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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第三章 やらずに後悔するよりも、やってけじめをつけると、次に進めるかもしれない。
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第七話

 私は、杏理と竹田と一緒に知明のお見舞いに出かけた。

 竜介から、食べ物に制限があるため、本などの方が見舞いの品に向いていると言われ、病院へ行く前に書店で歴史の資料本と小説を何冊か選んだ。

 

 夕食後の病院。すでに私は知明に、今から行くからとメールをしてあった。知明も待ってるからという返事をもらっていた。

 初めて会う知明の母。あの竜介の母でもある。

 竜介からの話を聞いているため、ちょっと緊張した。しかし、第一印象は孝江を少し神経質にしたような、きれいな女性だった。

 こっちを見て、顔をほころばせる。私たちは見てすぐにわかるように、南高の制服を着用していた。

 

 クラスメイトの・・・・と、名乗ると、母の亮子は目を輝かせた。

「あなたが竜介の」

と、言葉を切る亮子。

「今度孝江のところに引っ越すっていう由紀乃さんね。いろいろと話は聞いています。竜介を助けてくれたとか、どうもありがとうございました」

「え、いえ、そんなとんでもない」

 そんなことまで知っていたなんてと、驚いてしまう。

 亮子は、孝江から竜介のことを何でも聞いていた。

 にこにこしながら、

「私はあちらのデイルームへ行ってますね。お話が済んだら来てください。何か飲み物でもお出ししますから。病室では知明が、飲み物を口にできないから」

と、病室を出て行った。

 竜介の言うようなキツイ感じには見えない。


 知明は元気そうだった。顔色もよくなっていたし、むくみも取れてすっきりとした顔をしていた。彼は私たちが入っていくと、にっこりと笑った。

「よう、久しぶり。どうだ、入院生活は?美人の看護師さんでもいたか」

 ドアが開けっぱなしてあるので、そこを通り過ぎる看護師がチラリとこちらを見た。

「うん、お目当てが数人いる」

と、知明らしくない冗談を言って笑った。

 かなり余裕があるみたいだった。それは体調がよくなっている証拠だろう。私は、杏理の背中を押す。竹田の大きな体に私たちは隠れていたから。

「キャッ」

と、杏理は声を上げ、知明の前で出た。

「あ、時田さんもきてくれた。久しぶりだね」

「は、はい。加藤くんも・・・・・・元気そう」

「うん、透析が始まったから、体にたまってた悪いものが出てくれて、今までにないほど調子がいいかな」

 一応、杏理のことを印象付けた後、私も顔を出す。

「知明くん、こんにちは」

「神宮字さん。聞いたよ、竜介から」

 ああ、私が竜介たちと一緒に暮らすこと。

「明日、引っ越すの」

 一応、杏理と竹田には説明してある。ここへ来れば絶対にそういう話題になるから、先に言っておいた方がいいと思ったのだ。

 知明には、授業のノートの写しと近況を話していく。大体の会話は竹田がしていた。杏理は楽しそうに話している知明を、満足そうに見つめていた。


 まあ、杏理は今日、少しだけ話すことができたから上出来かなと思う。

 そんな知明の病室に、ひょいと覗いた顔があった。

「やあ、楽しそうだね」

 知明の顔がそちらを向く。

「あ、先生。友達が見舞いに来てくれたんです」

「ちょっと邪魔してごめん。今日の検査結果、よかった。だいぶ、貧血も改善されてきたし、他の数字もよくなってる」

 知明がホッとした表情になった。

「ああ、よかった」

「うん、このまま病院で出されたものは、きちんと食べていけばもっとよくなる」

「はい」


 その会話だけでも知明が順調に回復しているのがわかった。私たちも安堵していた。知明の顔を見れば、調子のいいことはわかるが、実際に医師からそう言われることのほうが実感できる。

