第18話 惨劇の余韻
「これって……………」
リューシンは、いや、リューシンだった町はひどい有り様だった。
ほとんどの家屋は崩れていて、今でも所々から煙が立ちこめている。これだけの有り様なのにほとんど音がしない。
リューシンの異常を知った俺たちは一応ローブを着て街の中を歩いていた。
何が起きたのかを少しでも知ろうとした。
「たぶんだけど、2、3日前だね。」
凛堂が建物の傷の具合を見て言う。
「いったい何が………?ここにいた人たちは……………?もしかして、全員………」
「どうだろ、リューシンには冒険者が大勢いたはずなんだよ。勇者ほど強くはないけど、数がいるからちょっとやそっとの敵襲じゃここまでは…………」
「じゃあ、簡単だよ。」
俺と犬山が互いに推論をぶつける中、凛堂が口を開く。
「リューシンの冒険者達が太刀打ちできないような何かが起こったってことでしょ。」
「「………………………………」」
確かに……。そう考えるのが妥当だ。
「でも、だとしたら何なんだ?冒険者の集団が戦争でも始めたのか?」
「それこそあり得ないね。こんなデカい戦争ならあたしたち勇者が気づかないはずないし。それに冒険者同士の揉め事はどっちもあんまり得しないし。」
「どうして?」
「じゃあ、相手がケーイチのめっちゃ欲しいもの持ってたとして、ケーイチは正面からそいつを殺してそれを奪おうって本気で考える?普通は金で譲ってくれないかって取引しようとしない?」
「それもそうだな。」
「それでも譲ってくれなかったら、最悪暗殺して奪うでしょ。少なくともこんな騒ぎにすればあたしたちに目をつけられるし、指名手配されちゃうかもしれないからリスクが大き過ぎるでしょ。」
なるほど。
さらっと怖いこと言うけど、犬山の考えも一理あるな。
「まぁ、とりあえず何か捜そう?もしかしたら手がかりがあるかもしれないし。」
凛堂の言うとおり俺たちは街の中で情報収集をすることになった。
無残に破壊された家や町並み、生々しい血の跡、そして俺たち以外の物音がしない空間。
これらの惨状を目の当たりにして、それでも尚、生存者がいるのではないかと希望を抱いてしまう。
――――――――――――――
ひとまず俺たちは手分けして街の様子を見て回ることにした。
街の中心から俺、凛堂、犬山がそれぞれ三方向に分かれて、一人がおおまかに街の三分の一を見ることになっている。
もし万が一、何か見つけた場合や非常事態の時は魔法で合図を送ることになっている。
と言っても今現在俺たちの中で正常に魔法が使えるのは凛堂だけである。なので、俺と犬山は火属性魔法の水晶を持ち歩いている。これは元の世界で言う所の発煙筒のようなものであり、衝撃を与えると上空へ花火が打ち上げられる仕組みになっているらしい。
非常時に使うように言われているが、この光が見えたらすぐに凛堂が駆けつけてくれるらしい。本人からは『何が何でも助けに行くから!』って言われた。
あいつならやりかねないから怖いよな。今朝みたいな光の戦士顔負けの登場されたらどうしよう。
こうして一人で歩いていると、色々と考えてしまう。
この町をこんな風にしたのは一体誰なのか?何が目的なのか?まだこの近くに居るのか?もし遭遇したらどうする?勝てるのか?
