第四話 アクアース
四話です!
またかなり短いですが、是非読んでください!
四話全て読んでくれてる方、ありがとうございます。この話で初めて見る方も是非、一話から読んでみてください!
お願いします!
大地の欠片~HOSINOKAKERA~
第四話 アクアース
夏の風を列車が切る。列車は国境を越え、ソーディアースからアクアースへと突入した。
ハルとユナはこの先のアクアース首都で下り、そこから首都を北上してアクアース北部に出ている列車の駅に向かう。列車は約二日で目的地のラベラーアルプス麓の村に着く。
そこを拠点に昼ホタルの生息地を探し出し、孵化の瞬間を収めるのだ。
さらに、村にはその四日後にシンゼリアの国交団が首都から移動して来る。そこで織田のぞみに接触する。
織田のぞみ接触については、まだユナに伝えていない。時を見て話すつもりだが、ハルとしては気付かれずに事が進めばそうしたかった。
「••••••ところで先輩」
列車を下り、次の駅へ行く為のバス停に向かう途中、ユナがウズウズしながら切り出した。
「孵化の瞬間って一瞬ですよね?それをどうやって描くんですか?やっぱり先輩ぐらいになると一瞬でも十分とか•••?」
「うーん•••」
キラキラと笑顔を輝かせてハルを見詰めるユナだが、ハルは苦笑して首を振った。
「いくらなんでも一瞬で数千のホタルを描くなんて出来ないよ」
「え•••!?それじゃどうやって?」
「もちろん風景を先に描いといて最後にホタルを、とか手は色々あるけど•••僕は''精巧さ,,を求めるからね。記憶で賄えない分は同じ風景を見直す必要があるね」
「へー•••」
ユナはハルの解答に数回頷く。が、すぐに顔をしかめた。
「無理でしょ•••」
下を向き、ボソリと呟く。
「だって一瞬なんだから何度も視るなんて不可能じゃないですか。どーするんです?」
しかし、ハルは微笑んで再び首を振った。
「今回はそうでもないんだよ。優秀な助手がいるから」
「••••••!」
瞬間、ユナははたと足を止め、顔を赤らめて言った。
「了解です!ハル大先輩!!」
つまり、つまりだ。ついに、ついに私の力があのハル・グラン・ツバキの風景画に貢献する事になるのだ。
世界的賞をいくつも獲り、一国から依頼が来る程の有名画家の仕事に、この私の力が•••!
おそらく、自分と同世代でこれ程の名誉を手中にしている男は先輩ただ一人の筈だ。その旅に同行しているだけでも最高な事だ。
しかし!それだけではたして助手と名乗れるのだろうか?
否!
助力してこその助手だ。だって「助ける手」って書くんだからそうでしょ?
だったら、私はやっと本物の助手となれるのだ。
そう•••。
「私の写真が先輩の絵に使われるんだぁああ!!」
「!?」
バス停でバスを待つ中、突如としてユナが大声で叫んだ。
「ッシャアア!」
そして、両拳でガッツポーズを握る。周囲の目が相当冷たいが、そんな事は全く眼中にないユナは、喜びを爆発させていた。
「やったやったやったーっ!」
「••••••」
それを見て、ハルはユナから一歩離れ、我関せずの体勢を取った。
(ずっと様子おかしかったけど•••そーとー遅れて来たみたいだなぁ•••)
まあ、解らないでもないな。
ハルも画家として駆け出しだった頃、絵の師匠の仕事を手伝えた時は凄く嬉しかった。絶叫はしなかったものの、数日は興奮が冷めやらなかった。
そうすると、今のユナはそれと同じ感覚なのだろう。
ユナの夢は写真家として有名になり、育った''孤児院,,で写真展を開く事だ。
世界中から人々が自分の写真を観る為に訪れ、感動して帰って行く。さらに、孤児院を写真展の収入で助けられる。
口では金だの名誉だの有名だのと言うユナだが、ハルからすれば写真家として、人として成功する事を夢に持つ純粋な少女だ。本来なら、ハルの様な人間と旅をする人じゃない。
しかし、唯一ハルとの旅が彼女に良い影響を与えるとしたら、それはまさに今だろう。
ハルの描く絵にユナが関与したとなれば、彼女の名を世界に広げる良いきっかけとなる。彼女の夢に一歩近付けるのだ。
そうなれば、ハルとしても嬉しい限りだ。
「••••••そういえばユナ」
「はい?」
バスに揺られ、読書をしながらハルが言った。
「来月ピノリアナで写真のコンクールがあるよね。君は出場するの?」
ピノリアナはここより東にある砂漠の国で、毎年コンクールを開いている。出場するならそろそろ写真を選ぶ必要がある。
「もちろんですよ。去年は予選選考で落ちましたが•••今年の私は違いますから!」
そう言ってユナはドンと胸を張り、静かな笑みでカメラをハルに向けて構えた。
「なんたってあの先輩と旅してんですよ?これまでで最高の写真達が私の手札です。それに•••」
「?」
向こうに見える山脈を片目でチラリと視て、物憂げな表情で視線を戻した。
「いい加減•••進まなきゃですよ」
それから、バスは昼過ぎに駅に到着し、二人は列車が来るまでの間、食事を摂ったり買い物をしたり、適当に時間を潰した。
麓の村に着けばすぐに山に入り、ホタルの卵がある場所を探す。四日以内に見付かれば予定通りにその後織田のぞみと接触する。見付からなければ織田のぞみに会いに一度山を下り、そしてまた山に戻る。
昼ホタルの孵化が観られる時期は今からおよそ一週間前後。最悪、その光景を描き留めれない可能性もある。
でも、それだけはあってはならない。
何故なら•••。
「''僕,,•••だからね」
遠くに霞むラベラーアルプスを仰ぎ、フッと笑った。
第四話 完
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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