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第15話 いつもと違う朝



目が覚めた。部屋のカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。どうやら今日の天気は気持ちのいい快晴のようだ。


意識がまだ覚醒しきっておらず、目をこすりながら起き上がろうとする。ここでいつも通りの朝なら、今何時だろうとか今日は何曜日だっけとか考えながら起きるのだが、どうやらいつもとは違う朝だったらしい。


俺は起き上がろうと腕で支えながら上半身を起こそうとした。

その時俺の体に激痛が走る。


「痛っ!」


あまりの痛さに思わず声が出てしまった。

おっとっと、俺ったら自分が怪我してることをすっかり忘れてたみたいだ。ドジっ子だな。

体が痛んだ時に腕の力を緩めてしまったので、途中まで持ち上がった俺の体は支えを失い重力のままにベッドに再び倒れ込む。


ボフン


突然だが、柔らかいベッドに倒れ込むとそんな感じの音がするよな。それで掛け布団とかのふわふわと相まって二度寝したくなるんだよな。わかるわかる、いつも通りの俺ならな。


何度も言うが、今日はいつも通りじゃない。ベッドに倒れたときの効果音なんてかき消すくらいの衝撃が俺の体を駆け巡ったのだ。今の俺は怪我をしている。しかも切り傷などではなく、主に打撲や骨へのダメージがほとんどだ。幸いにも骨折には至らなかったが。


その怪我に衝撃が走ったらどうなるか?


簡単だ。めちゃくちゃ痛くなる。


ベッドに倒れ込んだワンテンポ後、俺は言葉にならない声を発した。

今日の我が家のモーニングコールは俺の絶叫となった瞬間だった。



――――――――――――――――――――――



「大丈夫、ケー君?」


「あぁ、なんとか。」


今俺は凛堂に介抱されながら階段を下りている所だ。

あの俺の魂の叫びが発せられたコンマ1秒後、凛堂が俺の部屋にやって来た。


床をぶち抜いてな。


率直に感想を言うと、すごくびっくりした。


確かに俺の部屋は二階にあるし、一階にはリビングと台所がある。部屋の間取りとか家の構造的に俺の部屋は台所の真上にあるので、台所で朝ご飯の準備をしている凛堂が俺の部屋に来るには、この方法が一番早い。

まぁ、損害も一番でかいわけだが。主に俺の。


「いきなり大声上げるから、驚いちゃった。」


驚いちゃったのは俺も同じなんだが。どうすんの、俺の部屋?あの部屋で今日も寝るの?今にも崩れそうでおちおち眠れないんだけど………。

でも、凛堂も俺を心配して来てくれたわけであって、決して悪気があったわけじゃない。だから、何も文句を言えない。


「驚かしてごめんな。昨日の傷が痛くて……。」


「まだ治ってないからね。ご飯終わったら、薬渡すね。」


「ご飯と言えば、大丈夫か?その……色々と。」


凛堂が部屋の床をぶち抜いた、と言うことは床の破片とかが台所に降り注いでいるはずだ。もしもそこに今日の朝ご飯があったなら、それはもう朝ご飯とは呼べないだろう。


「全然大丈夫だよ。ほら!」


だが、俺の心配は杞憂だったようだ。

台所には朝ご飯が入っていると思われる鍋やすでに食器に盛り付けてある料理を全て覆うように傘が存在していた。もちろんただの傘ではない。氷でできた傘だ。床に支柱を立ててドーム状に開いた傘に守られて朝ご飯には塵一つ付いてない。


「床壊す前に作ったの。どう?これなら大丈夫でしょ。」


「おぉ~、すごいな。これ一瞬で作ったのか。」


さすが凛堂だな。何でもできる。


「あ…………」


俺が凛堂の魔法に感心していると、凛堂がそんな声を上げた。


「ん?どうした?」


「べ、別に魔法を自慢しようとかじゃないよ!ただ………咄嗟だったからやっただけで…………………。だから、その………………け、ケー君が魔法使えないことディスってる訳じゃないから!!」


「凛堂…………」


それ言われたら悲しくなるヤツやん!

凛堂に言われるまで気付かなかったし、すごいな~としか思ってなかったし!むしろさっきまで忘れてたし!

そもそも俺そんな目で見てたのか?もしそうなら全然無自覚なんだけど。ヤバいな、俺の潜在意識にそれほどまでの魔法使いへの嫉み妬みが眠っていたとは……………。我ながら恐怖ものだな。


「………………か、勘違いしないでよね!べ、別にケー君のことディスってるわけじゃないんだからね!!」


いや、二度も言うなよ。言い方の問題じゃないんだよ。でもツンデレあざっす。

まぁ、その言い方だと俺をディスってることになるんだけどな。


「大丈夫だから、全然気にしてないから。さ、朝ご飯にしよ。」


思いがけないラッキーにより元気を取り戻した俺は涙を流さずに済んだ。

む、虚しすぎるからって泣いてなんかないんだからね!!


こうして俺たちの朝が始まる。

昨日までとは確実に違う朝が。



――――――――――――――――――――



「おはよう。」


「よう、ケーイチ。」


朝食後、俺は犬山の元を訪れた。


「朝どうしたんだよ?なんかすっげぇでかい悲鳴みたいなの聞こえたんだけど。」


「………ちょっとな。」


聞かれてたのか。はずいから隠しとこう。そんなことより俺がここに来た理由は……


「ほら、朝ご飯持ってきたぞ。」


「お、気が利くじゃん!」


気が利くとか、こいつ………自分の立場わかってんのか?


