第2話 危険な転校生
その日は朝から校内が騒がしかった。しかも男子の盛り上がりが大きかった
なのでそこらにいた。騒ぐ男子の首元を掴んでみる
「あ?なんだ、、、暁さんすいません!」
「、、、、、」
確かに暁は校内でも2人しか居ない化け物扱いされる人物ではあるが、強面頭ではない。平均的なスポーツマン程度の顔だと自他ともに認めている
なのにも関わらずいつも以上に怯えていた。まるで目を合わせてはいけない人物に睨まれたように
そして怯えた彼と一緒に喋っていた彼らが熊に会ったときのようにゆっくりと後ろに下がっていく
―風評被害そこまで酷いはずはない、、、と思いたい
知るわけがなかった
暁が軍事基地に殴り込んで勝利したらしいという噂を謎の科学者が流していたことなど
後日京が世界相手に戦争を始めたらしいという噂を謎のスポーツマンが流したのは別の話
取り合えず暁は怯えた彼に話を聞いた
「これなんの騒ぎ?」
「はっ!なんでも転校生が来るらしく校長室に入るのを見たものによれば外国人のようなかわいい美人さんとの報告が上がっております!はい!」
「、、、もうちょっと緊張解いてもいいんだよ?」
「サーイエスサー!」
「、、、、、」
-もうね、、、
何も言えなくなったので彼を解放して暁と同じく化け物扱いされている京に話を聞いてみることになった(その後別件で話を聞くことになる)
「京、ちょっといいか?」
「あら。何の話かしら」
「転校生の話聞いたか?」
「ああ、そっち」
「そっちって何の話だと思ったんだよ」
「別に、気にしないでいいのよ。それで美人の転校生を口説く方法でも聞きに来たのかしら?」
「違う。まずお前に聞く時点でそれは違う。この入学式も先月終わった頃に転校生とかおかしいって話だよ」
今は5月の第2週で転校するならもう少し時期を早めて入学式に間に合わせるか、時期を送らせて2学期転校するのが普通である。
「あら、本当に口説く方法じゃなかったのね」
―ガチャ
「当たり前だ。誰が素知らぬ薬を出そうとする奴に口説き方を聞くか。そうじゃなくてどうなんだ?」
「そうね。実際転校生ではないわ」
「はぁ?じゃあデマか?」
「完全にデマとも言えないのよね。どうやら彼女4月の時点ですでに入学しているようなの」
「居たのか?」
「居なかったわ」
ありえないことだった。入学当初組分けのため名簿が壁に張り出され、京はその名簿すべてを記憶している。京の性格や行動は信頼しないが頭だけは暁は信頼していた
「あら、誉められた気がするわ」
「気がするだけな気がするだけ」
「あら酷い。とは言えここまでならば不登校児が1ヶ月立って登校してきましたで済むのだけど。不思議なのはこれだけじゃないのよ」
「どういうことだ?」
「入学前、私と暁くんが一緒のクラスになるため学校のパソコンにハッキングしたときには彼女の名前は無かったのよ」
「、、、、、」
-飲み込め
必死に理性を押さえつける。もし、暁と京がここで戦えば学校が更地になるどころか町が消えるのは目に見えていた
―京の性格と行動は信頼していない。中等部の頃だって平気で大会社の個人情報をハックしていた奴だ。学校のネットワークなんて赤子の手を捻るより簡単なことだ
そう暁は己に言い聞かせ、話を進める
「それじゃあ先生の張り出し忘れって言うことでもないんだな?」
「そのはずなんだけど。今日改めてハックしてみたら合ったのよ。彼女の名前」
「あれ?おかしくないか?ここの学校のセキュリティって」
「私が改良を加えて鉄壁と化したわ」
大事なことなのでもう一度言おう
京の性格と行動は信頼していないが、頭だけは暁は信頼している
「つまりハッキングは不可能」
「その形跡も報告もないしね。私のセキュリティを破ることは私にしか出来ないわ」
「じゃあ、内部で変更された?」
「そうとしか考えられないわね。夜は私の夜間セキュリティがあるから無理よ。
