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俺、仲間を見つける

「じゃあこれから戦闘の基本を教えるね~」


 トレーニングルームへと場所を移した俺のアバターはキルニャさんにマンツーマンでチュートリアルしてもらっていた(意味深)。


「まずはキーボードの『Z』を押すと通常攻撃。長剣だと切り裂く感じだよ。やってみて~」


 俺はトレーニングルームに入ったらいつの間に装備されていた練習用長剣を言われた通りにボタンを押してみる。

 すると俺は長剣が斜め方向に鋭く振り落した。こりゃ、斬られたら痛いだろうなー。


「そうそう、そんな感じ。上手だね~」


 あはは、褒められちゃったよ~。やっぱり俺もゲームの才能あるのかな~。


「じゃあ次は特殊攻撃だね。特殊攻撃は武器特有の範囲攻撃だよ~。長剣の場合は大回転斬り、その場で長剣を回転させながら切り裂いて周りの怪物をザックザクだよ~」


 こんな残酷な言葉でもキルニャさんが言うととても軽い言葉に聞こえてくるな。それもある意味特殊能力の一つだな。


「でもいつまでも使えるわけじゃなくてインターバルが必要だから計画的に使わないと大変なことになるんだよ」


 なるほど。連続して使えたらみんなそれしか使わないからな。つまり頭を使いながら戦わないとダメってことか。頭脳派であり戦闘派であるものが戦闘を制す、ワクワクしてきたぜ!


「さぁ、キーボードの『X』を押してみて~」


 言われた通りに押してみると、俺は膝を曲げて低く構えて右足を軸に鮮やかな回転切りをした。

 ふぅ~、かっこいい~。


「わぁ、すごい! とてもかっこいいよ~」


 ですよねー、俺もそう思ってたところです。


「基本的な戦闘はこの二つで心配ないよ。じゃあ次はスキルのお話。そして武器ごとにそれぞれスキルというものがあるの~」


 へぇ、そんなものがあるのか。何か楽しそうだな。


「スキルは一定のレベルに達すると使えるの。だからレベルが高いほどより多くのスキルを使えるのよ。そしてスキル自体もレベルアップ出来るの。すごいでしょ~」


 それはまた面白い要素があるものだ。理穂がハマるのも無理はないな。


「最初の段階では一つしか使えないから我慢してね~。すぐにたくさん使えるようになるから~」


 うん、我慢する。キルニャさんが言うんだったらいつまでも我慢する!


「確か長剣の最初のスキルは『ダウンスティック』だね~。ちょっとやってみるよ~」


 キルニャさんがそう言うと同時に訓練用の人形が上から落ちてきた。そしてその人形に向かって彼女は長剣を構えた。


 その時、何か彼女の周りの空気が変わっていた。


 そんな異変を気にしている間に彼女は長剣を振り上げた。そして刃先を下に向けて人形に向かって勢いよく振り落した。もちろん人形は一刺しを喰らって消えてしまった。

 なんか、すごい幻想的でかっこいいな!


「えへへ、これがダウンスティックだよ~。序盤ではなかなか使えるんだよ~」


 確かに迫力からして大ダメージを与えられそうだ。これは必殺技として考えた方がいいのかな。


「でもこれは連続で使えるわけじゃないの。私たちの体内にある『ミディ』っていう力を消費して使うからそれが尽きたら使えなくなるの~。まぁその時は回復するまで待てばいいいのだけれども~」


 なるほど。ご利用は計画的にってわけだな。ただ熱中してしまうと見境なく乱用してしまいそうだな。


「よし、これで戦闘の基本は終わりだよ~。これで君も一人前の兵士だよ!」


 やった! もう一人前だ! よし、今こそプロポーズの時だ! キルニャさん、結婚を前提に付き合ってください!


「じゃあまたいつか会いましょ~ね~」


 なんだこの答えは!? イエスでもなくノーでもないだと! つまりフラれたのかー!


「・・・・・・え、キルニャさんってユーザーじゃないの!?」

「ふぁぁぁあ」

 

 太陽がひどく照っている朝、俺はいつもより大きいアクビをしながら学校へとダラダラと歩いていた。


 昨日はキルニャさんがNPCとかいう存在で人間じゃない事に気づいてしばらく落ち込んだあとに四時間ほどぶっ続けでプレイしてしまった。ずっとアイテムの使い方に関するチュートリアルクエストばかりだったからさっさと片付けてしまった。


「ふぁぁぁあ」


 何回アクビしても眠気がとれないな。これは一時間目の数学は居眠り不可避ですな。居眠りなんて全然したことないけどな。


「アクビばっかしてんじゃねぇよ!」


 パァン! 


 後ろから頭を叩かれた。朝からわざわざ叩いてくるやつは一人くらいしか見当たらない。


「砂川は相変わらず朝から元気だな」


 砂川、というサッカー部で髪を茶色とかに染めちゃってるお調子者な男が横に並んできた。まぁ悪いやつじゃないんだが、一つ面倒な部分がある。


「それより早く理穂ちゃん俺に紹介しろよ!」


 やたらと妹を欲しがるのだ。

 兄としてはこれほどの嫌がらせはないと思っている。まぁ嫌がらせとかじゃなくて本当に惚れてるらしいが。


「それでなんでいつもよりアクビが多いんだー?」

「ちょっとゲームを、な」

「沼倉がゲームとは珍しいな。あれだけゲーム音痴の沼倉がゲームとは珍しいな。あれだけゲームが下手くそすぎてマリオの1-1で詰んだ沼倉がゲームとは珍しいな」

「繰り返すんじゃない!」

 

