第21話 vs mysterious monster -後編
更新が滞って申し訳ありません。
「作戦?」
思わず聞き返してしまう。
「うん、作戦って言うほど難しいことじゃないんだけどね。ただ私が向こうに加勢するだけだし。」
凛堂が少し微笑みながら言う。
「今のあいつには飛び道具も効果は薄いだろうし…。相手はあいつ一人しかいないから、こういうときは数で押し切っちゃうのが無難だと思うの。」
凛堂が説明する間も爆発音や破砕音が辺りに響き渡っている。
今も尚、激しい戦闘が続いている。犬山もイアさんも強いが、あの魔獣は二人と完全に互角に戦っている。このままじゃ埒が明かない。
確かに、凛堂の実力は申し分ないだろうし、その作戦もとい、戦略にも異論はない。だったら………
「俺も一緒に行く。」
「…………………………」
「その作戦なら凛堂一人より俺たち二人の方が効率的だろ?」
「ううん、ケー君はここにいて。」
「え?」
凛堂の口から出たのはまさかの否定の言葉だった。
「なんでだよ!?俺も一緒に行った方が……」
「ケー君にはここであいつを攪乱させてほしいの。」
「……攪乱?」
「あいつは最初に私たち四人全員を見てる。それにさっきの魔法で狙撃の存在も認識させられた。だからあいつは今自分の視界に映ってない人に対してはどこかで自分を狙っているって考えると思うの。その警戒心があるのとないのとじゃかなり違うから。」
「でも…俺は……」
「あいつはケー君が魔法を使えないってことは知らないから……………だから…気付かれないはずだよ……。」
「なんだよ……それ……。それって…………」
本当に役立たず、ってことじゃないか……………
「違うよ。そうじゃない。」
激しい爆音の中、凛堂の声がやけに聞こえる気がした。
「あいつはね、ほんとに強いの。ケー君だって強くなってきてるのは知ってるよ。私ずっと見てたもん。でもね、あいつは今まで戦ってた魔獣と格が違うんだよ。だから、ケー君が弱いからじゃなくて、あいつが強すぎるからケー君にはここにいてもらうの。」
それだけ言うと凛堂は俺に近づいてきて、優しく抱きしめてくれた。
「ごめんね。こんなこと言ってもケー君は納得してくれないよね。きっと自分のこと責めちゃうよね。私も経験したことあるよ。私だってあのときは自分の無力さを恨んでたよ。でもね、私はケー君に危ない目に遭ってほしくないの。だから、私が戦うの。」
凛堂は俺から離れ、再び笑顔を向けた。
「じゃあ、行ってくるね。」
そして、凛堂は俺に背を向け戦場へと向かおうとする。
その様子を見ていた俺の心にある言葉が重くのしかかっていた。
俺はこのままでいいのか、と。
確かに俺が出しゃばるよりかは凛堂が戦った方が勝てる可能性は上がるだろう。
そりゃそうだ。凛堂は強い。俺なんかよりずっと…………………………。
でも
「ケー君?」
気がつくと俺は凛堂の手首を掴んでいた。
「…………………こんな怪我で戦うつもりかよ。」
俺が握っていた凛堂の右の手のひらを見せる。
「…………………………………………」
凛堂の右手は大怪我を負っていた。
手のひらからは流血している。
「さっきか……。」
最初にあの魔獣に遭遇した時のあの攻撃の時だ。
あの爆発からとっさに俺を庇ったのだ。
そして怪我をした。
「……………………………気付いてたんだ。」
「当たり前だろ。俺だって凛堂のこと…………ずっと……」
こんな状況なのに、恥ずかしさで言葉が詰まる。
「…………ずっと………見てた……から………」
「っ!!/////////」
「だ、だから、俺が行く。」
「!でも……」
「凛堂の言うとおり、俺じゃあいつには敵わない。だけど、俺もおまえに危ない目に遭って欲しくないんだ。それに………ちゃんと考えだってあるんだ。今さっき思いついたんだけどな。」
「ケー君………」
「俺一人じゃあいつに勝てない。だから協力して欲しい。」
そう言って赤くなっている凛堂の顔を見つめる。
今まで生きてきた中でダントツに恥ずかしいこと言ったけど、これでいいんだ。
俺はこのために、凛堂を守るために鍛えてきたんだから。
さすがにそのセリフは恥ずかしすぎて言えなかった。
―――――――――――――――
「くそっ!」
まただ。またあたし達の攻撃が届かない。
いや、この言い方は正しくない。
あたしとイアさんの攻撃はちゃんとあいつに当たっている。だけど、致命傷には達していない。全て避けられてしまうのだ。
さっきからずっとこの調子だ。ほんとにストレスが溜まるヤツだ。
人は見た目に寄らないなんて言葉がよく似合うなぁと思う。まぁ、人じゃないんだけど。
「!」
「これは…」
そのとき急に霧が発生して魔獣を包んでしまった。
これは……水の魔法だ。ということは……
「やっほー、生きてる?」
「どーも、おかげさまでね。」
「マリさん!ご無事でしたか。」
やっぱりこいつか。
こっちは必死なのにずいぶんのんびりしてるなぁ。
「で、どうしたの?急にここまで来て。」
「実はちょっと作戦があってね。エヘヘヘ///」
なんかめっちゃニヤニヤしてね?