だとしたら白昼堂々校内に潜入し誰もいない職員室で入学者リストを改竄。そして誰もいない校長室の大金庫に自分の入学書類を混ぜてそのまま誰にも見つからず逃げた」
「、、、、、どのみち無理だな」
「そうね。誰にも見つからず潜入することですら難しいのに
基本的に誰か1人はいる職員室を無人にして何万通りもあるパソコンのパスワードをロックにかかる5回のうちに開き、山のような情報の中から入学者リスト見つけ出す。もうこの時点で無理よ」
「だよな。、、、、、はて、行える人物に1人心当たりが」
「あら、奇遇ね。私も心当たりがあるのよ」
そう言って互いにジッと見つめ合う2人。そしてどちらもこんな手間のかかることはしないと視線を外した
「どんな仕掛けを使ったのかな。その転校生」
「案外種も仕掛けもなかったりして」
「は?」
「UFO♪」
「バカな」
転校生は宇宙人何て言うありえない予想に暁はちょっと思いを馳せつつ。もう1つ話を出す
「日本に生息する緑色の人形陸生生物何か知っているか」
「何よ。急にもうホームルーム始まるわよ」
「いいから、何か記憶にないか?」
「緑色の人形陸生生物?そんなの日本どころか世界中探しても1種類しかいないわ」
「居るのか!」
「河童」
「居ねぇよ」
さらに馬鹿話を繰り広げてしまったとき教室の扉が開き担任が入ってきた
即座に机に戻る。謎の転校生は一緒には入ってこないらしい
「転校生の話はもう広まっているようだな。その転校生はこのクラスに入る」
一気にざわつく教室。特に男子が話し出した
その中でも暁と京は
すでに入学していた彼女を転校生扱いにして話を乗り切るつもりかと気付いた
それに関してはどうでもいい。ただ、先生ですら認知できない事態とはなんだ。ふと、暁の頭に裏口入学の文字が浮かぶ
「静かに!、、、では転校生に紹介してもらおう」
再び教室の扉が開く。転校生の第1印象は可愛い、次に危険だった
容姿は青髪に色白の肌、美しいより可愛いという言葉が似合う顔に同年代の女子より低い身長。胸もそこまで大きくなく身の丈にあったという感じ。そこが幼い可愛さを感じさせるような感じだった
しかし、目だけは違った
髪と同じ青い眼。だがまるで顔に浮かぶ笑顔の中で唯一嘘をついていないその目は戦う意思を持つ者
つまり、暁と京と同じ目だった
「ルナ・トライと申します。ルナと呼んでください!どうぞよろしくお願いします!」
その目を見抜く者は同じ目を持つ3人しか居なかった
「では、ルナさん机を持ってあそこに座ってくれるかな?」
「はい!」
そう言ってルナは教室の隅に置いてあった机をは運んだ、、、暁の横に
「よろしくね」
「ああ」
そして俺の後ろに座る京も挨拶する
「よろしくね。ルナちゃん」
その瞳は実験動物を観察するような何時も暁に向ける物だった
●○●○
学校の屋上、それは普段立ち入り禁止されている場所で鍵が閉まっているはずの場所だ。しかし昼休みそこに暁と京が居た
「京、やりやがったな!」
「何のことかしら?」
「ルナが俺の横に来るように仕向けやがって!」
ホームルームのあの出来事異常だった
本来、暁の隣は京だったのだ。それはもはや当たり前。むしろ他に誰も座りたがらない。それなのにいつの間にか席が変わっていた。京が後ろに行き暁の隣が空くように変わっていたのだ
「仕向けた?違うわ。『狂っていたのよ座席が』」
「じゃあ誰が狂わせたんだろうな?」
「私はその顔を見たことがないわね」
「お前は鏡のない生活を送っているのが分かったよ」
「あら、女の子の私生活を知るなんて酷い人ね」
「よく言うな」
暁は言うことを言ってスッキリしたのか持参した弁当を開く
「あら、今日は何かしら」
「やらないぞ?」
「そう言うと思ってこれ」
京が暁に焼きそばパンを投げ渡す
「卵焼き1つ残せよ」
「交渉成立ね」
京が決まって取っていく卵焼きを1つほうばっていった
目に見えて調子のいい京に暁が言う
