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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第六章 結果良ければすべてよし
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第六話 夏休みのおわり

 無事に知明の手術が終わった。結構順調らしく、その後は透析も必要ないそうだ。

 その手術の晩、祖父は私の部屋へ泊ったそうだ。

 車で送ってくれたからと、知明の両親が祖父に、病院近くのホテルをとると言ってくれたらしい。桐野の父も自分の部屋へ泊るようにと勧めてくれたとのこと。初めは祖父もそのまま帰ると言い張っていたそうだが、竜介が、私の部屋も空いているからと言ったら、じゃあ、と折れたそうだ。私の部屋の方が遠慮しなくてすむのだろう。私は全然かまわなかった。むしろ、祖父が無理して明け方に帰ってくるのではないかと心配していた。


 孝江たちは、皆の荷物を持って翌日に帰って行った。

 私も一緒に行きたい衝動に駆られたが、まだバイトがある。もう二週間、ここに残る必要があった。毎日竜介からメールが来て、知明のことは心配ないと言ってきている。父も同じようなメールをくれるので、本当に大丈夫なんだろう。

 やがて一週間がたち、知明本人から「大丈夫だよ」メールが届いた。

 今までずっと味気ないものばかり食べていたから、普通の物を食べて、こんなに味が濃かったかと驚いているそうだ。


 私は知明に、杏理のメールアドレスを送る。杏理も心配していたから。知明から私へ直接メールがきたなんて知られたら、叱られる。

 ずるいよ、由紀乃ばかりって。

 あの二人なら、メールのやり取りから始まる方がいいかもしれない。顔を合わせると意識しすぎて話ができないだろうから。


 一度、日帰りでもいいから病院へ顔を出したいと思ったが、ホテル従業員が交代で夏休みをとっていた。一日のバイトの時間はそう長くはないが、朝や夕方にちょこちょこと毎日出勤しなくてはならない。

 そう焦ることはない、と自分に言い聞かせる他なかった。



 すぐに二週間は過ぎた。今日でホテルのバイトが終わった。明日はいよいよ東京へ戻る。

 だから、今夜は私が夕食を作った。シンプルな牛丼。もちろん、祖母から伝授された料理。

 私はこの夏休み中、随分たくましくなったと思う。バイトだからと言って甘えは許されない、仕事に責任を持つということを学んだ。

 ホテルでは、バイトも従業員と同じ制服を着ていた。客側には、バイト生でも従業員もその区別がつかない。何か尋ねられたら、ホテル側の一員として、きちんとした対応を求められた。わからないのなら、すぐにそれについて調べて対応するか、上の者に聞くなどの行動することが社会へ出ることの責任、心構えとして知った夏だった。

 それに時々料理もして、レパートリーも増えた。光司がいない時に料理もしたい。


「ほう、祖母さんの味だな」

 滅多に褒めてくれない祖父が目を細めて言った。

「本当。上手にできてる。これなら他の人にも食べてもらえるよ」

 祖母もうれしそうだ。

「ありがと」

 うれしかった。

「これ、桐野さんのところで作ってあげられるねえ」

 私もそう思っていたところだった。


 そう、明日帰って、もう一週間残された夏休みのうち、一晩だけ桐野の父のところへ泊ることになっていた。その時、私は夕飯を作るつもりでいた。

「でもさ、お父さんはずっと自炊してたんでしょ。私よりずっと料理上手なんじゃないかな」

 そう言うと、全く料理をしない祖父が微妙に目をそらした。ちょっと居心地悪そうだ。

「娘が作った物を食べるってことに意味があるんだから、そんなこと、構わないんじゃない」

「そうかな」


「この先も、桐野さんのところへ行ったり来たりするんだろ」

 祖父は父と一緒に暮らす方がいいと考えているらしい。

「うん、まあ。そうなると思う。でもさ、お父さんも仕事人間だし、病院へ泊ることが多いみたいだし・・・・」

 今度は祖母も言う。

「由紀乃が家で待ってるんだったらどんなに遅くなっても帰ってくるでしょう。そう毎日、夜勤ってこともないと思うし」

 そう、今、血のつながった父がいた。

 それなのに私は他の家で暮らしている。祖父母としてはシェアハウスを出て、父親と暮らすことが自然だと考えているのだ。私もそう思った。たぶん、今回、父の所へいけばそういう話になる。でも、竜介と離れ離れになるのも淋しい。


 祖父は私の戸惑いを感じ取ったらしかった。

「まあ、当分は今のままでいいんじゃないか。父親といっても、ついこの間まで顔も知らない人だったんだし、少しづつ会ったり、泊まったりして、それでいいかもしれないな。世間一般の父と娘なら、お互い距離を置く年齢だろう」

 それは一理ある。

「桐野さんも由紀乃も自分の生活があるわけだし、無理しなくてもいい」

 祖父が私の胸の内を言ってくれたようだ。

「うん、少しづつ近づいてみる。それでいいよね」


 むしろ祖父母の方が、これから桐野の父とどう受け止めてつきあっているのか、そっちの方が大きな課題を抱えていると思った。

 母と結婚したわけでもないし、つきあっているときも面識さえなかった相手だ。でも、孫である私は、桐野の父がいなければ、この世に存在しない。


「ねえ、二学期が始まって落ち着いたら、今度はお父さんとここへ来る。私のお父さんなんだから、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんにとって息子でしょ」

 そういうと、二人が息を飲んでいた。息子という響きがそうさせたことがわかった。

 祖母が目を細める。

「そう、本当にそうだね。桐野さんは籍を入れなかっただけの綾乃の旦那さん」

「うん。そうだな」

 祖父も心なしか嬉しそうにみえる。

「桐野さんは酒、好きかなぁ。一緒に飲めるといいな」

 どっかのドラマのようなシーンを思い出した。娘が連れてきた男性と酒を酌み交わして、娘を頼むっていうシーンを。

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