つーかケーイチは?
凛堂さんにそのことを聞こうとしたとき、霧が止んで再び魔獣が姿を現した。
「あ、じゃあ早速やっちゃおうかな。私とケー君の二人で。」
は?なんか今聞こえたんだけど!?
ケーイチがここにいるの!?
「土魔法・剣山!」
あたしがパニクっている間に凛堂さんが魔法を発動させてしまった。
その瞬間、魔獣の周りの地面が盛り上がり始め、土の槍が次々と出現した。
槍と言っても人が持つような細長いやつじゃない。地面から生えており、その先端が鋭くとがっている。形はカラーコーンみたいな……円錐って言うんだっけ?そんな形だ。もしかすると槍と言うよりランスに近いかもしれない。
数は10個……いや、11個かな。
「ちょっと下がっててね。」
凛堂さんはそれだけ言うと一斉にそれらを発射した。
11個の土のランスが魔獣に迫る。
だが、こいつは恵まれた戦闘技術と武器で次々とランスをぶっ壊していく。
けど、凛堂さんも負けてない。
ランスが壊されるとすぐに魔法をキャンセルして、新しいランスを作って発射している。
作っては壊され、壊されてはまた作る。
多分だけど、凛堂さんは持久戦で片を付ける気なのかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
でも、凛堂さんの魔力も無限にあるわけじゃない。
ガス欠になっちゃえばそこでこの攻撃はおしまいだ。
だけど、段々と凛堂さんが押し始めてる。
最初はほぼ互角みたいな感じだったけど、凛堂さんがランスの創造を早めているおかげであいつが対応しきれなくなってきているみたいだ。
この人の魔力切れが先か、あっちがくたばるのが先か。
けど、不意に魔獣が大きく後ろに跳んだ。
あいつに迫っていたランスと一瞬だけ距離ができた。その距離が埋まる前にヤツは着地して地面に魔剣を突き立てた。
「「「!!」」」
ヤバ…!!
その行動の意図が分かり、慌てて体を動かす。
その瞬間、辺りから何本もの激しい火柱が上がった。
「あっつ……」
なんとか避けられたけど、凛堂さんのランスは全て破壊されていた。
魔剣を地面に突き刺して炎を地中で動かし、あたし達もろともランスを破壊したんだ。
魔獣はゆっくりと自分が爆破した場所を確認してるみたいだ。
でも、その時魔獣の後ろからもう一本の土ランスが現れた。
「!!?」
!!キマった!
今のあいつは完全に油断してるだろうし、死角からの攻撃だ。しかもただのランスじゃなくて、かなり特大のやつだ。さっきまでのランスの2、3倍の太さはある。
たぶん、というか絶対凛堂さんだ。このくらいならあの人は殺せないだろうし。
「ガアアァァアアッァ!!!」
だけど、あいつはそれにすら追いついた。
体を無理矢理ひねり魔剣を自身とランスの間に滑り込ませたのだ。
嘘!!?
明らかに反応が遅れたはずなのに!?