 なんとか時間をかけてクリスタルエイジのチュートリアルを終えた俺だが、元々は天性のゲーム音痴である。実力は砂川が話したとおりである。

 

 昨日の俺の説明だとスムーズに戦闘を覚えたように見えるが、実は「Zってキーボードのどこだよ」とか言いながら悪戦苦闘していたわけである。

 

 第一に俺は物覚えが悪く、ボタン配置が覚えられない。そのため思い通りの動きが出来ない。そのためゲームがうまく出来ない。


「ゲームを克服してやろうって魂胆かな?」

「まぁ、そういうところだ」


 一から説明すると面倒だから適当に答えておいた。

 そうこう騒いでいる間にもう俺たちの学校の校門についてしまった。砂川のおかげで眠気は吹っ飛んだような気もするし、ちょっくら授業受けてきますわ。


「・・・・・・ちょー痛いんだが」


 一時間目が終わった直後の休み時間、教室の窓際の席で俺は頭を抑えながら文句を垂れていた。なぜそんな文句を垂れているかというと。


「まぁ、牧野の居眠りの裁きは恒例行事だからな」


 一時間目の数学で爆睡してた俺は数学教師の牧野に拳で頭をグリグリとされたのであった。未だに痛みが残っている。


 砂川はそれを見てずっとケラケラと大笑いしていたのでやはりお調子者である。


「あ、沼倉くん。今回のグリグリはどうだった?」


 急に現れたショートカットのこれまたお調子者の女子、立川彩子が俺の席に近づいてきてからかってきた。この子は砂川の昔からの幼馴染らしく、砂川と一緒にいた俺とも自然と仲良くなったというパターンだ。


「どうって言われてもいつも受けてるわけじゃないから」


 あ、ちなみに俺は学校ではクールキャラなので、キルニャさんにプロポーズ(?)した時みたいなテンションには一切ならないのでご注意を。


「そっかー。まぁ被害者率ナンバーワンの砂っちとナンバーツーの私じゃな

いとグリグリは語れないかなー」 


 一応補足として説明しておくが砂っちとは砂川の愛称だ。そして基本居眠りをしているのは砂川か立川なので、グリグリに関してはこいつらの方がよくわかっているだろう。


「それで何で真面目系男子の沼倉くんが居眠りなんてしちゃったのかな?」

「いや、ちょっとゲームをやりすぎてね・・・・・・」

「へぇー、沼倉くんがゲームとは珍しいねー。ぷよぷよで私に二十連敗した沼倉くんがゲームとは珍しいねー」

「だから繰り返さないで!」


 俺はなにかといじられキャラに回ってしまう傾向がある。本望でもなんでもない。


「どんなゲームしてるの? エロいやつー?」


 立川がすごいニコニコしながら聞いてくる。こいつは本当に人をからかうのが好きらしい。


「違う違う。ただのオンラインゲーム? とかいうやつだ」


 自分でもうまく説明できる自信がなかった。知ったかぶりで話すとあとで痛い目に遭うからな。


「もしかして『クリスタルエイジ』とかいうやつ?」

「え?」


 立川の口からなぜかそんな横文字が出てきた。俺は思わず素で驚いてしまった。


「違う、か」

「いや、あってるよ。よくわかったな」

「うん、この頃私も始めたから~」

「・・・・・・なにっ」


 マジか。こんな身近にプレイヤーがいるとは思わなかった。世界は狭いものですな。


「へー、彩子もそういうゲームとかするんだー。初耳だぜー」

「友達に誘われてねー、最初はくだらないだろうなって思ってたけどこれが案外おもしろいのよ~。ゲームオタクもなかなかバカに出来ないものねっ」

「こんな身近に仲間がいるとはなぁ・・・・・・」


 やっぱり不動の人気を誇るオンラインゲームだけあって世間でもなかなかの知名度があるんだな。それにしてもゲーム始めてすぐにプレイヤーを見つけられるとは、この高揚感は何ともいえないなぁ。


「なんか流行ってるみたいだなー。でも俺はそういう系は無理なのでパスでぇーす」

「砂っちは馬鹿だから無理よ」

「テストの成績の最下位争いしてる彩子には言われたくねーし」


 馬鹿二人の愉快な会話がしばらく繰り広げられていたので、見てる側としてはとても楽しかった。


「最近始めたならサーバーは同じだよね。プレイヤー名教えてよ。もう今日あたり一緒にクエスト行っちゃおうよ」

「な、名前は『ケンタ』だけど」


 いきなり誘われたため俺はかなり戸惑いながら答えた。

 オンラインゲームに慣れていなかった俺は、ユーザーネームはどういうものが良いのか悪いのか全く見当がつかなかったので名前にしてしまった。やっぱりそういうのはダメなのか。


「なんかつまらない名前だねー。もっと捻りを入れないと生きていけないよ!」


 オンラインゲームのユーザーネームだけで人生について語られたのですが、それは。


「そういう彩子はどんなのだよ」

「私は『あやぴょん☆』」

「・・・・・・その名前の方がひどいと俺は思うぜー」


 口には出さないが俺も砂川に同意である。ぴょんはないだろ、ぴょんは。常識的に考えて「ぴょん」はない。


 キーンコーンカーンコーン


 何とも言えないタイミングで始業チャイムが鳴った。まぁこれで会話が途切れても何も問題はないか。


「じゃあ、今晩よろしく!」


 立川に何とも曖昧で忘れそうな約束を取り付けられた。約束するときは時間、集合場所をしっかり決めないとダメだろうが。あ、集合場所はパソコンの前か。


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