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第4話 反転世界


―そこは海が上にあって山が空から生えていた

それが暁が『ハルマゲドン』を見た最初の感想だった


いや違う。何が違うって上下左右全く違う

正しくは重力が逆転していて大海原のど真ん中


バッシャァアン!

情けないほど間抜けな音を立てて暁は降り、沈んだ


「あ、暁くん大丈夫?」


いきなりのダイビングで暁は困惑していた

しかし、ようやく現実に戻ってきた


「一応大丈夫だ。ルナも大丈夫か、、、」


言葉が少しづつすぼんでいった

それは海水を含んで透けたルナを見た焦り


などではなく

海面に立ち一切濡れた様子のないことによるルナへの怒りだった


「、、、、、」

「それなら良かった。って、、、!?」



ロイという魔法は水流操作ができる効果がある。それを利用し波の動きを操作し上に立っていたのだ

それを暁にもしなかったことが悪かった


―語る言葉は今無用、ただ断罪するのみ

つまり、ぶちギレていた



「自分一人だけ水上に浮きやがって沈めてやるから水中に来い!」

「水中に行く時点で沈んでるよね!?ちょ!?足引っ張るなぁ!」

「安心しろ。間違っていない。水中から海底に沈めればいい」

「殺す気か!?それにあんたが海底まで引っ張るなら道ずれよ!」

「無呼吸でも3000ぐらい潜って置いて戻れる。安心しろ」

「さらっと何か海底に置いたよね!?やっぱりそれって私ですかねぇ!?

、、、あ、ヤバイ!分かった分かったから浮かせるから引っ張らないでぇ!」


●○●○


そしてロイで全身と片足を乾かした2人は海を歩いて渡り、地に足をつけていた


「外道、悪魔ぁ、、、!」

「その悪魔に負けたお前は手品師でいいな」

「魔法使いを侮辱するな!あの時は油断していただけで本気だったら暁くんなんてボコボコなんだから!」

「はいはいすごいでちゅね」

「バカにするな!」

「それで、ここはどこなんだ?」

「、、、、、あとで覚えておきなさいよ

はぁ、一応そっちに合わせると太平洋かしら」


太平洋と言われて踏んでいるの地面のみ

海面と言われて見えるは地平線

海と言われて右に生えてる大木

それを改めて確認すると暁は慈愛の目でルナを見つめた


「いい精神科薦めてやるよ」

「結構です!だからその目をするな!」

「痛ったっ!」


暁を三ツ又で痛そうな杖で殴ると説明をした


「いい?私の世界『ハルマゲドン』よ。そして暁くんの世界の反転世界に当たるわ」

「ここが『ハルマゲドン』て言われても実感湧かねぇけど。まあ、明らかにエレベストより高い山がある時点で認めざる終えないか」


暁がさっき空から生えていると錯覚した山は1万近い高さを誇っていた


「それで『反転世界』、、、つまり地海逆転しているの。陸の高さと海の深さが反転しているこの世界では、あれがマリアナ海溝よ」


―、、、、、

―ちょっと待て地海逆転?

―じゃあ、さっき海に落ちたのは座標を変えずに世界を越えたから?

―じゃあ、さっきは日本を泳いできた?

―じゃあ、さっき言っていた太平洋というのは間違っていなかった?

―あの山はマリアナ海溝の高さそのまま反転してる?

暁は顔を引き釣らせる。


―もし、そう仮定して


「もしかして、帰る時また海に落ちるのかよ。今度は海の太平洋沖に」

「それはないわ。『ピース』の入り口は、あの真くんが住んでいる山しかないから何処から越えようとあの山からしか『ピース』には入れない。逆に『ハルマゲドン』の入り口はあの海の真ん中しかないからそこからしか『ハルマゲドン』には入れない」

「つまり、検問みたいなものが各世界にあるってことでいいのか?」

「ぶっちゃけそんな感じ」


暁は空気を和らげる

もし、反転している座標に戻ってしまえば、先程のように上下も逆転している訳なのだから、海の底や土の中建物に挟まっている可能性があったのだ。

そう、それはまさに初代ポ○モンのバグのように石の中にいるという絶望不可避の状況にもなり得る可能性が


「取り合えず移動しようぜ。こんな何もない平原に立っていれば格好の的だ」

「そうね。ここからなら近い街があるわ。案内するから着いてきて!」


そう言うとルナはレーダーのようなものを取り出し一直線に林に入っていった


●○●○


草を掻き分けて進む暁は先程から気になっていたことがあった


「なんなんだ?そのレーダー」


度々確認しては方向を変えたり走らされたり、隠れたりするルナの挙動に少し疑問があったのだ

ルナは掌を見せるようにレーダーを向けると説明をした


「これ?魔力レーダーよ。近くの魔力の厚さ、魔物の位置を教えてくれるわ」

「へぇそれは便利だ。こんな森の中で戦闘はごめんだ」

「あら、てっきり敵と戦いたいというと思ったのに」

「まさか。こんな場所で戦闘なんてすれば危険だろ」


かつて、強国であった3つの国は圧倒的数の魔物によって落とされた。そして今では反転世界である『ピース』にすら現れるほど『ハルマゲドン』には魔物が蔓延っている

例えばこの森のように、身が隠しやすい場所では尚更数が多い。一度戦闘には入れば戦闘音や敵の叫び声、血の臭いなど、多くの痕跡が残りそれが新たなる敵を呼ぶことになる。その戦闘で痕跡を残せば前の戦闘の痕跡を加えてさらに多くの敵を呼ぶことになる。このように鼠算のように増えていけば2人のパーティーなどひとたまりもない

