第一話 ハル・グラン・ツバキ
初めての投稿です。自分の小説がどれくらいのものかを試してみたいです
大地の欠片~HOSINOKAKERA~
第一章 ハル・グラン・ツバキ
彼の名はハル・グラン・ツバキ。
母は世界最強の軍国、ソーディアース帝国出身の元''ナイト,,。父は東の大国、シンゼリア出身の元''戦士,,。
二人とも腕利きの兵士で、呼称と言われる通り名を持ち、世界的に見てもかなり有名だった。
ソーディアースとシンゼリアは古くから友好関係にあって、両親も国交の中で知り合い、後に父が母の母国であるソーディアースに移り住んで結婚した。
ところで、両親が二人とも''元,,ナイトだとか戦士だとか言う所が気になった人もいるだろう。
まあシンゼリアからソーディアースに移住した彼の父は戦士団から抜け、ナイトとなっていたのだが、とりあえず、二人はもう現役の兵士ではない。
何故、二人の表現が過去形なのか。それは•••。
二人は既に、殉職しているからだ。
第一話 ハル・グラン・ツバキ
空を仰ぐ。そこには綺麗な満月があって、宝石の様にちりばめられた星々が輝いている。
心地好い夜風。風に靡く草花。木々のざわめく音。夏草の匂い。月光の下の湖畔。
僕は宵が好きだ。日中は何もかもが陽光に隠され、はっきりとしない。
でも、陽が隠れ、月が現れると宵が訪れる。
人々が寝静まり、音が生まれる。静寂の色が始まる。光の声が鳴る。
静かな中に事物の真意が浮かび上がり、陽の光から抜け出た様々な景色が現れる。
だから好きだ。
だから•••。
「寝不足だ•••と?」
大あくびをするハルの前で、旅の供、ユナ・レイン・アークウェイが不機嫌に尋ねる。
「いやぁ•••昨夜の満月は良かったよ。あの草原とあの月はホントいい絵が描けた」
対してハルは上機嫌に答え、画材一式の入ったカバンをポンポンとやった。
「でも欲を言えばもうちょっと雲が欲しかったか•••雲一つ無いってのもいいけどやっぱり少し漂ってた方が-」
「んな事訊いてませんっ!」
瞬間、ハルの''絵談,,にイライラしたユナがその語りを一蹴した。
「先輩はこれから何をするか覚えてますか?」
「と、盗賊団の拘束•••」
「そーです。それが何でのんきに絵なんか描いて寝不足なんです!隊長さんの話聞いてました?作戦予定は二日!その間ろくに休めませんよー今の内に寝とけーって!えぇ!?」
ユナはハルの胸ぐらを引っ掴み、鬼の形相で怒号を放つ。
ふと思ったのが、確かシンゼリアに鬼の眼とか言う呼称があったな、とか•••。
「ま、まあまあ。たかが盗賊団じゃんか?そこまで真剣に向き合う事ないって。ね?」
とにかく、ユナを宥めて歩を進める。が、その後ろでユナが一転した様子で呟いた。
「••••••最近の先輩•••何か余裕ですね」
「え?」
「ユアースに行ってからですかね•••やけに落ち着いてるってゆーか•••」
「別にそんな事ないよ」
ユナの指摘を受け、ハルは振り向いて否定した。
「そうですか?私には変化が一目瞭然ですけど•••」
「変化?どんな?」
ユナがじとっとハルを見てから視線を外す。そんな言葉をハルは繰り返して問うた。
「どんなって•••先輩の''層念器,,一つ増えたじゃないですか。持ってる側としてはメンタル的にも体力的にも色々大変なんですよ?」
その問いに口を尖らせてユナが言うが、何故かハルの表情が明るくなった。
「''アヴェリー・シーン,,•••銃槍の層念器は僕も初めて見たからね。彼女と知り合えただけでもユアースに行ったかいがあったよ」
そう言ってハルは笑顔で前を向く。思い出してさらに機嫌が良くなった様だが、ユナの顔に怒りが宿った。
「••••••この女ったらし•••!」
二人は草原を行き、前方に見えていた廃屋に入った。
廃屋には既に数人の討伐隊のメンバーが集まっていて、ハルの顔見知りも何人か居た。
「来たなハル」
その中の一人が近付いて来て言った。
「久しぶり、カルト」
