃあ、戻ろっか。分かってると思うけど今話したことは全部内緒ね。もし話したりなんかしたら………」


女はさっきまでの態度と打って変わって、無邪気に話しかけながら足をどかした。


「…………………………分かり、ました。」


「フフ、正直でよろしい。」


そう言って女は歩き出す。月明かりが残った私を照らす。

女は無防備な背中をこちらに向けている。


今なら――――――――


なんて考えが頭をよぎる。


「くっ……………!!」


だが、私は振り上げた拳を地面にぶつけることしかできなかった。



読んでくださりありがとうございます。

これで2章はおしまいです。

次回から新章ですが、変わらず更新頻度は不定期です。

これからもこの作品をよろしくお願いします。

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