 それに知明との会話からすると、この医師は話しやすそうな好感のもてるイメージだ。

 その医師は知明に向けていた笑顔を、今度はこっちに向けた。

「で?どっちが加藤くんの彼女?」

と言う。

  その時、その医師は私の顔を見た。一瞬、顔が強張った?と思ったが、気のせいだったかもしれない。一度も面識はないはずだし。

 私はすかさず、杏理を押した。

「こっちが知明くんの彼女志望者です」

 ちょっと荒療治かもしれないけど、言ってしまった。

 杏理は真っ赤になり、手で顔を覆いながら竹田の背に隠れた。知明はびっくりした顔をしていた。

「由紀乃ったら・・・・」

 杏理は顔を上げられないようだ。

「いいじゃない。ずっと知明くんと話がしたかったんだって。お友達からってことでスタートしてください」

 知明は、穏やかな表情になり、杏理を見る。

「もちろん。確か時田さんって一年のときも同じクラスだったよね」

 杏理も真っ赤になりながら、うなづく。

 竹田が杏理に一番近くの椅子を譲り、私たちは一つ椅子を開けて座りなおした。

「思い切って言っちゃったな」

 竹田も二人の様子を見ながらつぶやくように言った。

「だって、杏理なら絶対に告白しないもん。知明くんも気づかないだろうし」

「確かに。知明はそういうのにうといから」


「じゃ、君たち二人がつきあってるの?」

と医師が言ってくる。

 私にも知明に向けたような優しい顔を向けていた。

「あ、冗談じゃありません」

「なんだよ、それ」

 竹田が口を尖らせて抗議した。

 医師は、あははと笑い、「邪魔したね」と言って出て行った。


「いい先生だろ。すごく話しやすい。いろんなことを知ってるし、勉強も教えてくれる」

「独身かよ」

「あ、さあ・・・・聞いたことない。でも、病院の寄宿舎に入ってるらしいから独身かもね。ずっと病棟にいるよ。ここが家みたいに」


 私たちは三十分ほど他愛のない話をして、病室を後にした。知明の母の待つデイルームへ行く。

 面会時間なので、元気に歩ける患者や大部屋にいる人は、皆ここで見舞客と会っていた。大きなテーブルが並ぶ部屋は大勢の人がいた。

 その隅に、亮子が座っていた。和菓子を用意してくれている。

「お飲み物は?ごめんなさいね。知明は水分が勝手にとれないから、私もお茶の用意がしてなくて、普段は一人だからここで買っちゃうの」

 自動販売機がたくさん置いてあった。

「竹田くん、どれか好きな飲み物、買ってくれる?」

 竹田にお金を渡す。亮子は竹田を知っているみたいだった。私たちはみんな、冷たいお茶を買ってもらう。


「先生が言うのには、あと一週間様子を見て退院できるそうなの。それでもまだ、完全に学校へ復帰というわけにはいかないんだけど」

 それでも亮子はうれしそうだった。

 竹田は、何度か剣道の試合の時に、亮子と顔を合わせていたようだ。

「竜介、ここのところ、毎日顔を見せてくれるの。剣道の練習の後に。由紀乃さん、もう少し待ってて」

「え?」

 さっきの杏理のような反応を私がしていた。突然、竜介の母からそんな事を言われるとは思ってもみなかったから真っ赤になる。

「本当によかった。由紀乃さんに会えて。こんなにしっかりしているお嬢さんだとは思ってもみなくて」

「聞いてるでしょ。竜介と私、よくやり合っちゃうの。あの子、私によく似ているところがあるからつい、イライラしちゃって。それで、私のようになってもらいたくないから、いろいろ言っちゃう。そうすると、あっちも怒るし、悪循環」

とさらりと言い、亮子は少し遠い目をした。


 亮子は孝江と似ていると思う。やはり、姉妹なんだと思わせる表情や言い方をした。

 きっと家族となると、いい顔ばかりできないのだろう。相手のことを考えれば考えるほど遠くなっていくということもわからなくはない。


 そろそろ帰るという時に竜介が現れた。私の顔がほころぶ。

「間に合ったな。知明と会ってきた?」

「うん、元気そうだった」

「今、絶好調らしい。よう、竹田。相変わらずでかい」

「オッス、余計なお世話だ」

と、竹田が笑った。

 そして竜介が杏理を見る。

「あ、一度会ったことあるよね」

と言うと、杏理はもう竜介が別人だとわかっているので、真っ赤にならず、「はい、あの時は驚きました」と話している。


 竹田は感心していた。

「由紀乃も杏理もさ、同じ顔なのによくそう区別できるな。さっき、杏理なんて知明とまともに顔が見れなかったじゃん。今は竜介と普通にしゃべってるし、由紀乃も竜介に向ける顔が違うし」

 私も杏理も、竹田の指摘に苦笑いした。だって、別人だもん。顔が同じでも違うんだから。


 竜介はいつものように、消灯まで病室にいるという。

 私たちは夜のバス停に佇んでいた。

「思ったより、竜介くんとお母さんの関係、悪くないんじゃない?」

と、竹田に言った。

「うん、落ち着いてると思う。以前は、竜介もあのお母さんの前に立つと素直になれないところはあったな。反抗期の年齢ってことからこじれて、もうお互い素直に話せなくなっちゃったって感じ。でもさ、あのお母さん、剣道の試合、必ず来てたぞ」

「あ、そうなんだ」

「子供を心配しない親はいないよ。ただ、親も人間だから心配していることが素直に表現できない人もいる。みんな、器用じゃないんだ。一言、心配だからって言えばいいのに、顔を見るたびにそれが小言になって言い合う。それじゃ子供は勘違いするだろ、ああ、この人はオレのこと、嫌いなんだって」

「うん・・・・・・」

「特に知明が病弱だったから、お母さんも知明を庇わなきゃって思ってたと思うよ。そう、第三者の目から見ると全体がわかってくるんだけど、その中にいると見えないんだよ」

 私はその竹田の言葉に関心していた。

「ねえ、竹田君。本当は私たちの何倍も長く生きてない?高校生とは思えないほど悟ってる」

「バ~カ、なんだよ」

 竹田が笑った。私も杏理も、竹田の言葉に本当にそうだと思った。



 



 

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