そんなことを考えているとすぐに自分の範囲は終わってしまった。
結局見つかったのは壊れた家と血だけ。何軒かは壊れてない建物もあったが人は居なかった。
敵との遭遇も無し。
生存者も無し。
虚無感を抱えたまま集合場所である、町の中心に戻る。
集合場所にはもうすでに凛堂と犬山が居た。
「ただいま。二人ともどうだった?」
「あ、戻ったんだ。遅かったね。」
「ケー君、おかえり。私の所には生存者はいなかったよ。家もほとんど壊れてたし。」
「あたしのとこもそんな感じ。あ、でも死体は何体かあったけど。」
「あ、私のとこもあった。たぶん私たちの所が被害が大きかったんだね。」
「そっか…………………」
やっぱり生存者はいないのか………………。それに死体か……………。
「ケー君……元気出して。人の死体は結構少ないから、もしかしたら皆避難しただけかもしれないよ。」
「そーそー。町一個壊滅したんじゃ、もっと犠牲者は多いはずだから。」
二人は明らかに沈んでいた俺を励ましてくれたみたいだ。
「そうだな。ここでうじうじしてても仕方ないよな。ありがとう、凛堂、犬山。」
「うん!///えへへへ////」
「べ、別に///こんくらいフツーだし……///」
そうだ。いつまでもネガティブに考えていてもどうにもならないんだ。
それにこの世界じゃ簡単に人が死ぬ。きっとこれから先もこんなことが起こるんだ。
だから…………
「そういえば他に………」
「突然すみません。あなた方も冒険者の方ですか?」
俺が凛堂と犬山に話しかけようとしたその時、崩れた建物の瓦礫の影から一人の人が出てきた。
慌てて剣に手を掛け臨戦態勢を取る。
「警戒しないでください。私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。」
物陰から出てきた人物は青の軽装備を身にまとった金髪の女性だった。すらりと背が高く、完全にモデルのような人だ。
だが、その人の特長はなんと言ってもその髪だろう。きれいな金髪ロングだった。ブロンドだ。その色もさることながら、つやがあり思わず見とれてしまう。
俺は向こうの世界にいたときにチャラい女子高生や女子大生が髪を金髪に染めているのしか見たことがなかったので、初めての天然金髪に若干テンションが上がっていた。あ、なんか遠くにいるのに良いにおいがする気がしてきた。
その時いつの間にか俺の隣に凛堂が来ており、俺の手を握ってきたことに気がついた。
どうしたんだ?
メキッ
ん?めき?
何だろう、今の音?
あ、なんか手が痛い。
見ると俺の手は凛堂に握られているだけだった。
いや、訂正しよう。俺の手は凛堂に握り潰されているだけだった。
いってぇぇぇぇっええええええ!!!
え!?何!?何なの!?何でそんな簡単に男の手をメキってできるの!?マジでどこにそんな力があるの!?
凛堂を見ると、こいつは『ん?どうしたの?』と言いたげな顔をして俺を見ているだけだった。
どーしたもこーしたもおまえがやってることなんだけど!しかもこいつ、うまく体で隠して犬山とあの女の人に見えないようにしてやがる!
ここで俺が悲鳴でも上げたらなんか変な奴認定されてしまうだろう。なかなかの策士だな。
すると凛堂が俺の耳元に顔を近づけてきた。
「浮気、ダメ、絶対。」
他の二人に聞こえないように低い声でそうつぶやいた、低い声で。
とりあえず言いたいことは色々あったが俺は
「ハイ………」
従うしかなかった。だって怖いんですもの。
―――――――――――――――――
俺たちと先ほどの女性―――名前をイアと言うらしい―――はひとまず町の中で一番被害が少ない建物を見つけそこで宿泊することにした。うぅ………まだ痛い…………。
最初はお互いの自己紹介から始めた。
「では改めて…。私の名前はイアと言います。しがない冒険者をやっています。」
「ご丁寧にありがとうございます。俺の名前は……」
俺が自分の名前を言おうとしたときふと気づいてしまった。
俺たちは名乗って良いのか?もしかして名前も知れ渡っているのではないか?と。
そうだ、その可能性は充分にある。
ヤバい!顔バレばっかり考えていてそこまで気が回らなかった!どうしよう!
「えっと、け、ケータです。こっちはマリ、こっちは……………シバです。」
よっしゃ!ナイス、俺のアドリブ力!
咄嗟にしては良い具合だ。
チラッと見ると犬山が俺の方をすごく睨んでいた。
しょうがないだろ!好きなんだよ、柴犬。
「俺たちも冒険者をやってます。失礼ですけどこっちの二人は事情があるので顔の方は……………」
この時俺はローブのフードを外していた。相手が自己紹介してくれたのにこっちは顔も見せないなんてなんか失礼だと思ってしまったのだ。
まぁ、俺は顔ばれしている確率が一番低いから良いだろうと判断したのが一番の理由だが。
一応凛堂と犬山はフードを被ったままだ。
そこの所はなんとか誤魔化そうとしたのだが、大丈夫かな?怪しまれてるか?