それにハルが歩み寄って応じ、手を差し出す。
「今日はわざわざ悪いな。どうしても人手が足りなくて•••」
「大丈夫だよ。自由にやらせてもらってる僕は少しでも貢献しないとだし」
カルトという男性とハルが握手を交わし、いくらか会話をする。少し経ち、その後ろで初めての空気に縮こまっているユナをカルトがチラリと見ると、ハルに尋ねた。
「彼女は誰だ?お前が連れなんて珍しいが•••」
「ああ•••彼女は写真家のユナ・レイン・アークウェイ。僕の助手をしてもらってる」
ハルはユナを招き、手で指して紹介する。そして、ユナにも自己紹介を促した。
「は、はじめまして。ユナ・レイン・アークウェイです。先輩とは春頃から一緒に旅をしていて•••こういったお仕事は初めてなので足手まといにならないよう努力します!」
言って深々と頭を下げ、その状態で固まるユナ。かなり緊張している様だが、刹那。
「ハハハ!何かと思えばアーティスト仲間か。まあそこまで緊張しなくていい。そこの世界的芸術家が護ってくれるよ!」
カルトが笑いながらユナの肩を優しく叩き、ハルにウインクをして奥へ戻った。
「ちなみにハル、お前達で最後だ。改めて作戦説明があるからこっち来な」
作戦の手順はこうだ。
まず、盗賊団のアジトである荒野の古城付近に三チームに別れて潜伏。夜更けを待って襲撃を掛け、生きたまま拘束する。以上だ。
至って簡単な説明だが、盗賊団は総勢五十人。四十五人の実行役と、四人の幹部、リーダーといった構成で、言う程単純じゃない。
実行役は数こそ多いが、おそらく早々に制圧出来る。
しかし、リーダーと幹部の五人はそうもいかない。
リーダーの名はゲリアス・タートル。幼少期から様々な犯罪組織を練り歩く根っからの悪党だ。
ゲリアスは俊足で長刀を扱う剣士。そのスピードはソーディアースの優秀なナイトでも手を焼くレベルの強者で、現にナイトを相手に六度も逃げ切っている。
続いて幹部の一人、ツベル・ポートス。遠距離武具ならなんでもこなす厄介な敵だ。彼も何度もナイトの追跡を振り払っている。
次に双子のキャーロン、ナタリアのレヴィッツ姉妹。幹部の中でも特に好戦的な二人で、ゲリアスに匹敵するスピーディーな戦闘法の短剣使いだ。
二人は小国のスラム出身で、こちらは自国の軍隊に四回の逮捕を受けている。
最後は氏名、出生、経歴不詳の謎の男。全身を黒いマントで覆っていて、はっきりと姿を捉えた報告は無い。
通称「バベック」。ソーディアースの古い言葉で、「不明」という意味だ。
バベックは基本的に戦闘に参加せず、すぐに姿をくらますという。
「••••••つまり、最優先で捕らえる必要があるという事ですねんね!」
「••••••」
最後に特徴的な口癖を炸裂させ、隊長、注釈性別不詳が説明を締めた。
「ではでは、時間もない事ですし早速出発いたしましょうかんね」
二台のバギーが草原を抜け、荒野に突入する。
ユナはハルの陰に隠れて、息苦しい風を避けて座っていた。
「何でこのバギーオープンカーみたくなってんですか。先輩、風が鬱陶しいです」
「それを僕に言われてもね•••てゆーか僕の事風避けにしてるけどそれ以上何を求めてるの?」
「外装です」
「••••••」
ブツくさと文句を言いつつも、人の手がほとんど加えられていない風景に写真家の心がくすぐられたのか、ユナは愛用のカメラをずっと覗き込んでいた。
「おいおいハル。お前ずいぶん助手さんと仲良いんだな。昔のお前からは想像も出来ないぜ?」
そんな二人を見て、カルトが不必要にも絡んで来た。
「そうでもないよ。見ての通り僕が助手みたいに使われてる始末だから」
対して、ハルはフルパワーで冷めた感じを込めて否定する。
「ですね。先輩の事は確かに同じアーティスト''としては,,尊敬していますが•••それ以外では強引に私を連れ回してる迷惑な方です」
それに「としては」を強調してユナも続く。
が•••。
