第14話 もう見なくなった悪夢
前回の投稿から一週間以上間が空いてしまって申し訳ありません。
また、予定していた投稿時間を過ぎてしまったことも重ねてお詫びします。
登場キャラ紹介はまたの機会にしたいと思います。
それでは第2章のスタートです。
目を開ける。
視界に入ってくるのは見慣れた風景だ。
見慣れた家並み。見慣れた信号。見慣れた夕焼け。
今の時間帯だと少し人が多い。学校が終わって何人かで遊びに出かけている小学生、部活帰りなのかこれから塾に向かうと思われる中学生や高校生、イヤホンをつけてスーツを少し着崩しているサラリーマン。
毎日この景色を見て歩いているのだ。もう見慣れすぎて少し退屈だとさえ感じる。ただ一つを除いて。
それは
私の愛しい人。
彼だけは見慣れることがない。彼を見ると心臓の鼓動が早くなる。彼を見ると体温が上がる。彼を見ると自然と自分の口角が上がる。
そんな彼は私と並んで歩いている。
「どうした?そんなにうつむいて。」
急に彼が私の顔をのぞき込んでくる。
突然のことで驚いてしまった。
今の私は大丈夫だろうか?変だと思われているんじゃないのだろうか?顔は赤くなっていないだろうか?
そんな疑問が頭をぐるぐる回る。そんな状態でもかろうじて声を出す。
「別に…何でもない。」
慌ててしまったからか、少し冷たいような返事をしてしまった。
あぁ、やってしまった。疑問の次は後悔が私の頭を支配した。
何が『何でもない』だ。せっかく心配してくれたというのに。そこは『心配してくれてありがとう』だろう。こんな簡単なことも言えないとは。
チラッと彼を見る。彼は何でもないように前を見ている。
私が悶々と考えているのに、呑気なものだ。
学校での立場上、大勢の人の前で話さなければならない機会があるのだがさほど緊張しない。だけど、彼の前では違う。おそらくこの地球上で彼ただ一人だろう。ここまで私の心をかき乱すのは。
だけど心地いい。
私のこの気持ちに気づかれているのかいないのか、どちらかわからないようなこの感じが私は好きだった。
この胸の高鳴りも締め付けられるような切なさも私は好きだったんだ。
この気持ちを伝えたくない訳じゃない。近い将来伝えようと思っている。だけど、もう少しこの心地よさに浸っていようって思ってしまう。
「今度は何だよ、急に笑ったりして。」
言われて気付いた。私は笑っていたようだ。ポーカーフェイスには多少自信があったのだが、実際そうでもないらしい。
「何でもない。」
「?またそれかよ。」
言葉は同じでも違うこともある。
今度はちゃんと彼に笑顔を向けることができた。
彼はまた前を向く。
彼の頬が少し赤く染まっているのは夕日のせいなのか、それとも………なんて考えるのはさすがに私もドラマチック過ぎるのだろうか。
「少しコンビニに寄ってもいいかな?」
「え?いいけど、珍しいな。いつも寄り道しないで帰るのに。」
「まぁね。たまにはいいだろう。飲み物でも買っていこう。」
「ん。わかった。」
私もよく分からなかった。自分から言い出したことだけど、なぜ彼を誘ったのか。でもたぶん
「じゃあ、行こうか、啓一。」
「あぁ、凛堂。」
彼ともっと長く一緒に居たいからだと思う。
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コンビニで会計を済ませて私たちは再び歩き始めていた。
結局私はペットボトルのジュース、啓一はお菓子のポッキーを買った。
「啓一、集会の日のことなんだけど、朝何時にする?」
私は尋ねた。啓一は朝に弱い。だから私がいつも起こしに行くのだ。いつからか啓一の両親にも許可をいただいていた。これは私の役目だ。そう思っていた。
「あ、その日は来なくてもいいぞ。」
「え……」
だからこそ、この言葉は私にとってショックだった。
心臓が大きくはねる。
さっきまで感じていたものとはまるで違う。冷たく、重い、少し痛みさえ感じるようなものだった。
もう私は……いらない………?
「あ!違うからな!俺は毎日感謝してるから。凜堂が来てくれなかったら、たぶん毎回遅刻してたと思うし。でもその日は凜堂も忙しいだろ?だから俺のためにわざわざ朝の時間を合わせてくれなくてもいいんだぞ?」
私があまりにも間の抜けた声を上げたからか、啓一が咄嗟に否定してきた。
あぁ、なんだ。そういうことか。
これは啓一なりの気遣いだったのか。
たしかにその日も集会前に色々と確認することがあって忙しいのは本当だ。
「でも………」
正直不安だ。啓一がどれほど朝に弱いのかは私が一番知っている。それ故に私はこの不安をぬぐいきれなかった。
「俺は大丈夫だって。さすがに集会の日までは寝坊しないぞ。それにこの前新しい目覚まし買ったし。」
いや、目覚まし時計を変えたぐらいじゃどうしようもないことを私は知っている。
そもそも、どうしてここまで一人で学校に行こうとするのか?
