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One Love ラプソディー  作者: 五十嵐。
第三章 やらずに後悔するよりも、やってけじめをつけると、次に進めるかもしれない。
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第二話

長文です。

 二人で教室へ入った。

 席についている人、まだ、友達の席にいてしゃべっている人もいる。みんな、知明と私が入ってきたことなんて関心を寄せてはいなかった。たった一人を除いては。

 杏理が驚いた表情をむけていた。明らかに私たちが一緒だったことを気にしている目だった。

 あれ?って思う。杏理って知明くんのこと、気にしてる?


 すぐに数学の先生が入ってきた。数学が苦手な私は、人一倍努力しないと追いつかない。もう私の意識から、杏理と知明のことは消えていた。


 放課後になると、知明は明日からの入院の準備のため、図書室へ行った。

「じゃあね」と、私も手を振る。

 それを見ていた竹田厚司がからかうように寄ってきた。

「なんだよ、由紀乃。浮気か?」

「別にそんなんじゃないよ」

と、口ごもる。そう、少なくとも知明にではない。

「同じ本好きってわかったの。今日の昼休みに図書室で一緒になって」

 竹田はつまらなそうな顔をした。

「なんだ、そうなのか。まあいいや。あいつ、しばらく休むって言ってたな」

 その言葉に改めて竹田を見た。

 そう言えば、竹田と知明は割と仲がいい。よく話をしているところを見かけていた。

 静の知明と、どちらかというと竹田は動の方だ。竜介の方に近い。

「竹田君、剣道部だったっけ」

 竜介で思い当った。竹田は竜介を知っているかもしれないと思った。


「そうだよ。なんで?」

「あのさ、知明くんの弟、竜介くんって知ってる?」

 竹田が目を丸くして見ていた。なんで知ってるんだって言う顔。

「ちょっと最近、知り合ったの。彼も確か剣道をやっているって聞いたから」

「知っているも何も、同じ道場でいつもライバル意識をしていた奴だ。この高校へ入って、同じ顔をした別人の知明を見てびっくりした。あんなに驚いたことってなかったな」

 わかる。その気持ちと思って苦笑した。

「兄ちゃんもいい奴だけど、弟もおもしろいやつだよな」

 竹田は百八十センチの堂々たる体躯で笑った。


 放課後、私と杏理、沙織の三人はバドミントン部の部活で汗を流していた。校庭十周のランニングから始まり、ストレッチングをする。

 それから体育館へ入って、乱打の練習をしていた。

 なぜか今、杏理はいつもよりもずっと口数が少なくて、沙織も浮かない顔をしていた。杏理の方は思い当たることがある。知明のことだった。後で本当のことを聞き出してやろうと思う。あの時の困惑した表情は、絶対知明と私のことを意識していた。

 おとなしい杏理は、私にそんなことを直接聞いてこないだろうし、もし私が知明のことを好きだといったら、無理して笑って、応援するねって言うだろう。杏理はこのままずっと片思いのままでいるだろうし、知明もそういうことにはうとそうだった。この二人がくっつくには、私の手助けが必要だと思う。

 沙織は?わからない。何がそうさせるのか。何かを思い悩んでいる様子だが、それをぶつけてこなかった。本人が何も言ってこないのは、人に話せる段階ではないのだろう。彼女の中には自分で乗り越える強さがあった。沙織は何か言ってくるまで、そうっとしておこうと思っていた。


 男子のコートに目を向ける。あちらも同じく乱打をしていた。豊和はその隅で、サーブの練習をしていた。彼は一際目立つ。背も高いし、その体をしならせて打つ、シャトルは弾丸のように飛んだ。

 豊和が、私の視線に気づいた。にっこり笑う。私があんなに冷たくあしらったのに、笑いかけてきた。もともとプレイボーイっぽいし、女の子の方から離れていくことが許せないのかもしれない。たぶん、一度ここでやさしい顔を見せ、寄りを戻してから、ぽいと捨てられるのかもしれない。それはそれでいいと思う。

 部活が終わり、更衣室で順番にシャワーを浴びた。着替えで混雑している中、私は杏理にそっと言った。

「ね、なんか食べて帰ろ。杏理に話があるし、ちょっと行ってみたいお店の情報、仕入れてきたし」

 杏理はうなづいた。それだけで、沙織には何となく内緒なんだという意味が伝わっていた。

 竜介のことを話すつもりだった。光司の働く店に行こうと思っていた。


 有田駅から出ると、広場がある。その向かい側に立つビルの一階にスターボックスはあった。何の変哲もないビルだが、深緑に塗られた窓枠とドア、そして作り付けられた屋根があり、ちょっと見ると独立したレストランにビルが伸びているように見えた。

