とある高地(上空1)
レティシアは、眼下に展開されている光景を輸送機の荷室の小窓から信じられない思いで見つめていた。
低空侵入コースに入ってから、コンテナ投下を補助するために荷室に移ったレティシアだったが、どうやら共和国軍が夜襲をしているようであり、それだけでも驚きだったが……友軍は共和国軍に対して照明弾の明かりで射撃していた。
そんなことができるのかどうか、操縦手であり歩兵の基礎訓練しか受けていないレティシアにはすでに「?」なのだが、どうやら数で劣りながらも友軍はそれで踏みとどまっているようだった。
「準備はいいか? やり直しは御免だぞ」
ヘッドセットから機長の声が聞こえてきた。レティシアが機内要員の顔を見ると、彼はレティシアにゴーグル越しの眼差しを向け右手の親指を立てた。
「準備よし!」
レティシアが応じると機長がカウントダウンを開始し、機内要員がコンテナの固定具を外しはじめた。
「10、9、8、7……」
機長のカウントダウンが「2」まで来たとき、機内要員がレティシアの肩を叩いたので二人はコンテナを力一杯押し出した。
ちょうどレールの端にカウント「0」で到達したコンテナは、暗い闇の中へ吸い込まれてすぐに見えなくなった。
あのまま低高度開傘すれば、今度こそ味方陣地内に落下するはずだ。
機長が、どこに落ちるか解らないような無責任な物資投下などするわけがない。
地上にいるときだけ威勢がよい、どこかのエセ飛行機乗りとは年季の入り方が違う。
「少尉、照明弾が上がらなくなりましたね……」
機内要員に言われて、レティシアも「そういえば」と思った。
「まずいな……そいつは使えるんだな?」
「もちろん。でも、何も見えやしませんよ?」
「お飾りじゃないなら、準備しておけ! 頼んだぞ!!」
そう言うとレティシアは、荷室から操縦席へと続くハッチに身体を滑り込ませた。それを見た機内要員は、子供の頃、家にいた猫をふと思い出していた。
「すばしっこい猫だったな」
* * *
「物資が間に合えばいいが……もう物資がどうこうという段階ではないか」
操縦桿を軽く倒して機を旋回させながら、気遣わしそうに眼下の闇を見つめる機長が荷室から戻って来たレティシアに声をかけた。
レティシアは、それに直接は応えなかった。
「操縦桿をください」
「還りは操縦するか? 別にかまわんが」
「私に考えがあります。シートベルトはしていますね?」
「なにっ!?」
レティシアは副操縦席に着いて自分もシートベルトで細い身体を固定すると、ヘッドセットをして荷室の機内要員を呼び出した。
* * *
「了解」
機内要員は、ヘッドセット越しのレティシアにそう応じるとハンドルを回して機外扉をスライドしはじめた。
「とんだお姫さまだ! さすがヴァルシュタット家……」