それはルナが登場してすでに気づいていたことだった
「それで、新しい観察対象見つけてご満悦か?」
「ええ!あの目を持つ者は暁くん以外見たことがなかったもの!あの背筋がゾクゾクする目!何をしてくれるのか今から楽しみでならないわ!」
「そうか。俺は不安で堪らないね」
「大丈夫よ。暁くんは私が見惚れた最初の同類。暁くんが見せてくれたあの目!今でも忘れない。あの力がある限り暁くんが不安になる必要はないのよ!」
「さらに不安になったよ。頼むから出てくるなよ」
「私が出る必要もない。断言しておきましょう。あのルナちゃんは私たちを大きく狂わせる引き金よ。あの子が出た時点で狂ってしまったの」
「それはまた狂科学者のお墨付きとは最悪だよ」
俺の言葉を聞かず悦に入った京は卵焼きを食いつくすと(1個も残さず)屋上を出ていった
「まったく1つ残せって言ったのに」
文句を言いつつ暁は京に言われたことを思い返す
『ルナちゃんは私たちを大きく狂わせる引き金よ。あの子が出た時点で狂ってしまったの』
暁たちの何を狂わせるのか。それは言わなかった。だけど
京がここまで断言して狂わなかったことはない
●○●○
放課後
暁は山の中で大木相手に戦っていた
何時も通りメキメキと倒れる大木を眺めて少しため息をつく
「あぁ、この前の敵少し残しとけばよかった。このままじゃ、木が無くなるぞ」
もはや目に見えて禿げ山化し始めているため、これ以上この訓練をするわけにはいかなかった
「倒した大木で的を自作するか?でも俺が作っても弱体化と一緒だし、京が作ってくれるわけがないし、というか作らせてはいけない」
京なら組み木細工なんてお手のもの
丈夫な的を作り上げるだろうが、絶対その代償として求められるものが大きい
暁がいったいこれからどうすればいいか悩んでいたときだった
大木を片足で空に蹴り上げる
ドゴンッ!
その大木は何かしらの衝撃を受け暁の方向に落ちてきた
片手で何気もなく大木を押さえる
「この前の敵残っていたのか?」
「ステナ・ネロ!」
そんな掛け声ともに空から大量の激流が暁を襲う。咄嗟に大木を押さえる手が強くなる
バキベキと音を立てて崩れ出す大木
「木を砕くほどの激流だと!?」
明らかにこの前の敵とは違う謎の攻撃に戸惑いつつも、すぐに防御を解いて力を流す
地面に穴が開き初め逆流に飲み込まれる前に大木を捨ててその場を脱する暁そのまま空に飛び上がり敵を迎撃しようとした
だが、未知の攻撃を己の実力で図るべきではなかった
「ロイ!」
その掛け声と共に激流は流れを変え後ろから暁を天高く放り投げた
●○●○
木上から暁を襲っていたルナは言った
「ま、ざっとこんなもんでしょ」
激流の水源にいたルナは今朝紹介されたときと一緒で暁と同じ高校の制服を着ていた
しかし、違っていたのは先が3つに割れた槍を持っていたこと。その槍から激流を流していたことだった
「一度でも私の魔法を耐えられただけで充分な見込みはある。だけど、迎撃は頂けないわね。相手を確認してからじゃないと痛い目をみるのが分からなかったのかしら」
魔法と呼ばれた激流を止めて暁の評価に入る彼女だったが、ふと思った
「あれ?暁くん落ちてこないな。もしかしてやり過ぎたとか?」
そう言ってルナは空を見上げた。星が輝き周囲を明るく照らす。そこには暁の姿はなく木に引っ掛かった様子もない
視線を感じた
―ゾクリと
「な!?」
その先にはちょうど落ちてきた暁がいた。その目は明らかにゴブリンを倒したときの目ではなく敵を対等として倒すという殺気立ったもの
地面に着くと思えば既にルナの前に立っていた
驚く暇も与えず。そのまま正拳突きを腹部に穿った
すぐ近くにあった木にぶつかり地面に落ちた。確認するまでもなくルナは意識を失っていた
「やり過ぎたじゃねぇよ。滅茶苦茶いてぇ、、、!」
ルナの敗北原因はただ1つ
未知の敵に己の実力で図るべきではなかった