~プロローグ~ 無知からのスタート
初投稿です。お手柔らかにお願いします。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
俺は息が上がりながらも走り続ける。
たとえ脇腹が痛くても、先ほど食べたばかりの朝食をリバースしそうになっても走り続ける。高校生で帰宅部に所属していると、体育以外で全力疾走なんて機会は滅多になく、時々転びそうになる。
なぜ俺はこんなにも必死に走っているのか?
皆さんはどうせ朝寝坊でもして学校に遅刻しそうなんだろう、等とお考えかもしれないがそれは違う。半分正解で半分不正解だ。あいにく、本日は日曜日なのだ。
では、なぜ俺は走っているのか?
それは俺が生徒会に所属しているからだ。
そう、俺こと陣野啓一は私立夕ヶ崎高校に通う平凡な高校二年生である。ただ一つ違うところは生徒会庶務に任命されているところである。
そして今日は、生徒会の集会なのだ。集会といってもただの集会ではない。夕ヶ崎高校の全部活の部長も出席するのである。
三年生が最後の大会やコンクールを終えると部活を引退し、現二年生に部長の座を明け渡す。
この高校ではこのように全ての部活の新部長が任命されると集会を開くのである。
簡単に集会の内容を説明すると、それぞれの部長と生徒会が自己紹介して予算の振り分け方や今後の行事を軽く説明するといったものである。要するに、これからお互いよろしく頑張りましょう的なアレである。
話を戻そう。
なぜ俺が走っているのか。それはこの集会に遅刻しそうだからである。理由は寝坊したからではない。断じて違う。集会は午前10時からで、今朝俺が起きたのが午前8時頃である。家から学校までおおよそ30分かかるので全然余裕なのである。
しかし、ここで大きな誤算が生じる。それは、俺がこの集会を月曜日にあると思っていたことである。
いや、なんかさ、ほら、月っていう字と日ってちょっと似てるじゃん。俺もさ、昨晩ゲームしてたからさ、ちょっと目が疲れちゃってね…。だからさ……その…………ねぇ?
とにかく俺がそのことに気がついたときには、時刻はとっくに9時半を回っていた。。そこから大慌てで家を飛び出して今に至るというわけである。それにしても、他の生徒会役員どもは俺に連絡をしてくれなかったのか、と思い携帯を取り出す。
スイッチを押すが、反応がない。
やっべ、電源切りっぱだ。連絡が来ないわけだ。
電源をつけると、まるでダムにせき止められていた水が放流されたかのようにメッセージが届いた。
着信 472件
新着メッセージ 232件
うぉ!?多っ!!
見るとほとんどが生徒会会長の凛堂真里亜からだった。
凛堂は俺と同じ二年生で、俺の幼馴染みである。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群を併せ持ち、生徒会会長を務めている。常に凜としていて、礼儀正しく品行方正、まさに完璧美少女なのである。父親が剣道の道場を開いているとかで言葉遣いも男勝りな感じだが、そこも彼女の魅力の一つになっており、クールビューティーという言葉が凛堂ほど似合う人物はなかなかいないだろう。その容姿や性格から、先輩後輩問わず告白を受けまくっているらしい。
おっと、そんなことをしている内に234件目の着信だ。現状を報告しなければ。
「もしもs「もしもし!!啓一か!!?やっとつながった!!!大丈夫か!?何があった!!?今どこにいる!!?事故に遭ったのか!!?不良に絡まれているのか!!?病気で倒れたのか!!?何か困ったことがあったんだろう!?場所を教えてくれ!!すぐに私も向かうから!!安心しろ!必ず私が守ってやるから!!」
全然クールじゃなかった。俺が説明する暇もないほどの勢いでまくし立てる。あまりの迫力にちょっとちびりそうだった。というか最後のは女子が男子に言うセリフではないぞ。
「お、おう。凛堂、俺だけど…。」
「啓一!一体どうしたんだ!?何度掛けても電源が入ってないの繰り返しでつながらないから心配したんだぞ!!」
「い、いや、別に…。俺は元気だぞ。なんのトラブルにも巻き込まれていないから大丈夫だぞ。」
「ホントに?」
「あ、あぁ。本当だよ。」
「ホントにホントか?」
「あぁ、本当に本当だって。」
「ホントにホントにホントか?」
「大丈夫だって。まったく心配性だなぁ。」
「そ、そうか。…ふぅ。安心したぞ。大丈夫なんだな?」
「あぁ、心配掛けてごめんな。」
ふぅ、あまりの剣幕にビビったが、なんとか落ち着いたようだ。
「じゃあ、啓一。」
「ん?」
「まさかとは思うが、寝坊でもしたのか?」
凛堂の声のトーンが低くなり、思わず周囲の気温が下がったと錯覚してしまう。
マ、マズい!心配させた分、怒ってらっしゃる!ここは冷静に返さねば…。
