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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第四章 人と一緒にいる意味・それは魂が磨かれる瞬間
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第二話   由紀乃

 六時に目覚ましが鳴った。

 ベルを止めて、部屋を見回す。見慣れない風景に、改めて自分が竜介と同じ屋根の下にいるという実感がわいてきた。


 夕べ、光司はお弁当も用意してくれると言っていた。しかし、そこまで甘えることはできない。光司は竜介の分を作ればいい。祖父母の家でも自分のお弁当は作っていたのだ。

 パジャマから一度ラフな部屋着に着替えて部屋を出る。しかし、もう光司は起きて台所に立っていた。


「あっ」

と、思わず声を上げると光司が振り返った。

「おはよう、由紀乃ちゃん。ずいぶん早いんだね」

「あ、はい。あのう・・・・私、自分のお弁当、作りますから」

 光司は破顔する。

「もう遅い。作ったよ。由紀乃ちゃんの分も」

 見ると、朱塗りの古風な重箱風のお弁当箱があった。


 驚いて光司を見る。大きめのバンダナで包んでくれる。

「まだ、開けちゃだめだよ。お昼の時間のお楽しみ。帰ったら感想、聞かせて。次の参考にするから」

と渡された。

「はい」

「こっちは竜介の弁当。サーモスの弁当箱。もし、由紀乃ちゃんがこういうタイプがいいんならこっちにするよ」

「いえ、このお弁当箱がいいです」

 至れり尽くせりのおもてなしだ。言うことなし、ありがたいと思う。

「もし、食べきれないようだったら友達にあげて」

「はい」


「朝食は食べる前に、みそ汁を温めて、食べて。鍋はそのままでいいよ。もう一眠りしたら、ボクが食べて片づけるからね」

「はい」

 光司はパジャマの上のエプロンを外すと二階へ上がっていった。


 私はあっけにとられていた。夕べ、光司はバイトがあり、夜中過ぎに帰ってきたはずだった。それなのにお弁当とみんなの朝食まで用意してくれるなんて。

 こんなに甘えてもいいのかと思う。


 とりあえず、顔を洗って制服を着た。

 今まで髪をブローしていたけど、髪を切り、短くなっていたので、ムースを付けて形を整えればよかった。

 竜介が起きて来るまで、朝ごはんは待つことにする。食卓の上には、だし巻き玉子と海苔、程よく焦げ目のついた鮭があった。豪華。


 六時半ごろになると、上の部屋でガタっとドアが開く音がした。竜介が起きてきたらしい。わたしは早速、みそ汁の鍋に点火した。

 台所に現れた竜介は、すでに制服を着ていた。台所に立つ私を見てぎょっとしていた。

 すぐにああそうだったと思いなおしているのがわかった。

「おはよっ」

と言うと、同じように「おはよっ」と返事が返ってきた。


「朝食、もう食べる? 何時に行くの?」

「あ、うん。七時から早朝練習」

 時計を見る。六時半だ。

「自転車で飛ばせば十分で行けるから」

 味噌汁も具だくさんでおいしかった。鮭の切り身も皮がパリッとしていて、中が焼きあがっていた。

「私の半分食べる?」

 私には十分すぎる量だ。しかし、竜介には物足りないと思う。

 案の定、竜介は私の差し出す鮭をぱくりと一口でたいらげた。


 こんな空間、不思議だった。昨日まで、ざわざわとした寮の食堂にいた。そして今は、一番気になる人と二人で朝ご飯を食べているなんて。



 学校で杏理と沙織には、竜介と同じ家に住むことは話してあった。聞いてみるとこういうシェアハウス、下宿屋は多いらしい。個人の家の中に大家さんがいて、学生を住まわせ、食事の世話をするというものだ。

「なんだ、私だけが特別じゃないのね」

「そうそう、同棲って囁かれると思った?」

と沙織が茶化すように言った。


「いいな、両想いの彼と同居なんて。私には無理だけど」

「杏理は意識しすぎ」

 私と沙織は同時にそう言った。

「でも、私だって。まだ、両想いってわかったわけじゃないし・・・・」


 沙織は真面目な顔をして私に向かっていった。

「いい、由紀乃。男の子って結構面倒くさがりやだから、なんとなく毎日顔を合わせていて、なんとなくつきあってますみたいな感じだと告白してこないから。そのままズルズル、曖昧な関係になっちゃったらまずいからね」

