第10話 殺し合い
凛堂が何を言っているのかわからない。この数分で明らかに脳の許容量を超える情報量が流れ込んで来てしまい、理解が追いついてないのかもしれない。いや、俺が凛堂の言葉を理解したくないだけかもしれない。
そんな俺を凛堂はニコニコしながら見ている。凛堂のその目は光がなく、どこまでも続く深い暗闇のようだった。
俺はこの時、凛堂に俺の想いがバレたのかとか、凛堂と天原たちに何があったのかとか、凛堂が本当に魔王なのかとか、そんなことは全然考えられなかった。
俺はただただこの時
「…………………なんで目、そらすの?」
凛堂が怖かった。凛堂から目を背けてしまうほどに。
「ねぇ、こっち見てよ。私を見てよ。」
凛堂が俺の顔を両手で押さえ正面を向かせる。否が応でも凛堂と目が合う。
「フフフフフ、照れちゃったの?だから目そらしちゃったの?そうだよね?かわいいなぁ。そういうかわいいとこも大好きだよ。」
俺は何も言ってない。いや、何も言えなかった。それでも凛堂は都合がいいように解釈している。そんな様子がますます俺を恐怖させる。
「震えてるの?ケー君」
言われるまで気づかなかった。自覚すると、俺の手は一層激しく震えてるように思え、心臓の鼓動もかなり速い。吐き気もする。
「ケー君、大丈夫だよ。あいつらが怖いんだよね。邪魔なんだよね。待っててね。すぐ終わらせるから。」
そう言って凛堂は二人に向き合う。
「話は済みましたか?」
「ずいぶん長かったな。」
「それで陣野君の「行かないよ」
凛堂が藤林の言葉を遮って言う。かすかに天原と藤林の表情が変わる。
「ケー君はあなたたちとは一緒に行かない。だって私を選んでくれるから。」
「つまり、私たちの敵ってことですか。はぁ、わかりました。残念です。」
藤林が大きなため息をついて言う。
「じゃあ、こいつらを殺していいのか?」
天原は今までの長話から解放されたのが嬉しいのか、少しテンションが高めだ。
「ええ。そういうことです。」
「よし!」
そして、二人が身構える。
「させないよ、そんなこと。」
それに合わせるかのように凛堂も動く。
そんな彼らの開戦を俺はただ黙って見ていることしかできなかった。
最初に動いたのは天原だった。
「よっと」
右手を体の正面に突き出すとその手から光が発せられる。やがて天原の手の中の光が形を変えていく。
現れたのは純白のオーラをまとったロングソードだった。その刀身は汚れ一つない白で、鍔は金色であった。鍔の中央に一つの宝玉のようなものがあり、これから起こるであろうことに似つかわしくない美しさを秘めたような剣だった。オーラの色から聖属性であることが分かる。
この世界では魔法を発動する際に、オーラというものが発生することがある。オーラとは魔法の発動前に漏れ出した魔力が目に見える状態のことやらなんやらって感じなんだが、簡単に言うと漫画でよく見る主人公が「うおおぉぉぉぉぉ」とかやると周りに見えるユラユラした『気』みたいなものらしい。そのオーラの量や濃度で相手がどの程度の威力の魔法を使おうとしてるのかが推測できるらしい。オーラの色は火、水、風、雷、土、聖、闇の順で赤、青、緑、黄、橙、白、黒となっている。
ちなみに俺にもちゃんと見えている。
「いくぜ」
天原は剣を構え凛堂を見据える。そこからは一瞬だった。俺には天原が消えたと認識した次の瞬間には、すでに天原が凛堂との距離を詰めていた。
速い!!
さっきまで二人は10mは離れていたはずだ。
天原はそのまま凛堂を斬ろうとする。だが俺が危ないと思うよりも前に凛堂が天原の剣を難なく躱す。
「はぁっ!ふんっ!らぁっ!」
そのまま距離をとらせまいと追撃を仕掛ける天原。その太刀筋は凛堂の頭、首、胸の急所を狙っている。だが、それら全ての攻撃を凛堂は躱す。俺はそれを見て確信してしまう。本気で凛堂を殺すつもりなんだと。
なんで…………なんでそんなに簡単に殺そうとできるんだよ……………
「!!」
そのとき俺は気づいた。天原の攻撃を躱す凛堂の死角に藤林がいることに
「氷魔法・剣山」
藤林は地面から氷の剣山を創造し凛堂に放つ。氷の魔法は水属性魔法の派生系だ。藤林の攻撃範囲は広い。凛堂の左右にまで氷が広がっており、唯一の逃げ道である反対方向には天原がいる!
