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2.


 「ねぇ、もうすぐ降りなきゃだめだよ。」

「ふぁ・・・。」

「やっと起きた!」

ミホは微笑みながら私のほうを見た。

「次で降りなきゃ遅刻だから、急いでね」

天使のような彼女の後ろにはよく見慣れた車内が見えた。毎日私は彼女と一緒に学校に通っていたことを一瞬忘れていた。

 そして、自分がいつのまにか持っていた英単語帳をしまって、私は彼女とともに下車した。



 ミホと私はたわいもない話をしながら学校に向かった。担任のこと、クラスのこと、昨日の授業のこと、いろいろな話をした。私たちは女子校だし特に好きな先生もいなかったから好きな人については話さなかったけれど、女の子にしか出来ない五月蝿さを持ち話しに盛り上がっていた。

 学校につくと誰も傍に来ないし、来るとしたっていつも「宿題みせて」と言われ、宿題をコピーされるだけの私に、いつも話しかけ傍にいてくれるミホのことを私は好きなのかもしれない。 彼女は私の学力なんてどうでもいいかのように明るく接してくれるし寂しさなど感じさせないくらいに楽しい時間を作ってくれるからクラスでも人気のあるほうだった。

 でもそんな子がいなくても部活の同輩が私のクラスに放課後は来てくれるから結局ミホのことををどう思っているかなんて分からなかった。



 その日は朝から幾何の授業だった。眠気を抑えつつ、コンパスと定規を取り出す。

 ふと目線を戻せば、小さな蜘蛛がノートの上に乗っている。名前も知らない足の細い彼。真っ白で腹部がやけに丸いのがちょっとだけ可愛かった。

 それを見て私はミホの事を思い出す。ずーっと笑っていて怒った事がない彼女と自宅で暢気に巣を増やして嘲笑している蜘蛛が重なってしまったのだ。

 もしかしたらミホは私のことを嫌いなのかもしれないとか、実は陰口を言っているかもしれないとか不安が脳内を駆け巡る。その瞬間、何かが脳内に入り込んだかのような恐怖と寒気が私を襲う。何かが入ってきたかのように目の前に光が見え、いつのまにかノートが閉じていた。

 遅れをとってはいけないと、ノートを開いた私の目に入ってきたのは潰れた何かだった。

 ――これは・・・何?

 もがき苦しむそれをずっと観察し続けた。時間を忘れてしまったように、見入った。苦しそうに歩くそれを逃げないように定規ではじき元の位置に戻す。普段なら嗚咽を感じてしまう事さえ今は暇つぶしになった。



 いつの間にか授業は終わっていたため、号令を適当に終わらせ私は蜘蛛との遊戯に戻る事にした。

「ねぇ・・・なにしてるの・・・・・っ! うわっ。」

話しかけてきたのはミホだった。

「邪魔しないでよ。」

「ゴミで何してるの?」

「ミホには関係ないでしょ。気にしないで」

「気にするよ。だってさっきからにやけてるじゃない」

にやけている・・・? 私が?

「気持ち悪いよ。何でそんな事してるの?」

 私は怖くなってトイレに駆けて行った。後ろからミホの声が聞こえたけれど今は無視するしかなかった。

 走りながら自分はそんな子じゃないと一生懸命自己暗示する。ミホの目がおかしくなったんだ。私はそんなこじゃ・・・そんな子じゃないッ。・・絶対に違うんだ・・・。

 のめりこむようにして鏡をよく見る。そうでないことをひたすら祈り自分の口元に目線をおいた。

 ・・・私は・・・口元がずっと緩んでいた。何をしてもそれは元に戻ってくれない。いつのまにか横にミホがいた。追いかけていたらしい。

「助けて。助けてミホ!」

私の声はうわずっていた。鼻がつんとして、心がずきずきとする。

「大丈夫。落ち着いて。私、ずっとそばにいるから・・・ね?」

「うん。でも・・・どうしたら良いの?」

「・・・・・・マスク。」

「え?」

「マスクをすれば良いんじゃない? 明日から・・・ね」

 すごく嬉しくてミホの顔がぼやけて見える。いつの間にか涙が溢れ出ていたらしかった。涙を拭いてミホの顔を見ると、目が爛爛と光ったまるで単眼のような目がそこにはあった。


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