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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
最終章 生きること、それは人とのしがらみを解くこと。
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第七話 食事の招待

 秋も終わりに近づき、剣道の大会、試合も一区切りとなって生活が落ち着いてきた。日曜日はバイトだけど、今日は特別に朝から入って、夕方に終わらせてもらう。

 由紀乃が、先生のところで近所の親子とオレを夕食に招待してくれていた。渡された簡単な手書きの地図を見ながら、駅から歩く。


 由紀乃が先生のところへ通うようになってから早くも二か月以上がたっていた。あっという間に季節が変わっていく。夜は薄いジャケットが必要なくらい肌寒くなっていた。

 バイトが終わってそのまま由紀乃のところへ向かうから、光司が店特製のチョコレートケーキを持たせてくれた。子供がいるならと一つおまけで人数プラスワン。やっぱりこういう時、光司は気が利く。


 やっと見つけた。結構モダンな品のいい建物だ。呼び鈴を押すとすぐにエプロン姿の由紀乃が出迎えてくれた。

「いらっしゃい。すぐに分かった? あがってね。さっき、岡さんたちがきたとこなの」

 岡さんっていうのが病院関係の親子だと認識。

「そうか」


 すると奥からバタバタと歩幅が狭く、せわしない足音が聞こえてきた。ヒョイと由紀乃の背後を覗くと、六、七歳くらいの男の子が同時に顔をだした。鉢合わせというのはこういうことなのだろう。顔を見合わせ、オレは言葉がつまる。

「あ、隼人君」

 隼人は由紀乃の後ろに隠れたが、再び顔をだし、一言つぶやくように言う。

「お前、誰だ」

「お・・・・」

 なんで初対面の、しかもこんなガキになんでいきなり、お前呼ばわりされなきゃならないんだ。

 怒りがこみ上げてくるよりもあっけにとられていた。

「隼人君、お前なんて言っちゃだめよ」

と由紀乃が窘める。

 隼人はすぐにシュンとし、うなづいた。割と素直だ。

 由紀乃が意味ありげな目をむける。

「まあ、他にもお前って言う人、いるけどね」

 オレにまで火の粉がふりかかった。


「このお兄ちゃんはね、加藤竜介くんっていうのよ。お姉ちゃんのお友達。そしてこちらはお父さんと一緒に働いている看護師さんのお子さん、岡隼人君、小学校二年生、よろしくね」