躱せない!
「土魔法・剣山」
だが、凛堂は焦らなかった。藤林をチラッと一瞥すると、凛堂は足下から土の角柱を生み出しそれに乗り空へ逃れる。
「もらった!」
しかし、この動きは天原に読まれていた。天原は凛堂が藤林の魔法を回避するために空中に逃れることもそのために一瞬自分から注意がそがれることも予測していたんだ。その一瞬で空中の凛堂に近づいた。
「!うぐっ!!」
悲鳴を上げたのは天原だった。天原は吹っ飛んで地面に激突した。
そこには凛堂が足場として使った土柱の他にもう1本の土柱があった。
まさか凛堂はこれも読んでいたのか?
隙を見せれば天原が仕掛けてくることを読んでいたから今度は天原の死角から土柱を作って吹っ飛ばしたのか?
「氷魔法・弾丸」
凛堂は空中のまま魔法を使う。今度は氷だ。凛堂の発動に合わせ空に数十本の氷の槍ができ一斉に降り注ぐ。
狙いは藤林か!
「火魔法・波浪」
藤林も魔法で反撃する。炎で氷ごと凛堂を狙う。
まずい!今の凛堂はまだ空中だ!今度こそ躱せない!だが、凛堂は空中のまま炎に向かって手を突き出す。
「黒風」
その時凛堂が魔法を発動した。でもただの魔法じゃない。
あれは風魔法か?でも…………黒い、風?
凛堂の魔法と藤林の魔法がぶつかり魔法が相殺された。そのまま凛堂は着地する。
「………………何をしたんですか?」
藤林が口を開く。
「なんのこと?」
「とぼけないでください。さっきの風魔法のことです。あなたの風魔法は私の火魔法を打ち消しましたよね?一体どんな魔法なんですか?それに魔力の流れもなんだか妙な感じでした。」
何?打ち消した?相殺したんじゃないのか?
「おいおい、書記さん。手こずってるなぁ。」
「あなたに言われたくありません。」
天原も藤林に元へやってくる。装備は汚れているが、ダメージはあまりないようだ。
「相変わらずの毒舌だな。ま、それよりもさっきの魔法……………」
どうやら二人とも同じ疑問を抱いているようだった。
「フフフ、教えてあ~げない。」
凛堂はそんな二人を挑発するかのように笑う。
「まぁ、いいです。天原君、さっきの魔法には一応最大限の警戒を」
「おう、こっちもそろそろ本気で行くか」
二人は凛堂の挑発には乗らずに身構える。
「聖魔法・斬撃」
天原の剣がより一層輝き出す。辺りは夕暮れ時で薄暗かったが、天原の剣が周囲を照らす。
「はっ!!」
天原がその場で剣を振りかざす。直後、天原がなぞった空間から衝撃波が放たれる。
あれは少年漫画で王道の斬撃を衝撃波にのせて遠距離の相手に攻撃する技か?
向こうの世界の漫画でさんざん見てきたからわかる。だが、その斬撃は聖属性をまとっている。つまり、光のかまいたちみたいなものだ。
だけど、天原の技はかまいたちなんて生やさしいものじゃない。
天原の技は地面を抉り周囲のものをなぎ倒しながら凛堂に迫る。あんなの食らったら…………
「凛堂!!」
思わず叫ぶ。その声に気づいたのか、凛堂はこちらを見る。そしてほほえみ、
…………………………………斬撃を片手で止めた。
「ケー君、心配してくれたの?優しいね。でも、大丈夫だよ!!ほら!」
そう言って無邪気に笑う。
ここまで強かったのか…………。
「うわぁ………………マジかよ………………」
その光景に天原も笑顔が引きつる。藤林も驚きが隠せないようだ。
「でも…………そろそろ飽きちゃったから、終わりにするね。」
凛堂は近くに落ちていた剣を拾う。あれは俺が落とした剣だ。
「借りるね」
その言葉を言い終えると凛堂から黒いオーラが漂う。あの色は闇魔法のオーラだ。
「ようやく本気ですか、魔王様。」
皮肉めいた口調で藤林がつぶやく。
読んでくださりありがとうございます。
次話の投稿は9月20日以降を予定しています。