「ちょっとユナ?今のは聞き捨てならないな。君が『付いて行かせてください』って言って来たんだろ?僕に責任を押し付けないでよ」
ハルがムッとして言い返す。
「誰がそんな事言いました?先輩が『君がいないとダメだ』って言ったんですよ?何を妄言かましてるんですか?」
しかし、ユナも負けずと睨み返した。
刹那。
「いつ僕がそんな事を!?僕は君が来る必要は無いって君の主張を断っただろ!」
「いいえ!絶••••••対に先輩が私を無理矢理旅に引き込んだんです!先輩こそ私に責任を押し付けないでくれます!?」
二人の喧嘩が始まった。
「じゃあね!君との出逢いを一から繙こうか?まず君が僕の露店で売ってた絵に•••」
「何でそっから始めんですか!?私がやった方が手っ取り早いです。色々あって先輩が私を断る事が出来ない状態に陥れた。以上です!」
「全然繙けてないよ!第一僕がどんな状態に陥れたってゆうんだ?詳しく明瞭に教えてくれるかな!?」
と、延々に口論が続くのだが、カルトの印象と感想は苦笑いして以下の通りだった。
「仲良いなーお前ら」
「「良くない!」」
声まで揃えてどこが•••。
その時。
「どーでもいいがお三方。そろそろ敵のアジトだ。静かに頼めるか?」
バギーの助手席に座っている傭兵の男が言った。
討伐隊の人数は十二人。それぞれ四人ずつのチームに別れ、アジト周囲の岩陰に潜む。そのまま日没を待ち、夜襲を掛ける。タイミングは隊長のチームが動いた時。それ以降は各自の判断で盗賊団を制圧、拘束する。
ハルとユナは、カルトと先程の傭兵と同じチームに分けられ、北側のポイントに潜伏していた。
日が沈むまで大体あと一時間程度。ハル達は衛兵に監視を任せ、細かい動きを考えていた。
「••••••じゃあそこは俺が引き受ける。ハルは退路の確保を頼んだ」
「了解。でも、もし幹部やリーダーが参戦して来たら僕も加勢するよ」
「そうだな•••ところでなんだが•••」
カルトは地面に描いた簡略図から目を離し、ガチガチに緊張しているユナを見た。
「助手さんは闘えるのか?見た感じまるっきり素人の様だが•••?」
さらに、監視をしていた傭兵もユナに対する不安を口にする。
「武器も何も持たず•••層念もあまり感じられない。ほとんど一般人にしか見えないな」
「••••••確かにね」
しかし、二人の疑問を受けたハルは、フッと微笑んだ。
「確かにユナは一般人だよ。戦闘だって経験無いし•••そもそも普通の写真家なんだからね」
「?•••なら何故連れて来たんだ?」
ハルの言葉にカルトと傭兵の眉間にシワが寄る。二人には、ハルの言動に不可解さと謎を感じざるを得なかった。
「んー•••まあそれは追々説明するよ。てゆか始まったら判る筈さ」
結局、ハルはユナを同行させた理由をそれからも決して話さず、ついに日が落ちた。
「••••••合図だ。行くぞ」
そして、双眼鏡で隊長のチームが発進したのを確認した傭兵が告げた。
「よし•••」
瞬間、カルトと傭兵が飛び出し、アジトに向けて疾走した。
「僕らも行くよ」
続けてハルもユナと共に夜の荒野を駆ける。
「!」
二人がアジトの古城に突入すると、既に戦いが始まっており、盗賊団のメンバーが何人か倒れていた。
「ユナは僕から離れないで」
「はい」
すぐさまハルも戦いの最中に突っ込む。ユナはその後ろにくっついて走った。
「ハ!」
「!」
瞬間、ハルが盗賊の男に拳を放つ。不意を衝かれた男は顔面におもいっきりくらい、白目を剥いて崩れ落ちた。
「!」
さらに、ハルに気付いて剣を翳して来た敵を再び一撃でノックアウトする。倒れた敵の剣を手早く奪い、次の攻撃を弾き飛ばして腹部に強烈な蹴りを叩き込む。吹き飛んだ敵が他の敵と激突し、そのまま壁に激突した。
「ふぅ•••」
数が減り、徐々に勢いの無くなった盗賊団はガムシャラに攻撃するのをヤメ、討伐隊と距離を置いた。
だが、その瞬間だった。
「キャハハハ!なんだか楽しそうな事やってるじゃない!」
城の二階から二人の女が現れ、狂喜の眼で戦場を見詰めた。