それが分かっている暁はさすがに戦闘は求めなかった

なお、逆に魔力センサーという敵の位置を予測できる道具があれば、隠れながら進める森というのは安全地帯と言っていい


「良かった。バカじゃなくて」

「貶してるのか?」

「誉めてるのよ。前にこんなことも分からず大魔法ぶっぱなした。バカとパーティー組んでたから」

「あー、それは御愁傷様」


遠い目をして上の空になったルナを見て暁は思った

森が消えるか魔物を全滅させるか危険極まりない戦略的撤退が行われたのだろうと


「とにかく、隠密機動か大事だから、ちゃんと着いてきてね」

「分かった。ちゃんと案内してくれよ」


●○●○


それから1時間経った頃だった


「なあ、ルナちょっといいか?」

「静かに集中しているから!」


―いや、さすがに集中しててもどうにもならんだろう

先程から森の端から端まで右へ左へうろちょろしているルナに見かねて暁が言う


「いい加減強行突破しようぜ?」


レーダーに映る目的地方向の点は10万を優に越え、それが言わずもがな魔物であった


「分かってるんだけど、せめて薄いところを突いて、、、」

「無いから彷徨いてるんだろうが」


暁が草むらから奥を伺う

繁殖力の高いゴブリンを筆頭に、通常の数倍ある狼(ファングウルフ)動く骸骨(スケルトン)翼を畳んだ飛竜(ワイバーン)、それらが隙間なく地面を埋め尽くしていた

それを視認したルナが決意する


「さすがにこの緊急事態は街も気づいてるでしょ。街には壁があって、倒しきれなくても武装した奴らで片付けちゃえばいい

、、、、、道を作るわ。私の魔法に続いて!」


そう言って杖を出して振るう


「ステナ・ネロ!」


昨日、暁に向けたのをさらに大きくした水流レーザーが魔物を襲う。そして魔物の影に埋もれて見えなかった街の外壁とおぼしき物にぶつかり止まった

あとに残ったのは薄く赤みかかる道だけだった


それを目掛けて走り抜ける2人の影を最初は呆然と見送る魔物であったが、自分の存在意義を思い出したように2人を追い始めた


「追ってきたぞ!」

「分かってる!シーフォス・ネロ!」


そう唱えると空中に水で作られた剣が出来上がった

微動だにせず暁の手にも収まらなかったその剣は魔物の集団が前にまで迫ってようやく動いた


「ロイ!」


それは凄惨に残酷に醜く赤い小間切れになる速度で魔物を斬っていく。横から抜けようとしても剣が追い付き切り裂く

もはや追うことは不可能と思った者は撤退していった


「よくやった。壁の件は任せろ!」

「お願い!ってうわぁ!」


ルナをお姫様だっこすると一気に速度を上げる。そして両足で踏み切り壁の上に向かって飛んだ。魔物の侵入を防ぐため閉じた門を乞えて街に侵入した


端から見たら空から降ってきたように見えたであろう2人に街の住民は驚愕し、『親方空から男女が!』とか、『もう、なんなのよ!いきなり人の上に落ちてくるなんて!』『いや、お前立ってるじゃん』などとヒソヒソと話始める


さっきまでのシリアスが台無しであった


「、、、なぁ」

「何でもは知らないよ。知ってることだけ」

「何も聞いてない。と言うか、なぜ知ってる。なぜ広まってる?」

「国家公認の異世界図書館が各街に設置されてて連日連夜賑わってるの」

「ここにも日本のオタク文化が広まっているというのか、、、」


外国人すら魅了するオタク文化は異世界すら魅了していたのだった

ちなみに、図書館のアニメDVDは予約制で各10個同じものを置いていても1ヶ月待ちだったり、大画面でアニソンの映像を流すというアニソンライブを月3で行っていたり、流通が制限されているフィギュアを持っている者の中には毎日崇め奉っている者が少なからずいたり、毎日コスプレをして町に出る者もいる(しかも、『ハルマゲドン』が『中世ヨーロッパ風異世界』の為あまり違和感がない)

異世界は日本並みにオタクしているというオタク研究家のデータがあるらしい


「異世界って何だっけ?」

「アハハ、何も言えない」


異世界のオタク事情に黄昏る2人

そんな中、話しかける者がいた


「もしかして、『水竜』のルナ様ですか?」


その瞬間さっきとは別の意味で騒ぎ出す住民達

「水竜様が来てくれた!」「サードのメンバーが2人も居てくれるなんて!」「夢、なのか?」「敵も哀れだな!」

その言葉を聞いている内に暁が口を開いた


「『水竜』ってルナのことか?」

「ええ、その通りですよ。名のある傭兵には『二つ名』をつけられ、その偉業を称えられるのです。それにしてもルナ様と一緒に現れた方ですからてっきり知っていらしゃる者だとばかり思っていました」