そして魔剣とランスが触れた瞬間、ランスは簡単に砕けた。
その時だった。訳が分からないことが起きた。
破壊された特大ランス。
その破片が飛び散る中、そこにいるはずのないものがいたのだ。
単純に言ってしまうとこうだ。
特大ランスの中からケーイチが出てきたのだ。
―――――――――――――――
すさまじい轟音が響く。
日の光が急に視界に入ってきて、少しチカチカする。
暗い空間に光が差し込んできた瞬間に、俺は地面を蹴る。
目の前には完全に魔剣を振りきっている魔獣。
この作戦がうまくいっているなら、ヤツは驚愕の表情とやらをしているのだろうけど、ヤツの文字通り腐りかけの顔からそういうのを推測するのは難しい。
この作戦を名付けるなら、「マトリョーシカ奇襲作戦」がいいかもしれない。
簡単に説明してしまうと、凛堂がヤツの気を引き続け俺が隙を突いて強襲という寸法だ。
この奇襲の仕方は、俺が凛堂の土魔法の中に隠れタイミングを見計らって飛び出すものだ。
最初の魔法の連続攻撃が囮で、本命はこの一発だったのだ。本命魔法はその外殻だけを再現した、ただのこけおどしだ。
空洞となったその中に俺が潜んでいたというわけだ。
まさにマトリョーシカだ。
この作戦を決行する前に凛堂から言われた、『複雑な作戦ほど、イレギュラーが起きる可能性とそのときの危険度が増える』と。
あいつが魔法を全力で使えていたら
あいつが俺を庇って怪我なんてしてなかったら
俺がもっと強かったらこんな戦法を使わずに勝てたんだろう。
でも、嫌だった。
女の子が血を流しているのに、俺はただそれを遠くから見てるだけだなんて我慢できなかったんだ。
まだ作戦は終わりじゃない。
あとは俺がこの剣でこいつを殺せばいいだけだ。
魔獣は今背後からの攻撃に迎撃するために魔剣を横薙ぎに振りきっている。そのせいで奴は大の字の体勢で俺と向かい合っている。しかも全力で振り抜いた直後で魔剣には勢いがついているから、簡単には戻せないはずだ。慣性の法則ってやつだ。
今が絶好のチャンスだ!ここでこいつの頭を潰す!!
足に全力を込め地面から飛び出し、空中で狙いを定める。
だが、一つの誤算が生じる。ヤツが魔剣を俺に向け始めたのだ。
早い!!
こいつ、超パワーで慣性の法則を無理矢理振り払ったのか!?
なんにせよ、このままじゃ頭に届く前に俺がやられる!
魔剣の炎が俺を飲み込もうと迫る。
何か……何か手はないのか!?
ゾクッ!!
妙に既知感を感じる感覚が体中に走った。
その瞬間パニックになっていた頭の中が一瞬だけクリアになった。そして冷静になった頭脳はこの凶刃を回避するための策をはじき出した。
俺はポケットに入れていたあるものを向かってくる魔剣へ投げた。
それは、昨日の合図用の水晶だ。
昨日のリューシン探索の時に渡されていた物だったが、凛堂に渡されたままだったのを今まで忘れていたのだ。凛堂の話によると、これは衝撃を与えると作動し花火を打ち上げるというものだ。
そこから俺はこう推測することができた。
この水晶の中には火薬に当たるものが入っているのではないか、と。もし何かの拍子にそれが引火したらどうなるのか、と。
そして魔剣と水晶が触れた。
魔剣の炎により水晶の殻は一瞬で砕け――――――――――爆発した。
爆発は今まで魔剣が起こしていた物に比べればかなり小規模のものだっただろう。
だが、手のひらサイズの合図用の水晶だとしても近くにいた俺をさらに上空へと吹き飛ばす程度の威力はあったようだ。
今や俺はちょうど魔獣の頭上まで飛ばされている。
爆風と共に熱が俺を襲ったはずだが、アドレナリンが過剰放出されているせいか痛みはほぼ感じない。
だけど、死んでいるわけじゃない。手も動く。剣も握れる。
「おおぉぉおぉらあっぁぁぁああ!!」
俺は叫びながら、逆手持ちで剣先をヤツに向ける。
魔獣が俺の位置に気づき、上を向く。
だが、もう遅い。
ヤツと目が合った瞬間、俺は全体重を乗せヤツの額に剣を突き立てた。
重い感触が手に伝わる。斬るのとはまた別の感覚だ。
だが、それを感じると降下からの反動で手を滑らせ、剣を手放してしまった。
「ぐ!」
そのまま俺は地面に落ちていく。
幸いにも受け身を取ったため無傷とは言えないが、骨折はしていない。