「あ、両手が錠につけられたままだと食べづらいなぁ~。う~ん、どうしよっかな~。困ったなぁ~。」


犬山が自身に付けられた鎖をじゃらじゃら鳴らしながら何かをアピールしてくる。


犬山の今の状態は囚人に近いものがある。両手は手錠をかけられ、それが両足にもつけられている。部屋の中を歩くのに支障はないらしいが、落ち着かないらしい。

そりゃそうだ。


「誰か食べさせてくれないかな~。」チラッ


犬山が俺の方をチラチラ見てくる。何だその目は。


「全くしょうがないな。凛堂呼んでくるから、ちょっと待ってろ。」


「待て待て待て待て!タンマタンマタンマ!!冗談止せよ!昨日のこともあって気まずいだろうが!!」


注文の多い奴だ。かつてこれほどまでに我が儘な捕虜がいただろうか。


結局朝飯は犬山がなんとか自分で食べることになり俺はそれを見張っている。


「で、今日は何しに来たのさ?」


犬山が食べながら聞いてくる。


「何って、おまえが朝飯食べ終わんの待ってるんだよ。それ片付けないといけないんだから。」


「違うね。」


俺の答えに短く犬山は反論する。


「ケーイチ、あんたは嘘をつくのが下手すぎるよ。ま、その様子じゃあたしや凛堂さんだけじゃなくて他の人にもすぐバレると思うけど。で?ほんとは?」


図星だ。反論さえできなかった。凛堂といい犬山といい、どうして皆こんなにも勘が鋭いのか。


「…………………俺は楽しいって思ったんだよ。」


犬山は黙ってるままだ。俺のそれは犬山の質問に対する答えじゃない。


「ここに、この世界に来て凛堂に会って一ヵ月ぐらい一緒に暮らして、すごく楽しいって思ったんだ。犬山に会って昨日とか今朝のほんの少しの短い時間だけど話ができて、久しぶりだなって思ったんだ。だから、その他のことなんてどうでもいいって思ってたんだ。今こんなに楽しいんだから難しいことはまた今度にしようって、勝手に逃げてたんだ。昨日だってそうだ。おまえにはいろいろ聞きたいことがあったのに、やっぱり怖くなって逃げたんだ。でもそれじゃ駄目だって気づいたんだ。だから………」


俺は息を吸い込み、


「何があったのか教えてくれないか?」


犬山が飯を食べるのを中断してこっちを見る。


「おまえたちがこの世界に召喚されてから今に至るまで何があった?俺が知りたいのはそれだけだ。頼む、教えてくれ。」


これ以上はもう逃げたくない。ちゃんと向き合わないといけない。今更遅いかもしれないけど、それでも俺は知りたいんだ。


「…………………………………わかった。いいよ、教えてあげる。」


「ありがとう。助かる。」


犬山の返事に胸をなで下ろす。


「じゃあ、まず……………ぐ!?ぐわあああぁぁあぁあぁ!!」


だが、犬山が話し始めようとしたとき突然犬山が悲鳴を上げた。犬山は胸を押さえ苦しそうにもだえて始めた。


「お、おい!犬山!!どうしたんだよ!!?」


慌てて犬山の元に駆け寄ろうとする。その時


「大丈夫だよ。」


突然凛堂の声がする。振り返るといつの間にか地下室に凛堂が来ていた。

今は凛堂のことよりも犬山だ。


「大丈夫ってどこが!?一体何が!?」


「私の呪詛だよ。昨日の夜に嘘ついたら駄目っていうルールを追加しておいたの。たぶんそのルールを破っちゃったから呪詛が発動しちゃったんだよ。大丈夫、死なないように調節してあるし一時的なものだから。」


凛堂が淡々と説明してくれた。そうだ。凛堂は昨日犬山を捕まえたとき、何かしていた。

呪詛のことは昨日まで知らなかったけど、正直ここまでつらい思いをするものだとは想像してなかった。


「だけど…………」


犬山を見ると呪詛の発動が引いていったようで、息が乱れているが苦しさはなくなったようだ。その目は凛堂を睨んでいる。


これが犬山をここに縛り付ける最も強固な鎖なのだろう。

この呪詛は犬山の行動を制限する。犬山が魔法やスキルを使わないこと、犬山が俺に触らないこと、あと、今言っていた犬山が嘘をつかないこと。この三つの内一つでも破ると今のように発動するようだ。

後半二つはたいしたことないと思うが、この世界で魔法とスキルを封じられて敵から脱走するのは至難の業だ。運良く部屋から脱出できたとしても追っ手はかわせないからだ。


「いつ嘘を………」


「ケー君が知りたかったことを言おうとした時じゃない?元々言う気がなかったかデタラメなことを言おうとしたんだよ。」


……………本当にそうなのか?

俺には犬山がそんなことするような奴には見えない。


「なぁ、凛堂。ほんとに…」


「そんなことより!ケー君!!重大なお知らせがあります!」


凛堂が俺の言葉を遮り大きな声を上げる。

その顔にはこの状況に似つかわしくない、何の屈託のない笑顔が浮かんでいた。


「私たちお引っ越ししようと思います!」


凛堂の元気な声だけが地下室に響いた。


「え?」


唐突な発表によって俺の頭のからそれまでの疑心は瞬く間に驚愕に覆われてしまった。



読んでくださりありがとうございます。

次回の投稿は10月22日を予定してます。

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