 杏理も初めてくるという。

 中は混んでいるようだった。時間が六時半という夕方で、前には二組のカップルが席が空くのを待っていた。


 店内は、かなり照明が落としてあり、薄暗い。それぞれの席の真下に吊るし下げられたライトが、そのテーブルだけをうつしだしていた。これなら本も読めるし、それでいて周りが薄暗いから他の客同士の視線が絡むこともない。過剰な目隠しもいらなかった。


 フロントの案内係の女性に聞くと、今からなら三十分待ちだということだった。

 杏理に、どうする?と目で問う。喉もカラカラ、お腹もすいている。こんな状態で三十分は長いと思う。仕方がない。隣のハンバーガー屋へ行って、ここは次の機会にまた来ようと思った。別にここでなくても話はできるのだから。

 私はそっと杏理に言った。

「隣へ行こう。また来ればいいよ。お腹すき過ぎてる」

 杏理がそれにうなづき、立ち上がった時だった。

 入口のドアが勢いよく開き、体のがっしりした高校生の男の子たちがどやどやと入ってきた。七、八人はいる。あっという間に入口が人でいっぱいになった。私たちは出るに出られなくなっていた。

 

 一番最初に入ってきた男子学生が叫んだ。

「お~い、竜介。予約入ってんだろっ」

 はっとした。よく見ると彼らの着ている制服は北高のブレザーだった。

 竜介がいるの?どこ、まさか。

 思わず、男の子たちの顔を見て、竜介を探した。一番最後に入ってきた人がいた。中へ向かって叫ぶ。

「加藤で入ってる。十名で予約、でも八人になったって言ってくれっ」

 杏理の鼻先にいた。

「えっ、うそ。加藤くん?」

 杏理らしくない大きな声が出ていた。それぞれの話でがやがやしていた男の子たちが一斉に注目した。竜介はきょとんとしている。

 男の子たちは、杏理と竜介を見て途端にはやし立てた。

「竜介の知り合い?彼女?南高だよね」

「硬派の竜介に、隠し彼女がいた」

 かわいそうに杏理は、訳もわからず真っ赤になっていた。


 助け舟を出すつもりで私は叫んでいた。

「竜介くん」

 背の高い男の子の中で、背伸びをして顔を出した。竜介がやっと私の方を見た。

「あっ由紀乃」

 竜介が周りを押しのけて近づいてきた。思わぬ再会だった。

「なんだ、竜介。そっちの彼女とも知り合いか?」

 今度はからかいの矛先ほこさきがこっちに向いた。


 そこへ光司が出てきた。

「うるさい。他のお客さんに迷惑だろっ。こんな一番混む時間に十名の予約しやがって。料理代、倍にしてやる」

と、怒鳴ってから、光司も私をみた。

「えっ、由紀乃ちゃん。なんで?一緒?」

 光司は周りの北高の男の子たちと私たちを見た。

「いえ、ちょっと前に入っていたんですけど、三十分待ちだっていうので、・・・・帰ろうかって」

 さすがに隣のハンバーガー屋へ行くとは言えなかった。光司の目が厳しくなる。

「ボクを呼んでくれたらよかったのに・・・・。そのまま帰ろうとしていたなんて」

 あとの言葉が続かない。ショックだったようだ。

 レジのところで案内役の女性がたじろいでいた。

「あのう、東野さん。お客様をご案内してもよろしいですか?」

「あ、すみません。こんなところで大騒ぎをしてしまって。じゃ、奥に団体席を設けてありますから、そこへ入れてください」

 光司は他の二組のカップルにも笑顔を向けた。

「こちらの方も今テーブルを片づけておりますので、すぐにご案内いたします」と言った。カップルたちも安心した笑顔になった。


 案内役の女性がメニューの束をもって、竜介たちのグループの先導していく。

「由紀乃ちゃんたち、二人だけ?だったら竜介たちと一緒に入って。もともと十五人くらい座れる団体用の場所なんだ。テーブルを離してあげるから。あいつらと一緒に座ったら、からかわれるだけだからね」

