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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第六章 結果良ければすべてよし
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第三話 夏休み

 期末テストがようやく終わった。

 テスト期間は部活活動はないし、家へ帰れば勉強をしなきゃいけないし、ストレスがたまった。

 でも、由紀乃がいたから、一緒に勉強した。わからないところは教えあったりし、オレの人生でこんなに勉強をしたこと、なかったかもしれない。だから、成績はぐっと上がっていた。

 由紀乃もいつもより成績が良かったらしく、この調子で頑張ろうねと言っていた。


 夏休みに入ると、すぐに由紀乃が富士河口湖町へ行ってしまった。

 祖父母がいるからだ。夏休みはずっと以前からそっちに行くと、もう約束していたらしい。おまけに行く前から由紀乃は、地元のホテルでバイトすることが決まっていた。夏だけの学生アルバイトを募集していたんだそうだ。おじいさんがそれを聞いてきて、由紀乃がやる、と言ったから即、決まった。


 オレ達は離ればなれになり、毎晩のように電話をしていた。

 由紀乃のバイト先は、マンションから約五分くらいの距離で、毎日自転車で通っているらしい。

 仕事はベッドメイキングと掃除。ベテランの人とペアを組んでやるから、いろいろなコツを覚えられて楽しいそうだ。そして夕方から八時まで、ホテル内の売店の接客もする。忙しいが、いろんなところから来た旅行客と話ができて楽しいということだ。


 オレは毎日毎日、剣道のための体力づくりと稽古。それもやりがいがあり、楽しいけど、学校を離れて何か別のことをすることもうらやましく感じていた。

 夕方にはへとへとになるけど、誰もいない家に帰りたくなくて、毎日のように友達と遊んだり、光司のいる店に寄った。光司も、由紀乃が一人いなくなっただけなのに、夕食の用意をする張り合いがなくなったといっていた。


 オレ達は、八月上旬に行われるという河口湖湖上祭に行く予定になっていた。オレと光司、孝江叔母さん、知明も来られることになった。桐野先生も来るというので母が許可してくれたのだ。

 湖上祭はライブコンサートと花火があがる、由紀乃の祖父母のマンションからよく見えるらしい。当日はかなりの混雑となりそうだった。


 単調な夏休みの毎日を繰り返していると、ちょっとした転機に巻き込まれる。

 いつものように夕方から光司のいる店で夕食をとり、ゲームをしながら時間を潰していた。その日はいつもより店内が混雑していた。

 急に光司がオレのところへきて、店を手伝え、と言ってきた。


「バイト生が急に来られなくなった。今日はいつもよりずっと忙しいのに、人が足りないんだ。竜介でも我慢してやる」

 手伝えと言うのに、横柄な言いぐさだが、光司は本気でそう言っているんじゃないとわかっている。

 オレは急きょ、皿洗いとサラダなんかの簡単な盛り付けることになった。


 初めは慣れない手つきで怖々やってたけど、由紀乃が来てから皿洗いもやったし、ちょっとした家の手伝いもしていたから、すぐにコツをつかみ、できるようになった。そして、ちょっと手が空いたら、帰った客のテーブルを片づけ、拭いたりして、ちょこまかと動いていた。そんなオレの動きを見て、店長がずっとバイトしろと言ってきた。気に入られたみたいだった。

 剣道の稽古の後、夕方から夜、九時くらいまでの忙しい時間だけでいい、と言うので承諾した。光司が嫌な顔をするかと思ったけど、意外にも何も言わない。認めてくれたらしい。


 そういう報告を由紀乃にすると、自分のことのように喜んでくれた。

「仕事をして自分のお金をもらうって、いい経験よね。ホテル内のコーヒーショップにも同じ年のバイト生がいるの。隼人君って言って・・・・」

 由紀乃が他の男の話をしていた。

 知明とかなら許すけど、オレの知らない男は許せない。

 由紀乃はまだ、いろいろバイト先でのことを言っていたが、もう耳には入らなくなっていた。その男のことばかりを考えていた。どんな男だろう、とか、由紀乃に好意をもっていたらどうしようとか。