 そう由紀乃が言うと、隼人はやけに張り切った声で「はい」と返事をした。

「あ、よろしく・・・・」

 気おくれしていたオレがもたもた挨拶している途中で、隼人はもうオレに背を向けて奥へ走っていた。

 くっそ~。オレの挨拶なんか無視かよ。聞く耳もたないってか。


 オレはやっと差し出されたスリッパに足をいれた。台所から先生も顔を出した。

「よう、竜介くん。久しぶり。よく来たね。ちょうどいいタイミングだよ。肉が焼きあがった」

 うん、すごくいい匂いだ。肉の焼けた匂い、他はちょっと焦がした醤油バターっぽい香ばしい香り。

 ウウ、やばい。腹がなりそう。


 広いリビングに大きなダイニングテーブルがあった。もうすでにいろいろな料理が並んでいた。

 ソファには、桐野先生と同じくらいの年齢の女性が座っていた。オレを見て立ち上がる。

 あ、見たことのある人、知明の病棟の看護師さんだ。向こうも当然、こっちがわかったらしい。にっこりと笑いかけてきた。

「知明くんの弟さんでしょ。岡玲子と申します。何度か病棟でお見かけしたわね」

「はい、加藤竜介です」

と剣道式礼をする。


 先生が台所から山盛りのステーキ肉を運んできた。ジュージューとまだ、音を立てていた。

「こういう場で会うなんて想像もしていなかったわ。入院していた知明くんの双子さんのガーフルレンドが、先生の娘さん、由紀乃ちゃんだったなんて」

 由紀乃が「はい、本当に」と答えていた。


「ガールフレンド? お姉ちゃんがこいつのガールフレンド?」

 隼人がショックを受けたように言った。

 すぐさま、母親に「こいつ」だなんて言わないのと窘められている。

 しかし、反省するどころか、隼人はオレをぎろっとにらみつけていた。敵視している様子。

 なんだ、なんだ。ガキのくせに、由紀乃を意識しているんじゃないだろうな。このオレと張り合おうっていうのか。

 オレも睨み返した。

 すると敵は、由紀乃の腕にまとわりつく。

「お姉ちゃん」

と甘えた。

 そうか、敵は子供だという立場を利用して接近作戦でいるらしい。ガキのくせにオレの前で、オレの由紀乃にまとわりつきやがった。十年早い。

 しかし、由紀乃はそんなガキのしたたかさに気づかずににっこりと笑顔を向けている。


「さあさ、席について。冷めないうちに食べよう」

 その先生の声に、オレはケーキを持っていたことに気づいた。

「あ、これ」

 箱を由紀乃に差し出す。

 こういう動作ってなんか、子供の使いみたいだな。

「光司くんがみなさんで食べてくださいって」

 皆がオレの持ってきた箱に注目していた。特に隼人。何となくその箱の正体をわかっている雰囲気。

「ありがとう。うれしい。見ていい?」

「もちろん」

 由紀乃が箱を開けると、つややかな二段式のチョコレートケーキが六つ入っていた。

「光司くんが、お子さんにおまけだって、一個余計に入れてくれた」

 わざと隼人を見て、そう言った。

 隼人が、そのお子さんというのが自分のことだとすぐに認識していた。わあと感嘆の声をあげた。

「すっげえ。ありがとう」

 そう言う隼人の目は先程とがらりと変わり、反発的な目の色はなくなっていた。ガキはこれだから、単純でいいよな。食べ物につられてもうオレへの敵意を失っている。

「ここのチョコレートケーキ、すごくおいしいの。あとでいただきましょう」

 そう由紀乃が言って、台所へ持っていった。


 結構厚いステーキに、ベイクドポテト。オニオンとマッシュルームのバターソテー、ロメインレタスのシーザーサラダが並ぶ。

 オレはバイトでこき使われていたから、それらを目の前にしてごくりと唾を飲み込んだ。すげえ。

 自分で食べられるだけ皿から取る、欧米式のやり方らしい。

 オレにステーキの大皿がまわってくる。皆一枚づつ取っている。何枚もいきなり取ったりしたらマナー違反かな。

 先生はオレの考えていたことがわかったみたいだ。

「竜介くん、たくさん食べて。この肉は君のために買ったようなもんだから」

「え、ああ。じゃあ、一応二枚いただきます」

 そう言われても遠慮してしまう。食べられたらまたもらえばいい。


 岡は、オレを知明のように見ているのか、最初からかなりフランクに話しかけてくる。おかげでオレは、由紀乃と出会った馴れ初めから、現代にいたるまで聞かれるままに答えていた。

「へ~え、シェアハウスか。いいわね。つきあっている二人が同じ屋根の下にいるって、ロマンティック」

 心なしか、先生の目が厳しくなった気がする。オレは慌てて打ち消した。

「あ、いや。そんなこと全然ありません。いつも台所で宿題を一緒にするか、ゲームするくらいだよな」

 オレはそう言って由紀乃に同意を求めた。

「そうです。私達、シェアが最初で、同棲をしているわけじゃないし」

「うん」

 オレもうなづいた。


「それに竜介くんは剣道の練習で毎日忙しいしねっ」

 ちょっと訳ありな言い方の由紀乃。そう言えば夏以来、デートらしいデートはしていないんだ。そのことを皮肉っているかのようだ。

「えっ、剣道? お兄ちゃん、剣道してるの」

 別のところで反応があった。隼人が意外そうな顔をしている。

「まあな。剣道部副主将だぞ。これでもな」

「うわあ、すげえ。剣道やってんだ。いいな」

 隼人が大はしゃぎをしていた。

「この子、剣道をやりたいんだって。早朝練習とか寒稽古もあるらしいの。途中で投げ出しちゃうんじゃないかって思って、まだ私が迷っているんだけど」

 いつもの会話なのだろう。隼人は母親を見て、不満そうな顔をする。

「やりたいって気持ちを大切にしてやってください。やる前から挫折することを考えていても何も始まりません」

 オレだってこのくらいのこと、言えるんだぞ。特に剣道のことはな。

「それもそうね。やってみないとわからないかも。入部してみようか」

 岡がそういうと隼人は目を輝かせた。

 オレは剣道の先輩として諭す。

「その代り、稽古は楽しい時とつらい事、半分半分だ。つらいのを乗り越えると楽しさがあるからな。頑張れよ」

「うんっ」


 由紀乃は時々この隼人のベビーシッターをしている。今度はオレも一緒に遊ぶことを約束した。剣道が好きなら、オレ達も共通の話題で花が咲くことだろう。



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