「ナタリアァア•••ちょっと私達もパーティーに参加しないぃい?」
「そうね•••でもキャーロン、私達と踊ってくれる方はいるかしら?」
「確かにぃ•••まだシャワーも浴びてないしちょっと心配ねぇ」
「じゃあまずはシャワーを浴びましょっか•••」
刹那。
「!?」
二人が討伐隊の一人の前に一瞬で移動し、腹を短剣で抉った。
「キャハハハ!やっぱこれねぇえ!」
二人は返り血を浴び、狂った笑い声を上げた。
「じゃあ次こそ誰か私達と-」
しかし•••。
「ブルメガン!」
「!」
傭兵がキャーロンの腹に吹き飛んで壁にめり込む程の猛烈な突進をぶち込んだ。
「キャーロン!?」
瞬間、ナタリアが叫び声を上げ、直後に傭兵に突っ込む。
「よくもキャーロンを!殺す!」
「させませんねんね」
「!」
だが、その進路に隊長が笑顔で割り込み、流す様にナタリアを斬った。
「フム•••」
隊長は周りを見回し、一度頷く。
「下っ端は全員終わり•••あの姉妹も討ったので残りは幹部二人とゲリアスだけですんね」
その頃、ハルとユナ、カルトは城の階段を駆け上がっていた。
「下はそろそろ終わりだな!」
長い階段を走る中、カルトがニヤリと言う。
「そうだね。レヴィッツ姉妹は大した敵じゃないからね•••それより•••!」
「ああ」
刹那。
階段の上から矢の雨が降り注ぎ、三人を襲う。
「反護!」
が、カルトの念法がそれを全て弾いた。
「ツベル・ポートス•••!」
「行かせん•••!」
瞬間、ハル、カルトとツベルが睨み合い、直後、カルトが飛び出した。
「俺が相手をする!お前達は行け!」
「頼んだ!」
「行かせんと•••」
しかし、ツベルはハルに銃を向ける。
「言っているだろう!!」
怒号と共に銃弾が放たれ、ハルに迫る。が•••。
「俺だっつってんだろが!」
「!」
再びカルトの念法が銃弾を掻き消した。
「クソ•••ッ!」
ハルとユナがツベルを抜き、さらに上へ走る。その道を、カルトが塞いだ。
「立場逆転•••行かせねーぜ?」
「先輩!カルトさん一人で大丈夫なんですか?」
ハルの跡追うユナが不安げに尋ねる。が、ハルは思いの外明るく応えた。
「カルトは僕と同じくらい強いよ。問題ないさ」
そして、二人は階段を走り終え、目の前の扉を飛び開けた。
「••••••居たね」
「••••••来たか」
瞬間、ハルが奥の椅子に座るゲリアスと、その横に立つバベックと対峙した。
「どうやらツベルはしくじった様です。退きますか?」
バベックはハル達には目もくれず、ゲリアスに問う。
「いいや。この盗賊団はもう用済みだった•••だが最後に一番のお宝だ。土産にちょうどいい」
しかし、ゲリアスは冷笑して立ち上がり、傍らの長刀を掴んだ。
「土産?」
「ああ•••」
刹那。
「ナイトの''ホルダー,,だ。一体いくらで売れたものか」
長刀を翳し、部屋中に強風を巻き起こした。
「••••••先輩、あれって層念器じゃ•••?」
その様子を見て、ユナがハルに問うた。
「その通り。彼の長刀は彼自身の層念器•••ゲリアスは''念晶,,を心得てるよ」
「••••••じゃあ先輩も使うんですよね」
「••••••うん」
二人は会話を切り、互いに視線を交差させる。
刹那。
「ユナ・レイン・アークウェイ!」
ハルが右手をユナに翳し、ユナを呼ぶ。
「ハル・グラン・ツバキ!アナタはこの身を刃に!」
さらに、ユナもハルを呼び、翳された手を握った。
「!」
瞬間、ユナの身体が白銀のオーラに纏われ、光となって消えて行く。
そして•••。
「!!!」
ユナの身体が完全に消え、代わりに蒼い刀がハルの右手に握られていた。
「••••••それが貴様の層念器か」
「••••••」
一瞬、二人の呼吸が止まる。間合いを見極め、互いを伺う。
「••••••フン」
「!」
瞬間、ゲリアスが一度の踏み込みで己の間合いにハルを捉えた。
「俺のスピードに付いて来れるか?」
キンッ!