 オレが急に話さなくなったから、おかしく思ったのだろう。由紀乃がどうしたの? と言う。

「あ、別に」

 いつものオレらしくない返事だった。由紀乃もそう思ったのか、ちょっと厳しい声を出してきた。

《ねえ、言いたいことがあったらはっきり言ってっ。私達、離れているんだよ。こういうこと、ちゃんと言わないと伝わらないの》


 相変わらずオレって尻に敷かれてる、と思う。こういうことはいつも由紀乃が主導権を握っている。大人なんだろうな。

「わかったよ。オレが気になっているのって、その・・・・つまり、男のことだ。同じ年の・・・・」

 電話の向こうでは一瞬、間があり、ああ、隼人君のこと? と言う。

 

《妬いてるの? 》

 そう言われると否定してしまう。

「そうじゃないけど、どんな奴なのか気になって・・・・」

《隼人君はイケメンだけど、もうすごくかわいい彼女もいるの。バイトが終わるとすぐに帰っていく、私はあいた時間にお互いの学校のこととか話すだけ。あ、竜介くんのことも言ってあるから、湖上祭の時は紹介するね》

 そう言われて、オレも安堵した。


《竜介くん、妬いてくれてちょっとうれしかった》

 電話を切る前に、由紀乃がそう言った。オレも体温が上がった。


 本当に思っているだけじゃ伝わらないことがたくさんある。相手がうれしくなることは、伝えた方がいい、ということを実感していた。

 ただでさえ、離れていると余計な考えが起る。余計なことを考えると、不安も起るのだ。

 だけど・・・・なかなか口に出して言えないところが日本人なんだよな、とも思った。言わなくてもわかるだろう、そういうことが美徳として考えられていた。

 年を重ねた夫婦ならそれもよしだけど、若いうちは無理だなとも思う。


 オレも急にバイトを始め、忙しい毎日になった。収入もあるし、毎日が飛ぶように過ぎていく。それは由紀乃に会える日が近づいてくるということだった。


 当日、オレ達は混雑した電車に揺られ、やっと河口湖へたどり着いた。

 みんな湖上祭目当てに来ているらしい。夕べは前夜祭があったそうだ。

 由紀乃のおじいさんがオレ達を駅まで迎えにきて、富士山の周りも車で走ってくれた。山中湖まで行くとずっと近くに富士山が見える。

 そんな富士山と湖が広がる景色にみんな、心を打たれていた。


 マンションへ行く。おばあさんがみんなのために食事を用意してくれていた。マンションのベランダからは富士山と河口湖が一望できた。


 由紀乃は今日もバイトだった。今日が一番忙しいともいえる。

 オレ達は皆で、散歩がてらに由紀乃がバイトをしているホテルへ、様子を見に行った。大きなホテルで、七月、八月は連日満員だという。その三割は外国人らしい。富士山が世界遺産に登録されてから、外国人観光客がぐっと増えたそうだ。


 オレは知明と一緒に、気になる奴が働いているというコーヒーショップへ入った。見てすぐにわかった。高校生のバイトは一人しかいなかったから。

 値踏みをするかのように知明が見て言う。

「確かにイケメンだけど、大したことないよ。竜介の方がかっこいい」

 知明の言葉に苦笑する。

 同じ顔をしたお前が言うなよ、って。

「じゃあ、知明もかっこいいってことだな」

「うん、まあね。そういうこと」

 一緒に笑いあっていた。


 オレはその夜、由紀乃のバイトが終わる八時頃に迎えにきていた。もう花火が始まっているから売店にも人気がない。

「よかった。今夜は暇で。あまり忙しいと帰れないの」

 そう言って由紀乃はオレの腕にまとわりついてきた。久々の温もりを感じていた。それと同時にふんわりと香るシャンプーのにおい。

 ああ、由紀乃だって思った。


 オレ達は急いでいた。由紀乃が一度帰って、浴衣を着るからだ。そして再び湖畔へ行くつもりだった。湖畔にはものすごい人が集まっている。みんな花火を見ていた。

 そんな人をかき分けて、やっと河口湖大橋にでた。その橋を渡るとマンションが見えた。ここまでくると辺りには人影はない。

 オレ達は打ち上げ花火が上がるたびに振り返っていた。

「ねえ、終わっちゃうね」

「なあ、浴衣に着替えたら、そのままマンションのベランダで見ようか。ここからでもマンションからでもそう変わらない」

 オレがそういうと由紀乃もうなづいた。


 マンションの玄関口へ入ろうとしたとき、オレは由紀乃の手を引いた。由紀乃は不意のオレの行動にびっくりしていた。何か危険な物が目の前にある、という感じで手を引いたからだ。

