とある高地2
「大丈夫でありますか? 本当に我々だけで……」
「〈杜〉の方々にばかり負担はかけられん。ここは王国領内だ。我々がやらずして誰がやる」
「……」
緊張の面持ちの若い王国陸軍兵士に、軍曹が言い切った。夜陰に紛れ、王国空軍輸送機が投下した物資を確保しようというのだ。
掩蔽壕を吹き飛ばした共和国軍爆撃機と違って、共和国軍輸送機は高高度から物資を投下した。そのため、物資は自陣内に落ちることなく緩衝地帯の傾斜を転がり落ちていった。
友軍機が現れたのを喜んだのも束の間、その光景を眺めているしかなかった部下たち。その落胆した表情を軍曹は思い出していた。
軍曹が暗闇の中、部下にうなずいて斜面に近づくと奈落の底を覗き込んだ。
「おい。何かおもしろいものでも見えるか?」
聞き覚えのあるその声にぎょっとして軍曹が振り返ると、そこにはいつの間にかふたりの〈狩人〉がたたずんでいた。
「いや、これは……」
「心意気は買うがな。なあ、アウィス」
「そうだな」
居心地悪そうな軍曹とあっけにとられている兵士を前にして、ふたりの〈狩人〉は言った。
「まあ、見ていろ」
オウルは足下の小石を拾い上げると、投下された物資に向かって放り投げた。石は物資の入った木箱に当たり、乾いた音を立てる。そのとき、突如、投光器の明かりが木箱を照らし出し、連続した射撃音が辺りの静寂を破った。そして、投光器の明かりが消えて射撃音もしなくなった。
「!」
「一晩中、見張ってやがったのか」
「どこまでも暇な連中だな」
軍曹が隣を見ると、いつの間にかアウィスは狙撃銃を手にしていて、レバーを操作し排莢するところだった。
「こっちも物資は回収できなかったが……」
「……あちらも投光器は使えなくなった」
「申し訳ありません……」
「いや、すべての責任は自分にあります」
「貴君らには、まだまだ、やらなければならぬことがある。命を無駄にすることはない」
「明日に備えて良く寝ておくこった。解散」