すぐに体勢を立て直し、魔獣の様子をうかがう。
魔獣は俺が剣を突き刺した状態から動いていなかった。俺の剣はその刀身の5、6割の長さまで刺さっていた。やや遅れて自分の状況が理解できたのか、ヤツは自分の額に刺さった剣に手を伸ばした。その時に手から魔剣が落ちていったが、そんなことは気にしていないようだった。魔剣は魔獣の手から離れた瞬間に炎が消え、高い金属音を立て地面に転がった。
やっぱり俺の見たとおり大剣じゃなかったんだ。
その時だった。バキ、と別の金属音が響いた。
見ると魔獣が折れた剣を持ち、こちらにゆらりと向かって歩みを進めていた。
ヤツの頭にはまだ刃が刺さったままだ。つまり、自分で折ったってことだ。
まだ生きてんのかよ!?仕留め切れてなかったってことか……。
ヤツは俺に向けて剣を振りかざした。
いくら折れた剣といってもあの怪力で振り回されたらただじゃ済まないぞ。もう武器だってないのに………。
「ケータさん!魔剣を!」
その時、イアさんの声が聞こえた。
そうだ!!こいつが落とした魔剣!これを使うしか…………。
俺は近くに転がっていた魔剣に手を伸ばした。
「ヴォ゛ォ゛ォ゛……………」
だが、魔獣の唸り声が響く。
クソ!間に合わない………。
咄嗟に目を瞑り、衝撃に備える。
「…………………………………………………」
だが、来るはずの痛みは来なかった。
不思議に思い恐る恐る目を開ける。
目を開けると、そこには剣を構えたままで止まっている魔獣の姿があった。
だが、目を閉じる前と明らかに違っていた。ヤツの腕がないのだ。
「ケーイチ!!」
そのことに気付いた瞬間、犬山がものすごいスピードで俺を抱えそのまま離脱した。
俺を魔獣から遠ざけると、地面に下ろした。
「ケータさん!後は私たちが!」
いまいち状況が把握し切れてない俺にイアさんが遠くから叫ぶ。
「え!?」
「大丈夫だって!そこで休んでなよ!」
犬山もそれだけ言うと、また走り出した。
そして二人は剣と片腕を失った魔獣のもとへ駆ける。状況を掴むため周りを見ると、魔獣の近くに落ちているヤツの肘から先の部分を見つけた。
たぶん犬山が俺を助けるときに切り落としてくれたんだ。
再び戦場へ視線を戻すと、イアさんがレイピアを構えていた。
「氷魔法・槍!!」
イアさんが唱えると、レイピアの先端から氷の槍が放たれた。槍は一直線に魔獣の左肩へ向かい撃ち抜いた。
槍は止まらずに魔獣の貫通し地面に突き刺さった。氷という属性の特徴なのか、槍の貫通部分は凍結しており、血の一滴も垂れていない。
「腕がねーと、バランスとりづれーだろ。」
今度は犬山が魔獣の背後に回り、膝裏に蹴りをいれた。
魔獣はそのままバランスを崩し、膝をついた。いわゆる膝かっくんってやつだ。普通なら子供のお遊びで済む話だが、ここでは違う。それは致命的な隙を生む。
「これで」「おしまいです」
そして、犬山とイアさんが正面から魔獣へ。
魔獣は最後の抵抗といわんばかりに、闇魔法を発動しようと魔力を集めていた。
だが、それが完了するよりも二人の方が圧倒的に早かった。
「風魔法・烈風!!せい!!」
犬山が魔法を纏い、ヤツの首筋に延髄蹴りをキメた。
魔獣の首からミチミチと肉が裂ける音が立ち、犬山の蹴りが魔獣の首を刈り取った。辺りに腐りかけの液体が飛び散った。
「氷魔法・多重弾丸!」
イアさんが宙を舞う魔獣の首に狙いを定める。
犬山が魔獣から離れると、イアさんの周りにいくつもの鋭い氷塊が生成された。
「はぁっ!!」
一斉にそれらが発射される。
ズドドドドドドドドドドド!!!
まるで散弾銃のようだった。イアさんの氷は首だけでなく残った体も蹂躙していった。
音が止んだとき、そこにあったのはズタズタにされた肉片とわずかばかりの体だけだった。魔獣の頭部には氷が突き刺さっており、残っていた左目を穿っていた。
頭部もその体も完全に破壊され、誰が見ても明らかだった。
こいつはもう死んだと。
俺たち四人と魔獣との戦闘は今ここに決着がついたのだ。
次の更新は2月中を予定してますが、もしかすると3月までかかるかもしれません。
最低でも3月末までに一回は投稿しようと思っております。
今後ともこの作品をよろしくお願いします。