「どうしたの?」

 由紀乃の疑問の声に答えず、オレは由紀乃を抱きしめていた。久しぶりに会えた。二人きりになれた。マンションへ戻れば誰かがいる。そして明日はまた、離ればなれになるのだ。今しかチャンスはなかった。


「由紀乃、やっと二人きりになれた」

 そういうと由紀乃はオレの腕の中で、体の力を抜いた。そしてその腕をオレの背中にまわしてきた。それで由紀乃も同じことを思っていることがわかった。

 家では二人きりのひと時は何度もあったけど、むしろ手にも触れることをしないように意識していた。

 つきあいながら一緒に暮らすということは、空気みたいな存在になるのかと思った。でもそれは違っていた。少なくともオレはずっと意識していたし、朝、顔を合わせると体温がぐっと上がった。近すぎるからと触れることを極端に避けてきていた。

 オレはこのまま抱きしめていられればよかった。けど、由紀乃はどうだろう。物足りないかもしれない。


「キスしたい?」

と聞いてみた。

 由紀乃はオレの胸に顔をうずめたまま、ううん、と首を振った。

「このままがいい」

と答えてきた。

「オレもこのままがいいって思った。由紀乃がいない家ってつまんなくってさ。寂しかった」

 由紀乃は、そんなオレのことを想像したんだろう。くすっと笑った。

「私もだよ。会いたかった。顔を見たかった。直接話したかった」


 オレは空気のような存在も捨てたもんじゃない、と感じた。空気はそこにいてあたりまえのようだけど、ないと生きていかれないから。


 しばらくそうしていた。ずっとこのままでもよかったくらいだった。花火が終わる、それが何だって感じで。オレ達の周りでは、ポンポンと腹に響く音と遠くで歓声が取り巻いていたが、気にしない。二人きりの世界だった。

 

 近くをバイクが通り過ぎて、オレ達は我に返った。

「行こうか」というと由紀乃もうなづく。


 部屋へ戻る。

 皆がオレ達を振り返った。一瞬、皆がオレ達の抱き合っていた様子を見ていたかのように、その視線が気恥ずかしく思えた。

「今、帰ってきたの? もう花火終わっちゃうよ」

 知明が顔を出す。

「なんだ、皆、ここにいたんだ」


「うん、ボクがここから見るって言ったら、先生もここにいるって。おばちゃんと光司くんは一度出ていったけどすぐに戻ってきた。ここからの方がよく見えるって言ってさ。すごい人だろっ」

 オレは、うん、と返事をしてベランダへ出た。

 由紀乃はすぐに奥の座敷へ入る。浴衣に着替えるからだ。すぐにおばあさんも後を追う。


 あの抱擁の後、オレは誰の目も真っ直ぐに見られなかった。こういう行動するから、ばれるってわかっているのに。テレを隠し、花火を見つめる。だけどオレの頭の中は由紀乃のことだけしかなかった。


 由紀乃が浴衣に着替えて出てきた。紺地で鮮やかな朝顔の花が咲く浴衣だった。皆の視線を浴びて、さすがの由紀乃もはにかんだ笑いを見せた。

「うわっ、かわいい。由紀乃ちゃん、すっごくかわいい。やっぱり日本人は浴衣が映えるよね」

 孝江がいつものように褒めていた。

「ほんと、きりっとした美がある」

と、知明。さすがのコメントだ。

 叔母はオレを睨みつけた。オレにもなんか言えといっている。

「ほら、竜介。褒めろっ。かわいいとかさ。口下手の日本人よ、もっと感情を出せっ」

 そう煽ってくる。これでも今日は、充分自分の感情を言葉や態度に現した方だ、と言いたかった。

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