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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
最終章 生きること、それは人とのしがらみを解くこと。
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第六話 新学期と光司

少々、間が空いてしまいました。このエピソードを更新するかどうか迷っていました。光司にはそれなりの生活があるというエピソードです。人を思う心、切ない恋心は皆同じということです。

 学校が始まり、皆、世の中の回転にあわせるかのように、目まぐるしいほどの速さで動いている。

 オレも毎日、早朝練習があった。そして土曜日は、光司のところで夜中までバイトだ。


 由紀乃は、土曜日の昼頃から勉強の物を持って、桐野先生のアパートへ行った。毎週土曜日はあっちへ泊ることにしたのだ。先生もそれに合わせて夜勤などを避け、帰ってくるつもりらしいけど、由紀乃はそんなこと、全く気にしていないようだ。


 知明は術後、順調で、いつも長いメールを送ってくる。一か月の入院、退院後は約二か月くらい自宅療養しなければならないらしい。でも、もう透析をしなくてもいい、というところがうれしいらしかった。


 二、三日前に病室で父と母にも会った。二人とも知明以上に嬉しそうだった。あの母でさえ、オレに笑顔を向けて、剣道はどうなのか、勉強はちゃんとしているのか、と言ってきた。いつだって、オレのことは知明の二の次だったのに、今度はオレのことを心配しているようだ。

 知明がこんな病気にかからなければ、もし普通の体だったとしたら、オレ達の関係も今とは全く違うものになっていたに違いなかった。

 きっと母もは、知明のことばかりじゃなくて、オレのことも口うるさく言ってくるんだろう。そしてオレは叔母のところに住むことはなかっただろう。でもあの母の性格は変わらない。きっとオレ達は相変わらず喧嘩三昧だったと思う。いや、もっと関係は険悪なものになっていたかもしれなかった。ああ、もうよそう。そんな架空の世界のことばかり考えていても仕方がない。自分の中で悶々するだけだ。


 光司の働く店には、小さな食器洗い機がある。それはコップ専用で、一度に三十ほどのガラスのコップをあっという間に洗ってしまう。食器洗い機だと水痕がつかないからだ。オレはそれを使いながら、手で皿を洗う。手が空くと隣でやっている調理や盛り付けも手伝った。ものすごく忙しい時は、皆、バタバタしているけどその手際の良さに感心する。それをちらちら見ながら、どんなことをしているのか観察していた。オレもいろいろなことができたらいいなと思う。


 オレは十二時になったら帰ってもいいということになっていた。光司は昼から働きっぱなしだった。店長が来て、無理やりオレと一緒に帰るように言ってくれた。

 さすがの光司も疲れていた。オレに向ける笑顔に力がない。

 オレと光司は並んで歩いていた。ありそうであまりない状況だ。改めてそれに気づくと、何をどう話していいかわからず、黙っていた。珍しく光司も黙ったまま、歩いていた。


「なっ、厨房の長岡って人、いるだろう」

 唐突に光司がそう言った。

 一瞬、オレはなんのことなのかわからず、きょとんとしてしまう。

「長岡さん?」

「うん、いつもキッチンの奥で淡々と自分の仕事をしている、寡黙な人だよ。でも肉を焼かせたら微妙な火加減で、客の好みピッタリに仕上げる、プロ意識のすごい人だ」


 そう言われてオレは思い出していた。初めの頃は、いつも睨まれていて、怖い感じだった。最近、その睨みが見守っているのだとわかった。

 いつも必要な事しか言わない。体も大きくて、すんなりとした顔をしている。まるで中世の騎士のような凛々しさもある。

「おう、あの人か」

「うん、僕は、あの長岡さんが好きなんだ」

「へ~え」

 オレはそう軽く返事をしていた。けれど、その好きの意味に気づいて足を止めていた。光司の好きは男同士の友情とかそういう好意を持っているということじゃない。男性が女性を好きだという意味に近い。

 光司は、そんなオレの反応を予想していたのか、構わずずんずん歩調を変えずに先を歩いていった。

 オレは気を取り直して光司に追い付く。

 光司が女の子に興味がないことは知っていた。けれど、それは周りに好みの女の子がいないだけで、突然すごく大人っぽい女性と連れ立って歩いている姿を想像していたのだ。


「びっくりした?」

 光司が、追いついたオレを見て言った。

 その表情は、気恥ずかしいけどついに言いたいことが言えたという清々しい顔。

「うん、びっくりした」


「この間、一緒に酒を飲んで話しただけなんだ。あの人は、僕の気持ちに気づいている。でも、気づかないふりをしてくれてもいる。まるで男同士の友情を守るように」

「ってことは、あっちはそういうつもりじゃないってことか」


 光司は深呼吸をした。

「うん、残念ながらね。彼には何年も一緒に暮らしている女性がいる」

 あ、彼女がいる人なんだ。それじゃあ、勝ち目はない。

「それでもあの人は、オレを避けずに変わらない態度で接してくれる。また、一緒に飲む約束もした」

「それでいいのか」

「うん、それでいい。僕の気持ちを受け入れてくれなくてもいいんだ」


 複雑なんだな。男が男に惚れるって、わかる気もする。英雄的な凛々しい存在、男らしい態度でいる人に憧れる、そんな感情はわかる。たぶん、光司はそれに似た憧れ、そんなことを求めているのかもしれないと思った。

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