「……………嫌なのか?」
「え?」
「……………もう、私と登校するのは嫌なのか?」
言ってしまった。
啓一が私にそんな感情を向けていないことぐらい知っていた。小学生のときから続けていた習慣だ。もし嫌なら、今も二人で歩いてない。
でも……流れるように口から出てしまった。
「違ーよ。そんなわけねーだろ。さっきも言ったけど、凛堂には本当に感謝してるよ。だから、俺なんかのために余計な負担かけたくないんだよ。ほんとに、ただそれだけだし。」
「……………………………そうか。」
あぁ、私はこんなに面倒くさくて、卑怯な女だったのか。
自分の思いを伝える勇気はないくせに相手からは自分が望んだ言葉を聞きたがる。
「フフフ、でも目覚まし時計を新しくしたぐらいで啓一の寝坊癖が治るとは思えないぞ。この前だって部屋にベッドがあるはずなのに、朝迎えに行ったら勉強机に座ったまま寝ていたぞ。」
今までの重たい雰囲気を払拭するためにわざと明るい声で、冗談めいたことを言った。
ほら、今だってそうだ。自分の想いを伝えられない。
『わざわざ』なんかじゃない。『俺なんか』なんて言わないでほしいって。
「し、仕方ないだろ!なんでそんな風になったか俺でも分かんないんだから!夜は確実にベッドに入ったはずなんだ………。つーか、俺の寝相の悪さはどうでもいいんだよ!」
啓一は自分の恥ずかしさを紛らわすように声を上げる。
「とにかく!その日は大丈夫だから!凛堂は自分のことに集中しろよ。」
自分のこと……か。
啓一は知っているのかな、私の世界はあなたが中心であることを。
「でも…………」
「え~、そんなに心配かよ。まぁ、今までのこと考えるとそうかもだけどさぁ。」
確かに啓一のことを心配している気持ちもある。だが、それ以上に私が嫌なのは、朝啓一に会えなくなることだ。
朝一緒に登校して、放課後一緒に帰る。お互いに男女の交際をしているわけでもないのに、こんな関係はおかしいのだろうか。
それでも私はこんな毎日を続けていきたいと願っている。
「………………………はぁ、わかったよ。」
そして、私はまた自分の心を押し殺した。
啓一が私に頼らないで行動しようとしている。今までの欠点を改善しようとしているのだ。本来喜ぶべき所なのだが、私は素直に喜べない。
啓一が少し遠くに行ってしまう気がしたからだ。
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これが、この言葉が私の人生最大の後悔になるなんて予想さえしてなかった。
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場面が切り替わる。
ここはあの教室だ。
時計を見る。
啓一はまだ来てない。
さっき電話したところだ。こっちに向かってるらしい。
少し呆れてしまった。
だけど、心の底で安心していた。
やっぱり啓一には私が必要なんだ。
私がそばにいてあげないと。
また明日から迎えに行かないと。
私はそんなことを考えていた。
突然教室が眩しく光りはじめた。さらに、見たこともない模様が床に浮かび上がった。
教室内の皆が騒ぎ始めた。混乱しているんだろう。
私にも訳がわからなかった。ただ私の本能が激しく警鐘を鳴らしていることだけは感じ取れた。
教室の光は鼓動のようにリズムを刻みながら、明るさの強弱が変化していた。
段々とその鼓動のリズムが速くなっていった。
もうすぐ何かが起こる。 誰の目にも明らかだった。
その時だった。
教室のドアが開けられ、ある人物が私の視界に入った。
あぁ、そうだ。彼を守らないと。私が一緒にいてあげないと、彼はダメなんだ。
頭にそれが浮かんだのと同時に体が動いた。
彼へと駆け出し、必死に手を伸ばす。
「啓一!!!」
光が完全に視界を覆ったとき、私の手は彼を――――――――――
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目を開ける。
いつもの部屋だ。私と彼が住んでいるいつもの家だ。
そして、目の前には眠っている彼、ケー君がいた。私はそんなケー君の手を握っていた。
そうだ。思い出した。ケー君の寝顔見ようって思って部屋に入ったんだけど、ケー君のこと見てたら私もつい寝ちゃったんだ。
たぶん夢を見ていたんだと思う。
久しぶりに見たなぁ。そう言えば、結構長い間あの夢は見てない気がする。
この世界に来てからはほとんど毎日あの悪夢を見ていた。夢の始まりは色んな場面からでバラバラだったけど、結末はいつも一緒だった。
私がケー君に手を伸ばす、あの場面でいつも目が覚める。
目が覚めて、飛び起きるんだけど結局ケー君がどこにもいないことを思い出して、ベッドの上でぼろぼろ泣いてたっけ。
でも今は違う。ちゃんとケー君はここにいる。だから大丈夫。
きっとケー君が来てくれたからあの悪夢を見なくなったんだ。
さすが私の王子様♥
「ありがとう、ケー君。」
あの日からずっと後悔してだんだ。
あのときにケー君の手を掴めなかったことももちろんだけど、今までちゃんと想いを伝えてこなかったことを。
正直心のどこかで、もう会えないって思ってた。二度と話せない、二度と一緒に歩けない、もうこの想いを伝えることはできないって。
自分がこの世界での義務を果たしたら地球に帰ってまた会えるって言い聞かせてたけど、毎晩不安になっていた。ストレスで吐いたこともある。
でも我慢してた。いつかきっと……って思っていたから。
だけど、そうはならなかった。
この世界で私は身も心もボロボロだった。
もうケー君しか生きる希望がなかった。
そこから先は必死だった。そしてようやく私の最大の望みを叶えることができた。
私はあのとき掴めなかった手を、掴むことができたんだ!
だからもうこの手は死んでも離さない。
そして、決めたんだ。
自分の想いを隠すのは止めようって。だから…
「ずっと一緒にいようね❤」
ケー君の前髪を掻き分け、額に優しくキスをした。
これは私なりの誓いのキスだ。
私は、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときもケー君のそばにいて、ケー君と一緒に生きることを誓います。
そして、私は再び目を閉じた。今夜は素敵な夢が見れそうな気がした。
次回の投稿は10月15日を予定してますが、確実に投稿できるかはわかりません。