「ええ、大丈夫ですよ。リューシンではそういった方も珍しくないので。」
え、珍しくないの?何なの、リューシンって………。
まぁ、なんにせよ助かった。一通り準備を終えた俺たちはお互いに情報交換をすることになった。
と言っても、俺たちが知ってることはたかがしれてるんだが。
「まず私がここに来たのはリューシンで起きた出来事を調査するためです。三日前、リューシンでこの出来事が起こったときですね、私はちょうどここから一番近い街に宿泊していました。その最中、街に次々とけが人がやって来たんです。話を聞くとリューシンが魔獣の襲撃を受けたとのことでした。そこで私がリューシンでの調査を請け負ったというわけです。」
丁寧にイアさんが話してくれた。
たぶん俺たち、少なくとも俺より年上なのに敬語を使って礼儀正しく事情を説明してくれた。
それにしてもやっぱり魔獣にやられたのか…………。
「そうだったんですか。でもここにはたくさんの冒険者がいたんですよね?その人たちは……?」
イアさんの説明を聞いて疑問に思ったことを尋ねてみた。
「はい。最初はみなさん抗戦していたそうですが、力及ばず………」
「その魔獣って?なんなの?」
犬山がしびれを切らしたのか、聞いてくる。
「オーガだそうです。」
イアさんが答える。
オーガ。凛堂から教わった魔獣にそんなのがいた。怪力を誇る人型の魔獣だ。でも……………
「はぁ?オーガぁ?冗談でしょ?オーガなんて雑魚にみんな勝てなかったの?」
そうなのだ。確かにオーガは初心者が相手をするには厳しい魔獣だ。
でもここにいたのは初心者じゃないはずだ。
オーガは、あくまで初心者からすれば強いと言えるが、慣れてしまえば大して強くないのだ。
「私も不審に思いました。私が確認した限りではリューシンに現れたオーガは全部で15体、そしてその配下と思われるゴブリンが200体、あと獣型の魔獣が100匹ほどだったそうです。ですが、これらとは別に特別な一体がいたそうです。ご存じかと思いますが、魔獣の大群はいかにリーダー格を潰すかが勝利の鍵を握っています。リーダーを失った群れは統率をなくします。今回の襲撃でもセオリー通りに戦ったのでしょう。ですが………」
「そのリーダーがかなり強かった。」
イアさんの言葉の続きを凛堂が言う。それを聞いてイアさんは黙ってうなずいた。
「その特別な一体ってのは何かわからないの?」
「残念ながら私が尋ねた方たちの中にはそれの正体がわかる人はいませんでした。ですが、一人だけ一瞬だけその姿を見たという人がいました。その方が言うにはその魔獣は何か強大な剣を持っているらしいです。」
「強大な剣?」
「魔剣だね………。」
魔剣。それは魔道具の一種である。
魔道具とは魔獣の体の一部や植物、鉱物を原料にして作られる特殊な戦闘装備のことで物によっては魔法の発動も行う代物だ。
例えば、発光する鉱石を加工して懐中電灯のように使える魔道具や毒性の植物を採集して敵の動きを制限するための魔道具など、様々なものが普及している。さっきの発煙筒もこれに含まれる。
もちろん、これらの魔道具の原料が上質で強い魔獣のものだったりすると、魔道具もより強くなるのである。
ここまでの説明から推測できるように、魔剣は魔法を帯びた剣なのである。要約すると、チョー強い剣である。
「今その魔獣はどこに?」
「わかりません。私はその魔獣の群れがリューシンを出て私が滞在していた街へ来る可能性もあったのでこの三日間はそちらで備えていたのですが、特に襲撃はなかったので、こちらに……。」
「そうだったんですか…………………。そういえば、イアさんは一人ですか?」
イアさんの話を聞いている内にもう一個気になることがあったので聞いてみた。
そんな危ない魔獣なのに一人で来るなんて……もしかしてめちゃくちゃ強いんじゃ……?
「え~と、そうですね…………。まぁ、調査と言っても生存者や魔獣がまだここにいないかの簡単な確認だけですし、もし魔獣と遭遇してもすぐ逃げるように町の人たちに言われてましたから。それにお恥ずかしい話ですが皆さんに実力を多少なりとも認められているというのもありますから。」
やっぱり強いのか、この人。それでいてその強さをひけらかさない態度!いい人過ぎる!
