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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第三章 やらずに後悔するよりも、やってけじめをつけると、次に進めるかもしれない。
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第五話

 練習試合の日、オレ達は学校の専用バスで南高へ向かった。

 このバスは、本来、野球部のためのものだ。しかし、空いていたら他の運動部も使うことができる。これが使えなかったら、顧問の先生の車に武具を入れて、オレ達は電車かバスで移動しなければならなかった。今日は、すでに剣道着を身に着け、そのまま乗り込める。


 茜はあれからオレとは目を合わせず、どうしても必要な事だけしか言ってこなくなった。周りもそんなオレ達に気づいて、もうからかうこともしなくなっていた。

 そんな、いつ雨が降ってくるかわからない黒い雲の下にいるような落ち着かない状況がたまらなく嫌だった。うじうじしていて、クソくらえって思う。

 オレは茜に尋ねられたこと、すべてを正直に話した。オレにできることはもう何もない。茜がその現実を乗り越えて、受け入れるのを待つしかないのか。

 どうも苦手だった。そういう女の子の複雑な心理。


 南高の正門をバスが入っていく。

 街路樹が青々と茂り、生徒たちが運動をしているグランドを左右に見て、真っ直ぐ校舎へ向かって進んでいった。

 左手の方は、マウンドが二つあり、野球部専用のグランド、右手は陸上部が、ずっと奥にはハンドボール部、その反対側の隅はソフトボール部など、球技の部が所狭しと入り混じっていた。

 受験校でも結構、部活動が盛んなんだと思った。どこの学校でも野球部は花形だから、広い専用のグランドを設けている。大会でそれほど名を聞かないこの南高でもこうして特別にしている。


 うちらのバスは、のんびり歩いて下校していく生徒たちをかき分けて、体育館のすぐ横に止まった。

 すぐさま、中から剣道着を着たでかい男が飛び出してきた。そいつはオレ達に深々と頭を下げる。

 見覚えのある奴、竹田だった。竹田厚司、通ってた道場でずっとライバルだった奴。竹田もオレを見つけて笑顔を向けた。


「よっ、久しぶり。相変わらずでかいな。また伸びたのか」

というと、あっちもオレを見下ろして、

「久しぶり、竜介は変わらんな」

 オレは小柄な方で、身長も百七十ちょっとしかない。百八十センチ並みの竹田にとって、オレはいつも変わらない小さい奴なんだろう。

 体育館にはもう見物人が集まっていた。中には北高の制服も見られる。わざわざ応援に来てくれたらしい。


 オレ達が入っていくと、少し湧き上がった。スーパースターでもないのに、歓迎してくれたことがうれしかった。

 試合をする前に、少し練習する時間をもらえて、気合いをかけて緊張を解きほぐしていく。

 他校での大勢の観衆の中、オレには由紀乃を探す余裕はなかった。由紀乃は試合が終わってから探せばいい。あっちも部活があるだろうし、練習でここにはいないかもしれない。

 部長は、顧問の先生と向こうの学校の先生と話をしていた。だからオレが、積極的に声を出して部員を盛り上げていく。いつもの練習なら、「遅い」「何やってんだ」とかの声も混じるが、他校相手の試合のときは、全面的に肯定的な声を出すことにしていた。その方が剣士たちもやる気が出るし、相手にも悪いところを悟られないからだった。

 一通りぐるりと回って声をかけていると、見ていた南高の生徒たちがざわめいていることに気づいた。オレを見て、何かを言っている。目の前でひそひそ話をされているような、気色悪い感じだった。

 なんだ?って思う。その理由に気づく前に二階から声がとんだ。


「竜介くんっ」

 みんなが一斉にそっちを見た。オレも見る。

 由紀乃だった。

 そんなところにいたのか。オレを見て、手を振っていた。咄嗟にオレも手を振る。途端に、そのなんだかわからないひそひそが、やんだ。それでわかった。知明に似ているから、知明を知っている生徒たちがオレを見てなにか言っていたのだ。由紀乃の一言で、オレが知明じゃないことがわかったのだろう。

「オーイ、由紀乃。こっちも応援、頼むな」

と竹田が哀願するような声を出した。

 周りから失笑をかう。くすくす笑いが、雰囲気を柔らかくさせていた。ほうと長い息をつく。

 オレはもう一度、由紀乃の方を見上げた。すると、周りの生徒をかき分けて、由紀乃の隣に背の高いかなりのイケメンが立った。少し険しい顔をしてオレを睨んでいた。すぐにわかった。あいつが由紀乃の彼氏だということを。由紀乃は何か言われている。少し迷惑そうにしてなにか答えていた。


「竜介、お前も稽古してこい」

 部長が戻ってきた。今は試合に集中することにする。もうオレは由紀乃の方を見なかった。

 試合は団体戦で行われ、その後は個人戦となった。北高は、県の中でいつも優勝候補だった。簡単に団体戦は勝った。個人戦でもオレは順調に勝っていく。そして最後、竹田との勝負になった。

 竹田は上背もあるから、上段から振り下ろすスピードとその力はすごい。だけど、オレにはそれをかわすだけの足があった。竹田はそれをよく知っている。奴にとってオレはちょこまか動く、最もやりにくい相手なのだろう。


 竹田は腕を上げていた。中学の時の知っている竹田ではなかった。体のでかいのを利用して、剣の行きとどく範囲と上から振りかざす速さに目を見張った。

 気を付けないと一足一打の間合い(一歩踏み込むと相手を打つことができ、引けば相手の投打を免れる基本的な間合い)を保つことができない。一挙に打ち込まれたらかわせないかもしれないと思った。

 気合いの声を張り上げながら、隙をみる。足を使い、その一瞬をついた。カンでいけると思った。オレはもうその時、すでに踏み込んでいて、竹田の胴を打っていた。

 決まった。周りが湧いた。オレの勝ちだった。その嬉しさも表情に表さずに、礼をして戻る。終わった、北高の圧勝だった。

「よかったよ、竜介くん」

 はっとする。茜がオレを見て笑った。

 なんだか久しぶりに見る笑顔だった。オレも笑う。

「あの人、由紀乃さん? 来てるよ」

 茜にそう言われて振り向くと、二階から降りてきた由紀乃がいた。笑顔で走り寄ってくる。


「よっ」

「すごかった、竜介くん」

 褒められてうれしい。

「まあな。オレの本気はこんなもんだ」

 照れ隠しにそう言う。

「すっごくかっこよかった」

「そうか」

 周りの生徒がちらちら見ていた。

「知明くんはどう?」

「毎日顔を見に行ってる。相変わらずだ、あいつは」

「そう、今度、皆でお見舞いにいくの」

「行ってやってくれ、喜ぶ」

 ちょっとそっけないほどの返事になる。


「私、今週で寮に入る」

「そうだってな」

「孝江さんからメールもらってるの。二人でご飯、食べようって」

 オレ達は周りの目を気にしながら話していた。どうしても箇条書きの近況報告のような、味気ない会話になった。もう少しゆっくりと目を見て話したかったけど、オレ達はもう行かなくてはならなかった。

「メールするね」

「うん、待ってる」

 チラリと由紀乃の彼氏の姿を探す。しかし、どこにも見あたらなかった。他校の奴を応援したから叱られたかもしれない。


 帰りの車の中は、みんな上機嫌だった。茜もオレの隣に乗り込んできた。いつもの風景だった。

「いいな。私も、メールするって言ったら待ってるっていう人、探さなきゃ」

と、茜に言われた。

 なんだか、茜も吹っ切れたようだった。

 

剣道に関しては素人です。

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