第四話 夏休み2
短いです。
「いいの。私も日本人だから言わなくてもわかります」
竜介の隣へ立った。
竜介はかなり照れくさそうな顔をしていたけど、その緩んだ目が、いいぞ、と言ってくれていることが伝わってきた。
「ん、なるほど。言わなくてもわかるのか。まあ、相手に伝わっていれば、言わなくてもいいな」
竜介の表情をずっと見ていたらしい父がそう言った。
私も照れくさくなった。
その時、皆の関心をさらうようにして一際大きな花火が打ち上げられた。少しそれに見とれ、内心ほっとしていた。
どさくさに紛れて、竜介が私の手を握ってきた。ちらりとその顔を盗み見ると知らん顔をしている。
家族の集まりなのに。
大胆な行動をする竜介。ドキドキもするが、そんな触れ合いを楽しんでいた。
花火も大詰めになった頃、祖母が急にスイカ、スイカと思い出したようにつぶやき、中へ入っていった。すぐさま光司がその後を追う。手伝いをするためだとわかった。
私も気になって振り向いていると竜介がそっと耳元で言う。
「大丈夫、光司くんに任せなさい」
ちょっとどこかで聞いたお笑いふうに言って、私の肩に手をかけた。
これにはずっと端の方にいる父も私達に目を向けていた。
ちょっと調子に乗りすぎだと感じ、肩をグイッと上げて、その手を外した。
竜介は何事もなかったかのように、その目を空に向けていた。
ダメ元でやってみた、そんなところだろう。少し笑っている。全くもう。後で父に何か言われるかもしれない、と思う。叱られはしないと思うが、少したしなめられるかも。
しかし、そんな他愛のないことを吹き飛ばすかのように、バタバタと光司が慌ててベランダへ出てきた。
皆が何事かと振り返った。
「知明っ、お母さんから電話だぞ、緊急みたいだ」
知明が一瞬、何のことかわからずきょとんとしていたが、すぐさま中へ入った。
「ずっと知明の携帯に電話していたらしい。でも出ないからこっちに電話したって」
祖母が出て、すぐに光司に変わったらしい。もう花火どころではなくなっていた。サッシのガラス越しに見ると、電話で話す知明の顔の表情が硬い。何かあったのかもしれなかった。
そして知明がこっちを見た。その目が父の姿を探していた。
「お父さん」
父もそれを察してすぐに中へ入った。
知明は、父にすがるような目で言う。
「先生、腎移植だって。今すぐ帰ってこられるかって・・・・・・」
知明から父が電話を受け取る。
腎移植、その言葉に緊張がはしる。竜介の握る手からも伝わってきていた。
電話で話をしている父は一度受話器から顔を外し、知明に言った。
「知明くん、どうする? 受けるのか、それともやめるか」
知明は決断を迫られていた。ずっとくちびるを引き締めて、神妙な顔をしていた。二、三秒、待った。
「お母さんは受けて欲しいそうだ。でも知明くんの返事次第だって」
それでも知明はまだ決めかねているようだ。
「知明くん。移植のことは知っているね。いいことばかりじゃないってこと。それにこの腎臓は三番目だ。リスクは大きい」
三番目ということ、孝子が小声で説明してくれた。
「死体腎は、移植希望リストに上げられている適合率の高い順から選ばれる。一番、二番目の人は今回の移植を拒絶したことになる。それで三番目の知明に番が回ってきたということ」
ああ、なるほどと思った。でも、皆、移植を待っていたはずなのに、なぜ拒絶するのか疑問も出てくる。
「こうした移植の電話は突然だからね。特に夜中に電話がくると、はい、そうですか、ってわけにはいかないみたい。登録はしていても何回も断っているという人、結構いるよ。それに三番目、せっかく移植をしても適合率が下がるから、拒絶反応が起きやすくなる」
「え?それって」
「そういうリスクも大きいってこと」
そうか、それで知明もすぐにとは言わないのだ。
しかし、知明は決断したみたいだ。きっと顔を引き締めて、父に言った。
「受ける」
と叫んだ。それはもう迷わない、と自分にも言い聞かせているようだった。
父はすぐにその意を伝え、電話を切った。
「すぐに病院へ行く。支度して」
知明がうなづいた。
孝江が中へ入っていった。
「そんなのどうでもいいから、すぐに行って」
祖父が車の鍵を持ってくる。
「車で送る。東京なんて近い」
父が破顔した。
「ありがとうございます。時間がセーブできる」
祖父の後に、父と知明がついていく。
竜介が私を見た。
「オレも行く」
私もうなづいていた。
四人はバタバタとマンションを出ていった。
その急な展開に、私達は少しの間、放心状態のようだった。誰もが力が抜けたかのように座り込んでいた。
もう花火どころではなかった。テーブルの上のスイカを見つめる。
「大丈夫、手術自体はリスクは少ない。腎臓と知明しだいだね。知明の体がどれだけ新しく入ってきた腎臓を受け入れるかによる。先生もついていることだし、後は祈るだけ」
孝江がそう言ってくれた。
「成功すればもう透析をする必要ないし、水も飲める。食事も低脂肪、低塩だけど結構普通の物が食べられるしね」
「普通に学校にも行けて、普通の生活ができるんですね」
「そう、普通の高校生になれる」
私達には本当に普通のことでも知明には制限されていた。それが解禁となるのだ。知明もだが、お母さんにとって願ってもないことなのだろう。