「なるほど。わざわざありがとうございます。でもごめんなさい……。俺たちはここに旅の途中で来たばっかりでほとんど何も知らないんです。ここまで親切に教えていただいたのに………」
俺たちがここに来たのはついさっきである。何も知らないのは当然であるが、どうしよう……何も恩返しができないぞ………。
「いえいえ!お気になさらないでください。このような事態に情報なんかで何も要求しませんから!こういうときこそお互い助け合わなければなりませんし。それにここに来るまでに遭遇しなかったので、もしかするとまだこの周辺にいるかもしれません。」
俺が焦っているとイアさんは少し慌てたように言ってくれた。
おぉ、なんていい人なんだ……。この世界にもこんな聖人みたいな人がいたんだなぁ。
俺はイアさんに見惚れてしまっていた。その時いつの間にか凛堂が俺の隣に座っているのに気づいた。
あ、なんかこの感じデジャブ………。
―――――――――――――――――――――――
その後、俺たちは今後の予定について話し合うことにした。ちなみにイアさんには席を外してもらっている。うぅ………痛すぎるよぉ…………。
「で、どうする?」
「ん~、とりあえず今日はここに泊まるとして、明日に出発かな。」
「そうだね。明日には万全の状態でスキル使えるし。」
「え?いいの?」
平然と出発することに賛成している犬山に俺は思わず聞いてしまう。
「は?何が?」
「いや、おまえ勇者だろ、一応。いいのか?これ以上被害が出ないように討伐しようとか言わなくて。」
「………………………………………………………と、トウバツシヨウ。」
あ、こいつ今完全に自分が勇者だって忘れてたな。
疑念の目で犬山を見る。
「だ、だってしょーがないだろ!今のあたしじゃスキルも魔法も使えないから、めんどくさいに決まってんじゃん!」
俺がジト目で見ていたのに気づいたのか、犬山は猛烈に抗議してきた。
「でも、魔剣ってそんなに強いのか?」
「どうだろう?どんな種類の魔剣かもわからないからなんとも言えないけど、町一個壊滅させるぐらいだか
ら………」
………………………かなり強いのか。
「でも魔獣はどこでそんな魔剣手に入れたんだろうね?」
「「………………………」」
凛堂の素朴な疑問に思わず黙り込む。
「あの~まだお話の途中でしたか?」
ちょうどその時、別室で待機中のイアさんが声を掛けてきた。
「そろそろご飯にしませんか?ここで会ったのも何かの縁ですし、ご一緒にと思ったんですが………」
大歓迎です。
断る理由もないのでとりあえず話し合いを切り上げてご飯を食べることにした。
結局ご飯の後は特に話し合いをすることなく就寝となった。
――――――――――――――――
何事もないまま朝になってしまった。
見張りも4人でローテーションしながら行ったのに何の異常もなかった。
「では、私は一度街に戻って現状の報告をしようと思います。おそらく大規模での捜索隊および討伐隊が編成されるでしょう。」
町の中心でイアさんがそう告げる。イアさんと俺たちは向かう方向が違うからここでお別れだ。
「そうですね。何のお役にも立てず申し訳ないです。」
「そんなことないですよ。一人では心細かったので助かりました。くれぐれも気をつけてくださいね。ケータさん、マリさん、シバさん、またどこかで。」
イアさんは丁寧にお辞儀までしてくれた。思わずこちらも一礼してしまう。
「じゃあ、俺たちはここで……」
俺らも出発しようとすると
「あ!ケータさん!ちょっといいですか?」
イアさんに呼び出された。
まさか、この展開は……………ラブコメ的な!?知らないところで俺はフラグを立てていたのか!?
急な展開に心臓がドクンとはねる。
ハッ!殺気!!
凍てつくような殺気におびえながらも振り向く。
イアさんが俺の耳元に口を近づける。思わず胸が高鳴ってしまう。
「マリさんのこと大事にしてあげてくださいね。女性はデリケートですから。」
そっと耳元でつぶやかれた。妄想してたものとは違ったが、やる気が出る言葉だった。
「はい!もちろん………」
けど、ここでこの騒動は終わりではなかった。
「ヴァアアアッァァッァアアァァアァァァッァ!!」
空気が震えた。
その雄叫びによって一瞬だけその場にいた俺たちは凍り付いた。
何かがいる。
さっきまでの穏やかな雰囲気はかき消され、辺りは緊張に包まれる。耳を澄ませば何かの足音が聞こえる。俺たちのいる場所から東の林からだ。
林の木々をなぎ倒しながらこちらに近づく影を捕らえた。
影からしかわからないがそいつは人型だった。
手には大剣。そして頭から2本の角。
たぶんこいつだ。
こいつがリューシン襲撃のボスだ。
読んでくださりありがとうございます。
定期テストが近くなってきましたので来週と再来週の更新はお休みしたいと思います。ですので、次の更新は11月の26日を予定しています。
楽しみにしてくださってる方、申し訳ありません。
これからもよろしくお願いします。




