どげんかせんといかん
朱音に相手にされなかった俺は、帰ってきた陽介と佐武の二人に何を話したのか聞いてみた。だけど、うまい具合にはぐらかせて結局わからず仕舞いだ。ただ、陽介がえらく落ち込んでおり、ふられたのだろうかと予想を立ててみたのだが、佐武の様子を見る限りそれはないだろう。なんか佐武のほうも陽介に負けじとというくらいの落ち込み具合だしな。ふったヤツまでこんな態度はとらないだろう、たぶん。
よくわからないが陽介ざまぁとか思いつつ、ゲーム組みのほうへ。相変わらず朱音がバッタバッタとそりゃあもう見事なほど完膚なきまでに、小学生組みをフルボッコにしていた。手加減っていうのを知らないのか。……あ、こいつ初めてこのカクゲーやるだっけ。
ああくそ。俺も朱音と戦ってみたいぜ。
うずく腕をおさえ、なんとかこらえる。本当ならば今すぐにでも是非俺も混ぜて! と懇願する思いでいきたいところなのだが、朱音に対する安っぽいプライドが邪魔していけない。
俺はどうするべきかと頭を悩ませていると、意外にも陽介が助け舟をだしてくれた。
「僕、朱音さんと戦ってみたいです」
よくいった、陽介! それでこそ男だ! これに俺も便乗すれば、なんとか――。
「ん。別にボクはかまわないけど、そしたら誰か陽介くんと交代しなくちゃだめだね」
「あ、そうですね。それじゃひな――」
「嫌」
「……さつ――」
「ご、ごめんね、佐竹くん」
「…………あ、あや――」
「あ、あのごめんなさい!」
陽介撃沈。どうやら全員、けっこうな負けず嫌いらしい。もしかしたら月城さんならと思っていたが、最後の砦にも見事裏切られたようだ。それにしても今の陽介、すごい顔文字みたいな感じになってる。ワロス。
この様子からすると、六年生女子組みが勝つまで俺もできなさそうだ。こいつの助け舟に乗らなくてよかった。危うく俺まで沈むところだった。
陽介に憐憫の意をこめた視線を送ると、やつはあろうことか俺を睨み付けてきやがった。ふっ、お前が勝手に自爆したのだから、俺を攻めるというのは筋違いというものなのだよ。
「あはは……そういわず、かわってあげようよ」
「私たち、朱音さんに勝つまでやめません!」
「……うーん、そうだなあ。じゃ、ここは一つ、活樹にまかせてみないかい、君たち」
「え? おにいさまに、ですか?」
「うむ。活樹はなかなかの手練のようだし、ここは一つ!」
もしかして、こいつも俺と戦いたかったのだろうか。俺と同様、理由もなしに誘うことができなくて、この展開に持ち込み俺と勝負をしようっていう魂胆だろうか。
だ、だとすればあれだな。別に断る理由などないな、うん。あ、あくまで俺はコイツがやりたいっていったからなんだからね、勘違いしないでよっ!
なんて一人ツンデレをやったところで、ムホンと咳払いをし、
「か、勝手に決めるな。だ、だけどどうしてもっていうなら……その、アレだ。うん」
「じゃあ決まり! 負けたらなんでもいうこときくことね!」
……あれ、なんかすごい大事になってない? でも俺はあくまでこいつらの戦いの代理なわけだし、負けても勝ってもなんもいいことはないような。だけど俺はやらせていただく身。そんな贅沢はいえまい。
……いやでもまてよ、俺が勝てばもしかしたら朱音に言うことを聞かせられるのではないのだろうか? あとで言い訳めいたことを言われても、俺が戦ったんだー! みたいなことを言えば――。
少しの間メリットについて考えていると、アチラでも話が進んでいたようで耳を傾けると――
「じゃあルールは勝ったほうが活樹を一日下僕にできる権利を――」
「ちょっと待て?!なんかさっきのルールものすごく大幅に変更されてると思うんだが。しかも戦うの俺なのに、なんで俺が下僕になるって決定してんの?!」
「いやほら、活樹は代理だし」
「代理ってもしかして戦いの代理じゃなくて、言うことを聞くほうの代理?!」
「それ以外になんかあるの? あるぇー、もしかしてボクとゲームしたかったのかなぁ?」
ニヤニヤと笑いながら俺のことを見る朱音。……もしかすると、この展開を作った理由って俺と戦いとかそんなのはまったくなく、俺に言うことを聞かせたりただ俺をからかって遊びたかっただけ? だとしたらな、なんて卑劣な罠なんだ……。
つか、この状況だと朱音が勝つことは明白! さっきの戦闘みる限り、この三人が束になってもかないっこなさそう! ちょっと失礼だけど!
