第12話 再会はいつも突然に
「っ!!!凛堂!!」
その声は幻聴だったかもしれない。でも、聞こえた。聞こえてしまった。
「どうしたの?ケー君?」
凛堂がとぼけたような声で尋ねる。その間もギリギリと女の首を絞める。
「頼む、殺さないでくれ。」
「どうして?こいつはケー君にひどいことしようとしたかもしれないんだよ?殺した方がいいよ。」
考えるより先に言葉が出てしまった。凛堂の言い分はもっともだ。必死に頭を回し言い訳を考える。
「………………………………………………………情報が聞きたい。」
「それなら私がいるよ。私が何でも教えてあげる。」
「そいつ、たぶんあの二人の仲間だろ?………………天原と藤林の二人のこととか、それ以外のこととか………俺たちを襲った目的とか、そういうのを聞きたいんだ。」
「目的とか、そんなのどうでもいいじゃん。また来たら殺せばいいんだし。」
「いや………………だから………その………」
マズい。俺が何言っても凛堂は殺すつもりだ。確かにこの議論は俺の方が分が悪い。この女を生かしておくメリットが思い浮かばない。こうなったら……………
「頼む、凛堂。何でもいうこと聞くから」
「へ?」
ピクッと一瞬凛堂の体が反応する。
「何でも?」
「あ、あぁ、そうだ。だからそいつを殺さないで。」
凛堂は昔からこの言葉に弱い。
初めは俺たちが小学校高学年ぐらいのころだった。休み時間中に男友達とドッジボールをしていたのだが、俺が投げたボールが偶々凛堂に当たってしまったのだ。それも顔面に。幸いにも鼻血などは出ず少し赤くなったぐらいだったが、当時の俺はかなり動転していた。女子の顔面にボールを当てるなんて、とんでもない大罪だ。ましてやそれが自分の好意を向けている相手だとしたら、むしろこっちが泣きたくなってくる。軽いトラウマだ。だからどうしても許して欲しくてつい言ってしまったのだ、『何でもするから許して』と。その時の凛堂の反応を俺は忘れないだろう。びくりと肩をふるわせ俺の方をじっと見てきた。そして徐々に顔を赤くして、『そっか………こうすれば………ケー君は…私に……』とぶつぶつと小声でつぶやいて、そして笑みを浮かべた。それから俺が凛堂に申し訳ないことをしたときに、凛堂は俺にお願いをするようになった。といっても、中学からはさすがになくなかったが。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん、わかったよ。」
かなり悩んだのか、5、6秒くらいの間があった。それでもなんとか了承してくれたみたいだ。あの日もそうだった。確か初めてのお願いは毎週土日に凛堂の家で勉強会を行うことだった。
凛堂は若干手を緩める。
「命拾いしたね。でも………………………次にケー君に何かしようとしたらすぐ殺すから、忘れないでね。あと、逃げられないようにこれも………」
ズズズと凛堂から黒いオーラが発せられ、女の右手の甲に集まっていく。やがてそれは禍々しい模様に変わる。
「それはね、呪詛だよ。私が決めたルールを破るとすっごく苦しくなっちゃうから気をつけてね。今の所は魔法とスキルを使わないこととケー君に触らないことがルールだよ。それ以外にもルールは後から追加できるから忘れないでね。」
「げほっげほっげほっ………………はぁ、はぁ、はぁ」コクン
解放されたばかりで息が上がりながらも、女は凛堂の言葉に従うことを示す。そして俺は女と目が合う。
「おまえ………………犬山、なのか?」
俺は尋ねる。
「……………………おう、久しぶり、ケーイチ。四年ぶりかな?」
女は答える。
俺と犬山の挨拶はそれで終わった。
女の名前は犬山明香里。俺のクラスメートだ。いや、元クラスメートと言った方が正確だ。
「やっぱり殺した方がよかったかな。」
私は誰にも聞こえないような小さい声でつぶやいた。
――――――――――――――――――――――――
「おまえもこっちに来てたんだな。あの集会の日か?」
「そうだよ。あたしだけじゃないよ。あの日あの場所にいた生徒全員がこっちに来たんだ。なぜか先生はいなかったけどね。」
俺と犬山はお互いの情報の交換を始めていた。
犬山は両手に手錠を掛けられて、首にも鎖がつけられている。
ここは俺たちが住んでいた家の地下室である。あの戦いの後、犬山を閉じ込めておくように、と即席で作ったのだ。作ったと言ってもゼロから作ったわけではない。この地下室はもともとこの家にあったものだそうだ。この家の奥の部屋に地下室とつながる階段があったらしいのだが、凛堂がここを利用し始めたときにはすでに階段が崩れていて地下室には行けなかったそうだ。凛堂も特に使う必要もないから、直さずに放置していたらしい。ところが、今日突然の需要が生まれてしまったために急遽修繕されたのだ。
え?どうやって直したのかって?そりゃあ、もちろん魔法だよ、凛堂のね。土魔法でガガガっと階段を作ってくれたんだ。……………便利すぎる。……………………………俺も使いたかったなぁ、魔法。
「でも、ケーイチもいなかったよな。どこで何してたんだよ。」
「俺はつい最近こっちに来たんだよ。あと、おまえとは同級生じゃなくなっちまった。」
「はぁ?何言ってるか全然分かんないんだけど。」
そう言って彼女はにかっと笑う。
こいつは犬山明香里。前にも言った通り俺が高校二年の時のクラスメートだ。まぁ、俺は今も高2なんだが。
凛堂とは違って茶色がかったショートカットの髪とさばさばした口調が特徴で、性格も男勝りでいつも明るい。
向こうでは女子バレーボール部の新部長として集会に招集されていたのだ。運動神経は抜群なのだが、勉強の方が弱くテストではいつも赤点ギリギリの点数を獲っていた。ルックスは凛堂に負けず劣らずの美人でかなりモテる。凛堂がクール系美人なら、犬山はスポーツ系美人って感じだ。
「なぁ~、け~いち~。この鎖ほどいてくれよ~。」
こいつ呑気すぎるだろ。自分の状況わかってんのか?
「無理に決まってんだろ。」
「取ってくれたら胸触らせてやるよ。」
こんなこと言って毎回俺をからかってくる。さすがにその手は食わんぞ。
「な、ななななななな、何、何言ってるんだよ!!?」
「めっちゃ動揺してんじゃん!!」
ケタケタ笑う犬山。
変わらない。彼女は変わってない。あの時と異世界召喚される前と何も変わってない。
俺と犬山が初めて会ったのは高校1年生の時だ。高1のクラスで一緒だった。最初の定期テストで彼女は大ダメージを負っていた。俺は勉強はできる方であり、特に数学が得意科目だった。そんな俺に彼女は話しかけてきたのだ。
『ねぇ、君、数学得意?』
『え?ま、まぁ、他の教科に比べるとできる方だと思うけど………』
『ふーん。良かったらさぁ、あたしに教えてくんない?前のテストやばくってさぁ。次のテストで赤点回避
しないといけないんだよねぇ~。』
『別に、いいけど………何で俺?』
『んー……ま、いいじゃんいいじゃん、そんなこと。あ、名前何?』
『俺?俺は陣野啓一だけど。』
『へー。下の名前けいいちってゆーんだー。あたしは犬山明香里。呼び方は何でもいいよ。』
俺と犬山の初会話はこんな感じだった。それから犬山に数学を教えていく内に仲良くなっていった。
「なんであんなことしたんだよ?」
だから今聞かないといけない。これ以上感傷に浸るといけない。
そう思ったんだ。
読んでくださりありがとうございます。
次話の投稿は9月28日以降の予定です。




