やる時はやります!ー3hours before the battleー
恋愛要素はほとんどないですが
「やる時はやります!ー陛下に三行半ー」の3時間前のお話。
このお話だけでも読めますが、前作読んでから読んでいただくことをオススメします。
その日は酷く晴れた日だった。
竜達が飛翔したくて堪らなくなるような青い空だった。
僕の名前はカルマ=ライチェル。
先日18歳になりました!
職業はアシュラム国で竜騎士をしています。
竜騎士とは竜をパートナーとして、アシュラム国を守るために編成された騎士達のことをいいます。
国の中でも花形職になります。
竜は知能が非常に高く、パートナーも自ら選び、パートナーに選ばれた者が初めて竜騎士の資格を得ることが出来るため、誰でも竜騎士になれるという訳ではないのです。
僕もたまたま森で休んでいた竜に気に入られて、憧れでしかなかった竜騎士になることができたのです。
だけど竜に気に入られても簡単には竜騎士にはなれなくて、見習い、修行から入って漸く一年前から竜騎士として認められました。
ハッキリ言って修行期間は地獄でした。
もう思い出したくない。
まぁ竜騎士になってからも下っ端には変わりないから色々大変なのですが。
と、と、
僕の話はこれくらいにして…。
僕は今、竜に乗るための鞍を付ける作業をしています。
朝から色々な所で怒号が飛んでいて恐ろしいです。
「カルマ!いつまでその竜に鞍を付けているんだ!まだ鞍の付いていない竜がどれだけいると思っているんだ!!」
竜騎士のバウディがカルマに怒号を飛ばす。
「す、すみません!すぐにやります!!」
バウディは筋肉隆々で、竜に騎乗するととても頼り甲斐がある先輩なのだが、血の気が多すぎてやや短気な所があるのが玉に瑕だとカルマは常々思っていた。
だって、自分の竜じゃないからなかなか鞍を付けさせてもらえないんだい。
言葉にはできないが、心の中で愚痴る。
本来だったら竜騎士は自分たちの竜の鞍を付けるのだが、今回は急遽出立が決まった為、バタバタとしており人が足りなく下っ端のカルマが皆の鞍を付ける事になってしまったのだ。
四苦八苦しながらも竜に鞍を付けていき、残りは一竜になった。
「うわぁ、マーヴェラス様の竜かぁ」
思わず声にでてしまった。
竜騎士隊長であるマーヴェラスのパートナーである竜は真っ黒な竜。
とても稀有な黒竜は気高く、パートナー以外の者に触れられることすら厭うのは有名な話であった。
ど、どうしよう。
鞍を握りしめたままにじり寄っていく。
近くまで行くとその気配に気付いたのか黒竜は片目を開けた。
ひえぇ!
「マーヴェラス様の命で鞍を…」
『我に触れるな』
黒竜がただその一言を発しただけで空気が変わる。
周りにいた竜たちにも緊張感が高まる。
先輩竜騎士たちも見て見ぬ振りをしている。
皆、黒竜を怒らせたくないのだ。
「リヴァイ、リシャラ様を迎えに行くんだ」
不意に後ろから聞こえてきた声はマーヴェラスのものだった。
リヴァイと呼ばれた黒竜はマーヴェラスの声に反応する。
『姫か?』
「そう、だから彼に鞍を付けてもらってくれ。すぐ出立する」
そういうと黒竜は鞍を付けやすいように身体を傾けた。
流石マーヴェラス様!
「それではなく、二人乗れるやつを頼む。それが終わったら直ぐに出るよ」
カルマの肩を叩きながらマーヴェラスは陣の方に戻っていった。
二人乗れる鞍?
カルマの頭にはクエスチョンマークが飛んだ。
『何をしている。早くそれをつけろ』
黒竜の声で我に返り、慌てて鞍を付けた。
「全て準備が整いました!」
カルマが戻ると他の竜騎士たちは全員揃っていた。
今回は竜騎士の約半分がでることになっている。
他国との戦でもここまでの大人数になることが無い為緊張感が半端ない。
「カルマ、お疲れ様」
声を掛けてきたのはサーフェだった。
サーフェは金髪碧眼の甘い顔立ちをしており、男女問わず人気が高い先輩だ。
「ギリギリだったな」
そう言うのはバウディ。
この二人は見た目も性格も真反対ようで仲が良いらしく、一緒にいることが多い。
「すみません」
「竜たちは気難しいからね、仕方ないよ。お疲れ様」
サーフェは優しい言葉で労ってくれる。
「それにしても今日は凄いですね。戦でもないのに竜騎士がこんなに出るなんて…。」
竜騎士たちの顔ぶれを見まわしてしまう。
「今回の任務はダリオン国に嫁いだリシャラ様のお迎えですよね?こんなに人数が入りますかね?」
今回の任務はダリオン国に嫁いだリシャラが王と離縁してアシュラム国に戻ってくることになったのでそのお迎えだという話だ。
リシャラがダリオン国に嫁いだのは一年半位前の話で、カルマが竜騎士になったのは半年前ということもあり、リシャラについて詳しく知らなかった。
噂では絶世の美女とも言える美貌の持ち主という話を聞いていたが、姿絵など出回ることもなかった為、噂の域をでなかった。
しかしダリオン王と離縁するくらいなのだから余程我儘なお姫様なのではないかと勝手に想像していた。
「多くの者は自ら志願しているんだよ。全員で行く訳にはいかないからこれでも少なくした方なんだけどね」
「え?僕は希望とか出していないんですが…」
他の先輩たちを差し置いて任務に就くというのは気が引けてしまう。
「お前は勉強の為に強制参加だ」
バウディはニヤリと笑う。
「強制参加…」
初耳だ。
「でも、マーヴェラス様まで行く必要があるのですか?」
この任務は隊長が指揮をとるほど大きいものなのだろうか。
とてもそうは思えないカルマは思わず疑問を口にしてしまう。
「今回の任務は、リシュエル殿下とユリエル様もダリオンに行くから護衛もあるからね」
「あぁ!だからマーヴェラス様は二人乗りの鞍をご所望されたのですね」
サーフェとバウディは顔を見合わせる。
そして二人はなんとも言えない笑みを浮かべた。
「いや、お二人は別の者がお連れすることになっている。隊長は…」
そこで言葉を止めるサーフェ。
「隊長にも色々事情があるんだよ」
続けるバウディ。
「事情?」
まだ意味が分からない。
「いずれ分かるから今は黙って任務に専念しろ!」
そう言われてしまい話はそこで打ち切りになってしまった。
その後、竜でも四時間はかかるダリオン国まで三時間のハイスピードで向かいそのスピードについていくのに必死だったり、リシャラの想像以上の美貌に驚いたり、マーヴェラスがリシャラにベッタリで黒竜に一緒に乗せたりでサーフェとバウディの意味深な会話の理由が漸く分かったのだった。
マーヴェラス様…女性に興味がないと思っていました。
ごめんなさい。
そしてカルマはダリオン王を聖堂から連れ出す時に、ダリオン王の一瞬の動きについていくことができずリシャラを危険に晒してしまったことで、何か罰があるのかと戦々恐々しているのであった。
結果としてカルマは罰を受けなかったがこれ以降三ヶ月間訓練が異常な厳しさになったのは別の話ーーー。