「いいんですか?」

「大丈夫だよ。ちょっと待ってて」

 すぐに他のウエイトレスが来て、他のカップルたちを案内していった。

 その場には杏理と二人きりになった。

「ね、あれ・・・・。どういうことなの?あの人は加藤くんじゃないよね。別人だよね」

 別人だと言ってくれっという叫びが聞こえるようだった。杏理が興奮していた。初めて見る光景かもしれない。顔に赤みがさし、目が大きく見開かれている。声も大きい。

 こういう杏理も好きかもって思う。

「あの人、竜介くんっていうの。知明くんの双子の弟」

 杏理は合点がいったという顔をする。

「北高だし、性格が全然違うから、最初はみんな驚くの。私もそうだったしね」

「由紀乃ったら、いつ知り合ったの?親しいみたいだし」

「一週間前の週末。だから、そのことも話そうと思って誘ったの」


 光司が戻ってきた。

「お待たせしました」

と言い、メニューをもって席にあんなにしてくれた。

 団体席には竜介たち、八名が座っていた。みんな、必死でメニューを見ている。あちらも部活が終わって、空腹なのだろう。

 由紀乃たちは、席を離してくれた窓際の席に座った。これなら声を落として話せば、聞かれることはないだろう。

 チラリと竜介を見た。向こうもメニューを持ったまま、目線だけ動かして、こっちを見ていた。目が合った。にっこり笑うと向こうの目も笑う。

 ふと、強い視線に気づいた。竜介の隣に一人だけ女の子が座っていた。その顔がじっと私を見ていた。

 あっと思う。その目は何も隠そうとせず、動揺もなく、正面から私を見ていた。にらみつけているわけではないが、笑いかけているわけでもない。あちらが、私に興味を持ったということを、全身であらわせていた。竜介に関することなのだろう。一瞬、竜介の彼女なのかと思った。しかし、知明は、竜介には特定の彼女はいないって言っていた。それでもとにかく、気になる存在だった。


 竜介たちは、皆が料理の注文を終えるとミーティングに入った。その紅一点の女の子が、鞄からバインダーを取り出した。

 通る声で話すから、その内容までがこっちに聞こえていた。ふざけて聞いていない部員には鋭い注意もする。

「ひえ~、茜マネジャー、きつい」

と、あからさまに言われても動じない。茜と呼ばれた彼女は、顧問の先生からの言葉や今週の練習予定を話していた。

 はきはきとした気の強そうな人だと思う。その茜が一瞬間をおいた。

「今度の木曜日、遠征で南高と練習試合があります。その時の出場メンバーを部長から発表してください」

 南高と練習試合。

 どきっとした。北高の剣道部が一斉に私たちを見た。

「お~い、由紀乃。木曜日に南高へ行くぞ。よろしくな」

「うん」と答えるが、杏理はみんなの視線が恥ずかしくてうつむき加減だった。 

 竜介は、他の男子にからかわれていた。由紀乃なんて呼び捨てにする仲なのかと。

「そんなんじゃねぇよ。でも、由紀乃は由紀乃なんだ」

と訳の分からない理屈を言っていた。

「茜女房が怖い顔、してっぞっ」

 その指摘で、茜が顔をそむけた。ずっと私のこと、見てた?


 一際ひときわ背の高い男子生徒が、コホンと喉を整えるように咳払いをした。静かにしてこっちに注目しろという注意であった。

 彼は選手の名前を告げていた。呼ばれた本人は「はい」と返事をしていく。竜介も名前を呼ばれ、返事をしていた。


 木曜日、竜介が南高へ来る。竜介の剣道をする姿が見られるのだ。うれしかった。

 やがて、竜介たちのほうはそれぞれの雑談となり、こっちへの関心が薄れていた。少しほっとする。これでこっちも自分たちの話ができる。

「ねえ、由紀乃はなんであの人のこと、知ってんの?竜介くん?っていうのね。親しいみたいだけど」

 杏理には、あの夜のことを細かく話した。危ない時に声をかけたことから、ファミレス、カラオケ、ついには彼のところへ泊ったことも。

 杏理は絶句していた。

「やあね。なんでもないし、さっきの光司くんが従兄で叔母さんも一緒に住んでたし、本当に休ませてもらっただけなの。それで今日、そんな話を知明くんと話していたの」

 杏理は安心した顔になった。由紀乃が恋敵だったらどうしようと本気で思っていたに違いない。

「ねえ、杏理はさ、知明くんのこと、好きでしょ」

 杏理がたちまち、真っ赤になった。図星だった。

「告白したの?まだ?」

 そんなこと、できるわけないとつぶやき、ぶんぶんと首を振る。

「加藤くんのこと、一年の時から好きだった。去年も同じクラスで、話したかったけど全然話せなくて。見ているだけでいいの。学校に来てくれればそれでいい」


 話をするところからスタートなんだ。それもまだだという。

「加藤くんは恋愛に関することは興味なさそう。こっちから話しかけないとさ、あっちからのアプローチを待ってたら、卒業式を迎えちゃうよ」

「わかってる。わかってるけど」

 ぼそぼそと言った。

 杏理は女の私が見てもかわいらしい。日本人形のように色白で、少し切れ長の目をしていて、それに合った小さな鼻と口をしていた。バランスの取れている顔だった。性格もおとなしく、グループの中にいるといつも聞き役になっていた。あの知明と杏理はいいカップルになれると思った。