直後、ゲリアスの長刀がハルの額に伸び、それをハルの刀が防ぐ。が、続け様に長刀がハルを襲う。
「どうした?受けるばかりでは勝てんぞ!」
そう言ってさらに剣速を速める。しかし•••。
(!•••全て受けきって•••?)
ハルは表情一つ変えず、落ち着いて全て防いだ。
「ッ!ならば!」
「!」
ゲリアスは一度攻撃をヤメ、数歩後退する。
「俺の最速だ!」
刹那。
ガキンッ!!
「な!?」
ゲリアスが動く直前、ハルが目にも留まらぬ速業でゲリアスの長刀を抑え、動きを封じた。
「ごめん•••あまりにものんびりやるから飽きちゃって」
混乱するゲリアスを全く見ず、ハルが静かに呟く。
「なんだと•••!?俺が•••のんびりだと!?」
「うん•••こんなのでよくナイトを六回も巻いたよね。もしかして訓練生のナイトだったのかな?」
「ッ!貴様ァアア!」
刹那。
「!?」
怒号を上げ、ガムシャラに剣を弾き、ハルに振り回す。
「何故だ!何故当たらない!?」
「当然だよ•••だって•••」
「!」
瞬間、ハルがスッとゲリアスの背後に回り、喉元に刀を突き付けた。
「僕と力の差が•••大きすぎるからさ」
そう言ってハルは拳でゲリアスの胸を強打し、意識を奪った。
「••••••」
そして、間髪入れずにバベックを睨んだ。
「あーあ。だから退きましょうと言ったのに」
すると、不愉快な程ヘラヘラした声でバベックが笑う。
「ゲリアス、アナタ程度でハル・グラン・ツバキに勝とうなぞ•••寝言にも程がありますでしょうに」
バベックはやれやれと首を振り、見えない顔でハルに見向いた。
「さて•••私はここらで逃げさせていたただきましょう。私もアナタに勝つ事は出来ませんし•••」
そう言いつつも、バベックはフラフラとハルに近付き、目の前で立ち止まった。
「••••••君は一体何者だ?ただの人間じゃないね」
「さあ•••私はただの小悪党。しかも役立たずのね」
「••••••君とは多分•••また会う事になるだろうね。その時は必ず正体を暴くよ」
「フフフ•••それは•••」
言い切る前、バベックの姿が煙の様に消え、声が最後に響いた。
〈楽しみですね•••〉
その時。
「ハル!」
「!」
部屋の扉からカルトや討伐隊のメンバーが飛び込んで来て、真っ先に隊長とカルトがハルに駆け寄った。
「さすがハルだ。ゲリアスを無傷でやったか!」
「これで残るはバベックだけ•••ですが見当たりませんねんね」
「ハル、バベックはどうした?」
「••••••」
カルトの問いに、ハルは一瞬目を落とし、背を向けて言った。
「ごめん。逃がしちゃったよ」
「!•••そうか•••やはり真っ先に逃げやがったか•••!」
ハルの返事にカルトや隊長を含め、討伐隊のメンバーが落胆の声を漏らした。
「••••••そうだ。そういえば助手さんはどこだ?一緒に上に行かなかったか?」
少し経ち、思い出した様にカルトがハルを見る。
「あぁ•••ユナはここだよ」
それにハルは笑顔で答え、手に持っていた刀を宙に投げた。
刹那。
「よ•••っと」
「!」
刀が光に包まれ、強く輝くと共にユナの身体に変化した。
「ユナは僕のホルダーだからね」
ハルはユナを受け止め、何でもない様に笑う。が•••。
「ハルがホルダーだとぉおお!?」
カルトが驚きのあまり大声で絶叫した。
第一話 完
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