そう言われて目線がルナに集中する

ルナは恥ずかしそうに照れて


「まあ、あまり言いたくないからね。教えてなかったんだ」


そう言った。確かに「私は『水竜』と呼ばれてるの」などと言えば脳を疑うかやさしい目で厨二病を止めてやるだろう

そんなことはどうでもいいと今度はルナが聞く


「『サード』て聞こえたけど、誰か来てるの?」

「はい。『千陣』のフェン様が来ていらっしゃいます」

「え゛!?フェン?何であのアイツなのよ!」

「フェンって誰だよ?」

「さっき言ってた森で大魔法ぶっぱなして魔物を大量に呼んで森ごと全部消す羽目になった原因の魔法使いよ」

「、、、ごめん。後半聞いてない」


暁は後に知ることだが、ソロSランクとはパーティー6人で認められるパーティーSランクと同等の能力を持っていなければならない。つまりルナは熟練者が6人集まってようやく対等に戦える実力者。それと同じような実力者が3人集まっていた『サード』と呼ばれるパーティーであれば森を地図から消すことなど造作もないことであった

故にルナに勝った暁は油断していたとはいえ偉業を成し遂げていたのである


「で、その馬鹿は?」

「フェン様は現在宿に籠って魔導符の作成中でございます。それと馬鹿とは失礼ですよ」

「教えてくれてありがと。それと馬鹿で通じている時点で無意味よ」

「、、、どうか内密に」


そう、言葉を交わしてその場を後にした


●○●○


数分後、潰れた宿屋に暁達はいた


「さらっと宿屋壊さないでくださいよぉ!」

「え?だってこうでもしないと出てこないし」


その場には金髪少女がへたれていた

髪はボサボサ色白というよりは病弱な白い肌ボロボロの姿で目尻に涙を溜めるフェンに対する暁の評価はニートであった

ルナもいきなり宿屋を壊したら訳ではない

呼び掛けても返事せず、ノックして返事せず、ドアを壊そうとすれば初めて言葉を放ったと思えば壊されないようドアを強化し、部屋の壁も強化し、遮音まで掛けた瞬間ルナがキレて激流でドアを殴るが壊れず、高等魔法で引きこもっていることが分かった瞬間容赦がなくなった。大量の激流レーザーが全方位から宿屋を襲い、水で出来た剣が木を破壊し、宿屋のその部屋以外が崩壊した後、ようやく数十分かかって最後には砕け散り中から彼女が出てきたのだ


―これを自宅警備員(ニート)と呼ばず何と言う


ちなみに、宿屋の住民はルナの殺気で早急に退避し宿屋が大量の水に木屑にされるという非日常を目撃した


「だからって壊す必要ないじゃないですか!」

「この緊急事態に出てこない。あなたが悪いでしょうが!」

「だって、ルナ先輩がいるならしばらく魔導符作ってても大丈夫だと思いましたし」

「そんな信頼要らない!!」


クズだった。馬鹿で天然でクズだった

強者が近くにいるとその強さの影に隠れるクズであった


「なあ、これ強いのか?」

「まっったく!」

「ちょっと!?ルナ先輩」

「こいつ自身は全くもってお荷物で足を引っぱったあげく一緒につっこけさせる馬鹿よ!」

「そんなこと、、、」

「森で魔法ぶっぱなした事3回、水に溺れた事7回、転移場所が正反対だった事10回、魔法で味方を巻き込んだ事15回、街中で大魔法使って憲兵に関係のない私たちまで怒られた事36回!!まだまだあるわよ!魔石を」

「止めてぇ~!そうです。馬鹿です。お荷物です。足手まといです。だからそれ以上は止めてぇ~!」

「、、、、、」

、、、、、

―これ、要らなくない?

むしろ負け戦にする原因にすらなりそうな人員に暁はドン引きして一歩下がった

するとルナが耳を近づけ


「ただし、彼女が作る魔導具である魔導符は敵を一掃できる強力な魔法を打ち出せる。故に魔導符は所持を許された者でしか持つことができない。中には下手に持てば暴発ものもあるからね」


そう言った


「じゃあ、その魔導符とやらを借りればいいんじゃないか?持ってるんだろ?その許可」


リバースと呼ばれたあの異世界転移魔法は符であったことは暁の記憶に新しい。今までの情報から察するにリバースがその魔導符というのは明らかだった


「操作が難しすぎるのよ。彼女の魔法は複数の魔法陣を重ねて連ねて組み合わせて作り上げてあるから。リバースならその辺調整してるらしいけど、他の魔導符になると最も強く使えるのは製作者の彼女だけよ」

「何その、強いんだけど出すとき失敗したら自分にダメージ来る地雷カード」

「まったく、もう少し自重してくれないかしら」


二人を知るものが聞けば、お前らもな。と言われること間違いないことを言いつつ。まだ土下座して震えている地雷カードを見た


―大丈夫かなぁ?

誰もがそう思わずには居られなかった



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