 お互いを愛おしそうに見つめ、二人とも静かな口調で話す。時折、知明が言う冗談にも、杏理は気づかずにいてきょとんとして、説明されて初めて笑うようなそんな光景が浮かんだ。

 不思議なくらいぴったりなカップルだった。


「私がくっつけてあげる」

 私が言うと、杏理は不安そうな影を見せた。

 私はこのままでいいという叫びが聞こえるようだった。しかし、それを口にしないのは、きっとどこかでそうしてもらいたいと望んでいるのだろう。

「加藤くん、明日から入院するんだって。一緒にお見舞いに行こうよ。メルアドもらってるから、メールすればいつ頃行けばいいかわかるし」

「えっ、いつの間にメルアドなんてもらったの」

「今日、図書室でね。竜介くんに連絡してやってくれって言われた。加藤くんはついでに自分のも書いてくれたの」

「そう・・・・・・いいな、由紀乃は」

「え?」

「誰とでも気軽にしゃべれるから。好きな人とも積極的にアタックするタイプだし」

 豊和の事を言っているのだった。一年の時、豊和が好きになった。他の女の子がアプローチしてこないうちに、由紀乃から告白して付き合い始めたのだ。

「ん~。なんていうか。黙っていられないの。好きだったら好きって言っちゃう。言いたい。それでだめならさっさと諦めちゃう」

「いいな、そういうの。私はだめ」

「杏理の方がかわいいよ。私が男の子だったら、杏理の方を好きになる」

 やだ、と杏理は笑った。


 言いたいことは言ってしまう、決めたことは頑張ってやる、そんな強気な私だけど、自分でも歯がゆいほどうじうじしたところもたくさん持っていた。そういうものは表面に出さないようにしているから、気づかれないだけだった。自分でもコントロールできない弱さと嫌な部分をもっていた。


 由紀乃たちの料理は光司が運んでくれた。

「ごめんね。大変お待たせしました。サービスにこの後、ケーキを付けるから注文しないで」

「あ、そんな・・・・。大丈夫です」

「いいよ、だってさ、本当は帰るところだったんでしょ。このくらいサービスしないと次もまた来てもらえないからね。後でくるからどのケーキがいいか選んでおいて」

 光司はそれだけ言うと行ってしまった。

「あの人が加藤くんたちの従兄なんだ」

「そう、料理が得意なの。ここのメニューの殆どが彼の意見が入ってるって聞いた」

 へ~えと感心する杏理だった。料理はやはりおいしかった。


 竜介たちは食べるだけ食べたらもう帰る様子だった。それぞれが席を立つ。そしてみな、私たちに手を振っていく。

「じゃ、木曜日に」と、言ってくる人もいた。

 茜はちらりとこっちを見て、軽く会釈をした。私も慌てて返す。

 竜介はこっちのテーブルに来た。

「あれからお婆さんたちのこと、大丈夫だった?」

「うん、和解したよ。もう大丈夫。元通り」

 本当に竜介には感謝だ。

「いつ、引っ越すの?」

「私は今週末」

「そっか、大変だな。手伝いに行こうか?」

「いいよ。私なんて大した荷物じゃないし。知明くんから竜介くんのメルアド、教えてもらった。今度メールするね」


 あっという表情をする竜介。知明が何をどこまで話したんだろうという模索の表情だった。知明の入院のことを聞こうと思ったが、後ろから茜が顔をだした。

「加藤くん、行くよ。みんな外で待ってる」

「あ、うん、今行く」

 茜はずっと竜介のそばにいた。ずっと見つめていたのだろう。そして彼女は竜介を通り越して、私のことも見ていた。

「じゃまたな」と竜介が言った。

 私も「またね」と言った。竜介は、杏理にぺこりと頭を下げて茜の方へ歩いていく。

 もうすぐまた会える。木曜日になれば会えるのだ。


 隣の団体がいなくなって、その静けさに少し淋しさを感じていた。

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