「曖昧な関係?」

「そう、よく幼馴染とかがそうなる。都合のいい時はオレ達つきあってたと思ってたって言ってきて、都合が悪くなると、オレ達、付き合ってたか?ってしらを切る」

「うわあ」

 杏理がサイアクだという顔をする。


「このまま好きだって思っていても、向こうが何となく、このままでいいやって思っちゃうとつらいよ。ずっと、私達つきあってんの?っていう意識がまとわりついてくる」

 沙織がまくしたてていた。珍しいくらいに。

「やけに生々しいんですけど」

 私が沙織に聞いた。

「そう、中学の時のわたし。向こうは暇なときだけデートに誘う。メールも電話も気まぐれ。返事してよって言うと、オレたち、何なんだ?ただの幼馴染だろうって言われた」


 私は、その状況を竜介に置き換えた。

 うまくいってるときはいいが、そのうち些細なことで喧嘩もするだろう。そんな時、「オレ達、付き合ってねぇだろう。彼女づら、すんな」なんて言われたらたまらない。

「わかった。向こうが言ってこなかったら私から言う」

 私はきっぱりと言った。



 私たちは食堂へむかっていた。杏理と沙織が定食を注文し、私は光司の作ってくれたお弁当を開けた。

 二人がわあと声を上げた。私も息を飲む。

 凄いお弁当だった。よくお弁当特集の料理本に載っているお弁当みたいだった。

 カラフルな手毬寿司が二つ、ハンバーグ、青味のゆでた絹さや、プチトマト。酢漬けのセロリも入っていた。


「すごい。これ、由紀乃が作ったの?」

「まさか。同居人の光司くん。スターボックスで働いてる人。私の分まで作ってくれたの」


 きっとおばあちゃんに言ったら目を丸くする。おじいちゃんなんて、家ではお茶だって自分で入れないもん。たぶん、お茶の葉がどこにあるのかさえも知らないと思う。


 家に帰ると、光司がバイトに出かけるところだった。竜介も帰っていた。

「あ、光司さん。お弁当、どうもありがとうございました。とってもおいしかったです」

 そういうと光司の笑みがこぼれた。

「よかった。くずれてなかった?」

「大丈夫でした。ハンバーグも柔らかかったし、あの手毬寿司はきれいで食べるのが惜しいくらいでした」

「え?手毬寿司ってなんだよ」

と、竜介が口を尖らせ、文句を言う。

「竜介のは、ご飯大盛り。由紀乃ちゃんのは手毬寿司にしてみただけ」

「あっ差別」

「バ~カ、竜介なんてあんなの、五、六個作らないと腹いっぱいにならないだろう。朝からそんなにたくさん作ってらんないよ」

 そりゃそうだろう。かなり手の込んだ作り方だったし。


「それに、キャラ弁みたいなものを作るのが夢だったんだ」

「え?」

「一度竜介に犬の顔のおにぎりの入ったキャラ弁を持たせたものがある」

 光司にしては怖い顔をする。キッと竜介を睨みつけた。

「こいつは食べてこなかったんだ。恥ずかしくて弁当が開けられなかったって」


「あったりまえだろう。幼稚園じゃあるまいし、犬の顔だぞっ。ちょっと開けてすぐに閉じた。誰にもみられないように」

「竜介、犬好きだろう」

「好きだって、あんな弁当と一緒にすんな」

「だからあれ以来、竜介の弁当はご飯を盛っただけのご飯」

「それでいいよ」


「今やっと夢が叶う。キャラ弁、作っていい?」

「え?私に? ハイ・・・・お願いします」

「今日、海苔をくりぬくパンチも買ってきた。明日の弁当のデザインも決まっている」

 竜介があっけにとられていた。私はありがたく、その好意を受けることにした。

「ありがとう、光司さん」

「いや、こっちこそありがとう」

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