どうすれば自分は迅速に楽に安全圏にいけるか、考えてみたがまったく思い浮かばない。下僕になるつもりはないといえば、うそつき呼ばわりされなんかよからなくことを言いそうだ、朱音の場合。その場合、誤解を解くのに時間がかかりそうで、それはそれでめんどい。
ここはいっそのこと、ヤツの提案に乗るのはどうだ? そうだ、俺はお前とゲームがしたいのだ! と。……一番やばそうな展開だ。日向がいないならば、使えたのだがな。身の安全も考慮して、考えなければ……。
ううむ、と考え込んでいると、おずおずと佐武がいいずらそうに手を上げた。
「あ、あの! あたしもそれ、まぜて欲しいんですけどっ」
「ん、ナギちゃんも? あー、活樹を下僕にしたいの?」
「い、いやそのね、別に下僕にしたいとかそういうじゃなくて、その……。どっちかっていうと奴隷にしたい的な……?」
思わぬ佐武の参戦奴隷宣言に、みなが凍りつく。もちろん、俺もそのうちの一人である。
明らかに扱いがひどくなってますよね、奴隷って。まだ下僕のほうがいいよ、だって人権があるんだもの……。
俺の妹のブラコンぶりをみても動じなかった朱音が、さすがに驚いたような顔を浮かべ苦笑いを浮かべている。俺にとっては、笑顔も浮かべれないのだが。
すると、みんなの様子を見て何を思ったのか佐武は慌てた様子で口を開く。
「ち、ちがっ! そ、その、口がすべったっていうか、奴隷じゃなくてあれ、だから佐竹をあたしのものに――」
「え? お、俺がなんだって?」
「だめです! おにいさまは私のものですよ、ナギさん!」
「あああああ?!ち、違うの! 佐竹をあたしのものになんてしたくないの、本当に!」
顔を真っ赤にしながら意味のわからないことをいきなり言い始める佐武。こりゃ早よどげんかせんといかん。ものすごいてんぱっていらっしゃる。とりあえず、落ち着かせなければ。
朱音にアイコンタクトを送り、俺の意思が通じたのか二人で止めるべく動こうとするがその前に撃沈したはずの陽介が復活していた。俺よりはやく、佐武のもとへいきなにやらゴニョゴニョと耳打ちしている。それを聞くなり、なぜか佐武は冷静になったようで、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「ご、ごめんなさい。へ、変なこといっちゃって」
「別に俺は気にしてないけど……」
それは事実なのだが。だけどどうも六年女子の皆様の機嫌がよろしくないようだ。恐らくその原因は日向と月城さんは嫉妬、神林さんはわからん。
ここは俺が仲を取り持つべきだろう、一応中立な立場として。
「よし、じゃあもうここはみんなで七並べやろうぜ! ちょうど七人いるし!」
「却下」
朱音さんに即答されました。
「……ま、何をするにも実力で語りなってヤツ? こうなったらもう、みんなで乱闘だな」
「ら、乱交……?」
「乱闘だこの変態の馬鹿たれめ」
変態の馬鹿扱いされた。だってそう聞こえたんだから、しょうがないじゃん。
まあ冗談はさておき、俺が一番聞きたいこと。
「ちなみにそのらんこ……乱闘に勝ったらどうなるの?」
「もちろん活樹を一日下僕に――」
「却下」
「君が犠牲になれば全て丸くおさまり、解決するよ?」
「……」
どうすりゃいいのさ。どんだけ俺を下僕にしたいんだ、こいつは。
結局、この険悪な雰囲気を解消するには犠牲を伴わないとだめなのか。ならば、多少なりとも妥協はせなばなるまい。
「い、一回だけだ。それ以上はだめ。一日なんてもってのほか」
「……オーケー。んじゃま、しゃあねえか」
なにがしゃあないのか、わからんがこれでよしだな。一回だけなら、なんとかなりそうだし。……てかなんで、俺が犠牲にならなきゃいかんの? 俺関係ないよね、実際。
このもっともな結論にようやく至ったのだが、時既に遅し。すでに朱音がみんなに言いふらし、参加するものと参加しないものとでわかれた。参加する側、朱音、佐武、日向、神林さん。ジャンケンで負けたのか悔しそうな陽介。ざまぁ。
まあ朱音や日向はともかく、佐武と神林さんは俺になにをやらせる気なのだろう。とにかく俺は焼け石に水だろうが、朱音と日向が勝たないことだけを祈った。
もう九話目か……。
それにしても短編集みたいにしたかったのだが、長編だなこりゃ。
うーん、中編っぽくすればいいかな。
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