「ち、ちちちちちち、ちちちちちが、違う、違うぞ!全然違う!全然違うからな!」
全然冷静じゃなかった。めっちゃどもった。バレたかも…てゆうか、ほんとに寝坊じゃないからバレるもクソもないけど。
「……………そうか。ならいいんだが。」
かなり怪しいところであったが、うまくごまかせたっぽい。繰り返し尋ねてくる凛堂に、思わず笑ってしまう。ここで、俺は少し油断してしまったのかもしれない。それが命取りだった。
「じゃあ、日付を間違えたとかか?」
「お!よくわかったな!」
「は?」
「あ」
ヤバい!つい言っちゃった!さんざん心配させた挙げ句、それがただのうっかりミスだったなんて知られたら……
「ねぇ、啓一」
「ハイ…」
「私はなぁ、かなり心配したんだぞ?昨日の夜もな、ちゃんとメールしたんだぞ?今日の時間とかちゃんと送ったはずなんだけどなぁ。それなのに、ただ間違えただけだなんて。もしかして、無視したのか?ひどいなぁ、啓一は。」
「も、申し訳ございません……」
いつの間にか俺は走ることを忘れて謝り続ける。電話越しでもまるで凛堂が目の前にいるかのような迫力だ。心なしか電話の向こうで何かがバキバキと音を立てて握り潰されている気がする。怖いからやめてあげて。お願いだから。
「ごめんで済んだら警察はいらないんだぞ、啓一。」
「いや、なんかさ、ほら、月っていう字と日ってちょっと似てるじゃん。俺もさ、昨晩ゲームしてたからさ、ちょっと目が疲れちゃってね…。だからさ……その……………ねぇ?」
「すまない、啓一♪聞こえなかったからもう一度言ってくれないかな♪」バキィッ!!
「いや、ごめんなさい。何でもないです。マジでスイマセン。許してください。」
最後の効果音で完全に心が折れた。
「はぁ………とにかく急いでくれ。集会に遅刻なんて新部長たちに示しがつかんぞ。」
「りょ、了解です!」
「じゃあ、切るぞ。あ、そうだ。もしまたトラブルに巻き込まれたら、迷わず私の所に電w」
ガチャ、ツー、ツー……
あ、なんか言ってたけど切っちゃった。ま、いいや。とにかく急がないと。
それにしても本気で心配してくれてたのかな、凛堂のやつ。なんか悪いことしたな。
凛堂とは幼稚園ぐらいからのつきあいだが、昔から何かと俺のことを気に掛けてくれている。
忘れ物したときは教科書見せてくれたし、朝寝坊しそうになった時は起こしに来てくれたし、宿題でわかんないところは優しく教えてくれた。
集会当日も起こしに来ることを提案されたのだが、凛堂も生徒会長だから他にもやらないといけない仕事があるだろうと見栄を張って断っていたのだ。
その結果がこれだ。
俺はいつも凛堂に迷惑を掛けてばっかりだ。でも、凛堂と話している時が一番楽しいし、一緒にいるときが一番落ち着く。俺の思い出にはいつもあいつがいる。
だから俺はあいつのことが……。
でも、今のままじゃ駄目だ。今まで凛堂に助けられた分を今度は俺が助けようって決めたんだ。
生徒会に立候補したのだってそんなことが理由だ。庶務として凛堂を手助けする。それが第一歩だ。
それなのに、また………。
いや、落ち込むな!今日のこともまた頑張って挽回すればいい。それでいつか、この想いを告白するんだ。でも、それは今じゃない。今の俺じゃ力不足だ。だから、もっと頑張らないと!
気合いの入れ直ったところで学校に着いた。
急いで靴を履き替えて会場の教室へと向かう。廊下を走り、階段を駆け上がる。やっと会場が見えてきたと思ったら、教室の中から発せられる光が廊下に漏れている。
なんだ?あんな演出あったっけ?
とにかく、教室に入ろうと戸を開ける。
「すいません!!遅くなりま「啓一!!!」
そのセリフを言い終える前に目に映ったのは、慌てふためく生徒たちの中で、こちらに気づき手を伸ばす凛堂だった。
その光景を最後に俺の視界は光に包まれた。
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「うわぁぁぁ!!」
まぶしい光に思わず目をつぶる。その間、この状況について考える。
あの光量は蛍光灯や電球なんかじゃない。凛堂たちの慌てっぷりから見ても今回の集会にあんなものは用意されてなかった。しかも、ちらっと見えたが教室の床になにやら模様が浮かんでいたような…。謎の光、床の模様、いや、模様というよりあれは魔法陣?っぽくみえた。
つまり、ここから導かれる結論はただ一つ!
そう!これは異世界召喚だ!!
マジか!?マジで異世界いっちゃうのか、俺!ヤベぇ、テンション上がるわ!
……とまぁ、こんな感じで数分前のピュアな恋心なんて忘れて舞い上がっていたわけである。
でも、楽しくなりそうなんて思っていたこの頃の俺はまだ幸せだったのかもしれない。
そう、この時俺はまだ何も知らなかったのである。
読んでくださりありがとうございます。
次回は8月11日の22時に投稿の予定です。